第255章 使われなかった連絡先
翌朝、山本は介護サービスの担当部署から連絡を受けた。
妻の次回の連絡について、担当者が夫に直接確認したという。
夫は、これまでどおり自分を連絡先として扱ってほしいと伝えていた。
その内容は、面談記録にも残されていた。
しかし、連絡予定の一覧には、依然として別の電話番号が表示されていた。
山本は画面を確認した。
「本人の意向は確認できています。それでも、連絡予定の番号が変わっていないのですね」
担当者は答えた。
「はい。面談記録は更新されていますが、連絡予定の一覧は別の処理で作成されるようです」
「その処理は、どの情報を参照しているのでしょうか」
「システム担当に確認しています。ただ、現時点では分かりません」
山本は、連絡予定の一覧を保存した。
夫の意向は確認できた。
面談記録にも残っている。
一方で、実際に使われる予定の番号は、まだ変わっていない。
山本は森川に報告した。
「本人の意向を確認しただけでは、連絡予定の一覧には反映されないようです」
森川は資料を見た。
「なら、記録を更新する処理と、連絡先を決める処理がどうつながっているのかを調べよう。片方の画面が正しいからといって、もう片方も正しいとは限らない」
山本は頷いた。
担当部署には、次回の連絡前に番号を再確認するよう依頼した。
原因が分かるまで待つのではなく、実際の連絡で間違いが起きないようにする必要があった。
*
昼前、高瀬は五〇二号室の記録について、旧管理区分の保存資料を再確認していた。
前回の照会では、参照先の設定履歴は見つかったものの、対象記録の保管先は分からなかった。
今回は、設定履歴の前後に作成された管理記録を調べていた。
その中に、一つの記載が見つかった。
『参照先設定後、対象記録との対応確認を実施すること』
高瀬は、その記載を森川に見せた。
「参照先を設定したあと、対象記録との対応確認を行う手順があったようです」
「実施した記録は?」
「今のところ、見つかっていません」
森川は、文書の日付を確認した。
「この手順は、今回の設定にも適用されていたのか」
「そこは、まだ分かりません。文書が作成された時期と、設定履歴の時期は近いのですが、適用対象を示す記載がありません」
「では、当時の運用範囲を確認しよう。手順があったことと、実際に適用されたことは分けておく」
高瀬は記録を整理した。
参照先を設定したあと、対応関係を確認する手順が存在していた。
しかし、五〇二号室の記録について、その確認が行われたかどうかは分からない。
また、対応確認の結果が別の管理区分に保存される運用だった可能性も、現時点では否定できなかった。
高瀬は、次の照会先を確認した。
今度は、設定後の対応確認を担当していた部署の保存資料を調べることになった。
*
午後、アポロンは休憩時間に携帯を開いた。
美咲から届いたメッセージは、今日も残っていた。
昨日の送信履歴が消えた件について、再び同じことが起きたわけではない。
美咲からも、追加の連絡はなかった。
アポロンは、携帯を閉じた。
そのとき、画面の端に小さな通知が表示された。
連絡先情報の更新についての案内だった。
アポロンは通知を開いた。
連絡先の一部について、表示名と参照情報の再確認が必要だと書かれていた。
対象の連絡先を開くと、名前は残っていた。
電話番号も残っている。
ただし、詳細情報の一部は読み込めなかった。
アポロンは、もう一度画面を確認した。
昨日まで見ていた表示と、大きな違いはない。
それでも、詳細情報の参照状態だけが変わっていた。
彼は、表示された文面を保存した。
理由を推測するためではない。
あとで状態を比較できるようにするためだった。
*
仕事が終わると、アポロンは携帯の案内に記載されていた問い合わせ先を確認した。
案内には、連絡先情報の再確認を受け付ける窓口が記載されていた。
アポロンは、必要な情報を入力した。
連絡先の名前。
現在表示されている電話番号。
詳細情報が読み込めなくなったこと。
いつからその状態になったのか、正確には分からないこと。
入力できる項目を埋め、送信した。
画面には、受付番号が表示された。
『お問い合わせを受け付けました』
『回答予定:未定』
アポロンは受付番号を手帳に書いた。
問い合わせは受け付けられた。
しかし、原因も、復旧するかどうかも、まだ分からない。
彼は携帯をしまった。
*
帰宅すると、美咲が先に家にいた。
「今日は早かったんだね」
「うん。仕事が少し早く終わったから」
アポロンは、問い合わせをしたことを話した。
美咲は、保存した案内を確認した。
「問い合わせは受け付けられたんだね」
「そうだ。けれど、回答予定は決まっていない」
「受付番号があれば、あとから確認できるのかな」
「そう書いてある」
美咲は頷いた。
「じゃあ、その番号は残しておこう」
アポロンは手帳を開き、番号をもう一度確認した。
「美咲のメッセージが消えたことと、今回の表示の変化が関係しているかどうかは分からない」
「うん。別々のことかもしれないし、何か共通することがあるのかもしれないね」
「まだ、確かめられていない」
「だったら、今はそう書いておけばいいと思う」
美咲は夕食の皿を並べた。
二人は食卓についた。
*
その夜、森川は高瀬から届いた資料を確認していた。
五〇二号室の記録。
連絡先の案件。
それぞれに、参照先に関する不一致が見つかっている。
しかし、現時点では、同じ処理によって起きたと判断できる証拠はなかった。
森川は、二つの案件を別々の調査記録に残した。
共通する項目は、比較対象として記載した。
一方で、原因の欄には、どちらも未確認と記入した。
まだ、説明できることは少ない。
それでも、何が確認できていて、何が分かっていないのかは、以前より明確になっていた。
森川は資料を閉じた。
調査は、まだ終わらない。




