第254章 連絡先の向こう側
翌朝、山本は介護サービスの担当部署から届いた回答を確認した。
妻の連絡先について、登録情報には変更がなかった。
しかし、次回の連絡対象を抽出した一覧では、夫の名前が除外されていた。
山本は、二つの資料を並べた。
登録情報には、名前も電話番号もある。
面談記録には、本人が連絡先を継続する意思を示したことも残っている。
それでも、連絡対象の一覧には名前がなかった。
山本は担当部署に電話をかけた。
「この方は、現在も連絡先として登録されていますよね」
「はい。登録画面では確認できます」
「では、なぜ連絡対象から外れているのでしょうか」
電話の向こうで、担当者が資料を確認する音がした。
「抽出条件に該当しなかったようです」
「どの条件に該当しなかったのですか」
「そこは、システムの担当部署に確認しないと分かりません」
山本は、回答を記録した。
登録情報が存在することは確認できた。
連絡対象から外れた理由は、まだ分からない。
「次回の連絡予定が近いので、実際にどの連絡先へ通知する予定なのかも確認してください」
「分かりました。担当者に確認します」
電話を切ったあと、山本は森川に報告した。
森川は資料を読み、尋ねた。
「このままなら、次回の連絡でも同じことが起きる可能性があるのか」
「はい。現在の抽出条件が変わらなければ、同じ結果になる可能性があります」
「では、原因の調査と並行して、次回の連絡方法を確認しよう。本人の意向が確認できている以上、表示の調査が終わるまで何もできない、という話にはしない」
山本は頷いた。
*
午後、担当部署から追加の回答が届いた。
次回の連絡は、夫の登録番号ではなく、別の連絡先を使って行う予定になっていた。
その連絡先は、過去に妻の関係者として登録されていた人物のものだった。
しかし、現在の登録画面には、その人物の情報が表示されていなかった。
山本は、資料を確認した。
連絡予定の一覧には番号が残っている。
現在の登録画面では、対応する人物を確認できない。
さらに、連絡先の変更履歴にも、その番号を指定した記録はなかった。
山本は、担当部署に再び電話をかけた。
「この番号を、どの記録から取得したのか確認できますか」
「連絡予定の一覧に登録されている番号ですが、登録元までは分かりません」
「現在の登録情報からは確認できない番号ですよね」
「はい」
山本は、通話内容を記録した。
連絡予定の一覧に番号が存在することと、その番号が現在の連絡先として有効であることは、別の問題だった。
森川は、資料を受け取ると、しばらく考えた。
「まずは、連絡予定を作成した時点の記録を確認しよう。誰が、何を参照して、その番号を入れたのか。そこが分からないと、現在の登録情報と比較できない」
山本は、調査項目を追加した。
次回の連絡は、担当者が直接、夫に確認を取ることになった。
その場で、妻の今後の連絡先についても、本人たちの意向を改めて確認する予定だった。
*
同じ頃、高瀬は五〇二号室の記録について、統合管理領域の参照設定を調べていた。
前日に確認した設定履歴には、参照先が有効であることが記録されていた。
しかし、その先の対象記録は表示されなかった。
高瀬は、設定履歴に記載された管理番号を使い、関連する管理区分を照会した。
結果は、すべて同じだった。
『参照先:設定済み』
『対象記録:表示不可』
高瀬は、別の担当部署に問い合わせた。
「この管理番号について、現在の保管先を確認できますか」
担当者は番号を調べた。
「こちらの管理区分では、該当する記録を確認できません」
「旧管理区分から移管された可能性はありますか」
「可能性はありますが、移管先を示す資料が必要です」
「移管記録は、現在の資料からは見つかっていません」
「それでは、こちらでは判断できません」
高瀬は、回答を記録した。
参照先の設定は残っている。
しかし、現在の保管先を特定する情報は確認できない。
高瀬は森川に報告した。
「設定履歴にある管理番号から、現在の保管先をたどることはできませんでした」
森川は、報告書を確認した。
「分かった。では、設定履歴を作成した管理区分の保存資料を、もう一度確認しよう。参照先を設定したあと、どのような記録を残す運用だったのかも調べる」
「はい」
高瀬は資料を整理した。
五〇二号室の住民が求めているのは、記録がどこにあるのかという情報だった。
過去の記録が存在したことだけでは、答えにならない。
*
夕方、アポロンは店の裏で、仕入れ先から届いた納品書を確認していた。
健一が、電話の内容をメモした紙を持ってきた。
「さっきの納品分だけど、数量が違っていたらしい」
アポロンは納品書と実際の商品を確認した。
納品書には十二個と書かれている。
しかし、箱の中には十個しかなかった。
「二個足りない」
「そうだな。仕入れ先に連絡したら、出荷記録では十二個になっていると言っていた」
「実際に届いた数は、十個だ」
健一は頷いた。
「だから、配送担当にも確認してもらうことになった」
アポロンは納品書を机に置いた。
出荷記録では十二個。
実際に届いた商品は十個。
どちらかの記録だけを見ても、何が起きたのかは分からない。
しばらくして、仕入れ先から連絡があった。
出荷時の梱包記録では十二個を箱に入れたことになっていたが、配送途中の記録には、箱を開けた形跡も、数量を確認した記録もなかった。
不足した二個がどこで失われたのかは、まだ特定できなかった。
仕入れ先は不足分を再発送すると伝えてきた。
健一は、その内容をメモに残した。
「これで、明日の営業には間に合いそうだ」
「原因は分かったのか?」
「いや。足りない分を送ってもらえることは決まったけど、どこでなくなったかは分からない」
アポロンは、納品書の余白に記入した。
『受領数:十個。不足数:二個。再発送予定。原因:未確認』
健一は、その記録を見て頷いた。
「それでいい。届いた数と、これから届く予定の数は分けておこう」
アポロンはペンを置いた。
不足分が届くことと、最初の不足が起きた理由が分かること。
それもまた、別のことだった。
*
夜、美咲が帰宅すると、アポロンは夕食を温め直していた。
「今日は何かあった?」
美咲が尋ねた。
「納品された商品の数が、記録と違っていた」
「それは困るね」
「不足分は送ってもらえることになった。けれど、どこでなくなったのかは分からない」
美咲は食卓に座った。
「必要なものが届くことと、何が起きたか分かることは、別なんだね」
「そうだな」
アポロンは、昨日の携帯の画面を思い出した。
美咲の送信履歴にはなかったメッセージ。
自分の携帯には、確かに残っていたメッセージ。
まだ、その理由は分からない。
けれど、届いたことまで分からなくなったわけではなかった。
アポロンは夕食を並べた。
二人は、明日の予定について話しながら食事を始めた。




