↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様は、明日を知らない』 ――全知全能の神が、人間になった理由――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

252/290

第252章 残っているはずのもの

翌日、森川のもとに、新しい照会結果が届いた。


統合管理領域に登録された参照先について、設定履歴の一部が確認できたという。


山本は資料を開いた。


画面には、三つの項目が並んでいた。


『参照先設定:完了』


『設定日時:記録あり』


『設定担当:記録なし』


山本は、設定日時を確認した。


組織改編が行われた時期と重なっていた。


「この時期なら、移管処理の一環だった可能性がありますね」


森川は、すぐには答えなかった。


「可能性はある。ただ、移管処理だったと判断できる記録はあるか?」


「今のところ、ありません」


「では、設定日時が分かったことと、設定の目的が分かったことを分けておこう」


山本は頷いた。


参照先は設定されていた。


しかし、誰が設定したのか。


何を参照するための設定だったのか。


その二点は分からないままだった。


さらに、設定履歴に記録された番号は、現在の管理区分では使用されていない形式だった。


番号そのものは残っている。


だが、現在のシステムからは、その番号が指す先を確認できなかった。


森川は、調査記録に新しい項目を追加した。


『参照先設定の実施は確認。設定者および設定目的は未確認。現在の参照先との対応関係は未確定』


山本は、その記録を保存した。


     *


午後、五〇二号室の住民が管理事務所を訪れた。


山本は、調査の進捗を説明した。


「以前の番号について、参照先を設定した記録が一部見つかりました。ただ、その番号が現在のどの記録につながっているのかは、まだ確認できていません」


住民は、説明を聞いてから尋ねた。


「では、私の相談記録がどこにあるのかは、まだ分からないんですね」


「はい。現時点では、保管先を特定できていません」


「記録自体がなくなったのか、それとも別の場所にあるのかも?」


「そこも、まだ分かりません」


住民は少し考えた。


「分かりました。それなら、今の説明をそのまま記録してください」


山本は、記録用の画面を開いた。


「どのように記載すればよいでしょうか」


「以前の番号について、参照先を設定した記録は見つかった。でも、私の相談記録の保管先は分かっていない。そういうことですよね」


「はい」


「それと、私が記録の内容を確認したいと言っていることも、残してください」


山本は入力した。


住民は画面を確認した。


「これで大丈夫です」


山本が保存すると、画面の上部に通知が表示された。


『照会対応:完了』


住民は、その表示を見た。


「これは、何が完了したんですか」


山本は画面を確認した。


「今のところ、説明と記録の登録が終わったという意味だと思われます。ただ、この表示だけでは、照会そのものが解決したことまでは確認できません」


「では、照会が解決したという意味ではないんですね」


「はい。記録の保管先は、まだ分かっていません」


住民は頷いた。


「それなら、解決していないことも分かるようにしておいてください」


山本は、備考欄に追記した。


『本人は相談記録の保管先を引き続き確認することを希望。現時点で保管先は特定されていない』


保存後、画面の表示は変わらなかった。


『照会対応:完了』


山本は、その表示とは別に、住民の希望と未解決の事項が記録されていることを確認した。


住民は、記録の控えを受け取った。


「次に何か分かったら、教えてください」


「分かりました」


住民は事務所を出ていった。


山本は、しばらく画面を見ていた。


処理が終わったことを示す表示はある。


一方で、本人が知りたいことは、まだ確認できていない。


二つの状態は、同時に存在していた。


     *


夕方、アポロンは店で、翌日の仕入れに使う一覧表を確認していた。


新しい一覧表では、商品の管理番号が一部変更されていた。


健一が横から覗き込んだ。


「この番号、昨日までと違うな」


「うん」


「商品が変わったのか?」


アポロンは、商品名と容量を確認した。


「名前と容量は同じだ。仕入れ先に聞いてみよう」


健一が電話をかけると、仕入れ先の担当者が応対した。


番号の変更は、管理システムの更新に伴うものだった。


旧番号と新番号の対応表もあり、対象商品については、変更前後の番号が一致することを確認できた。


電話を切った健一が言った。


「今回は、番号が変わった理由も、同じ商品だということも分かったな」


「そうだな」


アポロンは一覧表に確認済みと記入した。


「でも、番号が変わったことだけでは、商品が同じかどうかは分からない」


「だから確認したんだろ」


健一は新しい一覧表を棚に置いた。


「明日の仕入れは、これを使えばいい」


「古い一覧表は?」


「変更前の記録として残しておく。何かあったら比べられるからな」


アポロンは、古い一覧表を別のファイルに収めた。


変更前の番号。


変更後の番号。


変更理由。


対応関係を確認した記録。


今回は、それぞれがそろっていた。


     *


仕事が終わったあと、アポロンは美咲と駅で待ち合わせた。


二人は、駅前の店で夕食を取ることにしていた。


「今日は少し遅くなっちゃった」


美咲が言った。


「連絡をもらっていたから、分かっていた」


「よかった。予定が変わったとき、ちゃんと伝わっているか分からないことがあるから」


美咲は携帯を取り出し、メッセージの履歴を確認した。


送ったはずの連絡が、送信履歴に表示されていなかった。


美咲は画面を何度か確認した。


「……あれ?」


「どうした?」


「さっき送ったメッセージがない」


アポロンは自分の携帯を開いた。


そこには、美咲から届いたメッセージが残っていた。


『少し遅くなるね。先に着いていて』


アポロンは画面を見せた。


「こちらには届いている」


美咲は自分の携帯と見比べた。


「本当だ。どうしてだろう」


「分からない」


アポロンは、メッセージの受信時刻を確認した。


確かに、待ち合わせの前に届いていた。


「少なくとも、連絡は届いていた。今はそれが確認できる」


美咲は頷いた。


「うん。でも、どうして私の画面から消えたのかは、分からないままだね」


「そうだな」


二人は店に入った。


食事を注文し、席に着く。


美咲は携帯を鞄にしまった。


「明日、時間があったら設定を確認してみる」


「分かった」


「アポロンのほうのメッセージは、消さずに残しておいてね」


「もちろん」


食事が運ばれてきた。


二人は、今日の仕事や翌日の予定について話した。


待ち合わせは成立していた。


メッセージも、少なくともアポロンの携帯には残っていた。


それでも、片方の画面から消えた理由は分からない。


アポロンは、そのことを忘れないようにしようと思った。


分かっていることを残すことと、分からないことを勝手に埋めないこと。


今の彼にできるのは、その二つだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。