第250章 処理の前後
連絡先の変更について、追加資料が届いたのは翌日の午前中だった。
高瀬は、変更前の情報、変更後の情報、そして参照先を再設定した処理の履歴を並べた。
三つの資料には、同じ処理番号が記載されていた。
処理が実行されたことは、これで確認できた。
問題は、その処理の前後で何が変わったのかだった。
高瀬は、変更前の連絡先を確認した。
男性と担当者の情報は、それぞれの登録欄に存在していた。
変更後の資料では、双方の登録が見つからない。
代わりに、別の管理番号が参照先として登録されていた。
しかし、その管理番号からは、現在の連絡先を取得できなかった。
高瀬は、資料を持って森川のところへ行った。
「処理の前後で、参照先の番号が変わっていることが分かりました」
森川は資料を受け取った。
「変更後の番号は、どこにつながっている?」
「現在の管理画面からは、参照先の情報を取得できません。番号自体は残っていますが、対応する連絡先は表示されません」
「その番号を管理している部署は?」
「まだ特定できていません」
森川は、資料を机に置いた。
「では、番号の登録先を調べよう。表示されない理由を、登録が削除されたからだと決めつけることはできない」
高瀬は追加照会を準備した。
今回の照会では、連絡先そのものではなく、変更後に登録された参照先の番号が、どの管理区分に属しているかを確認することにした。
*
昼過ぎ、回答が届いた。
変更後の番号は、現在の連絡先管理区分には登録されていなかった。
しかし、過去の管理区分で使われていた番号の形式と一致していた。
その管理区分は、数年前に統合されている。
回答には、統合後の管理番号へ変換するための対応表があると記載されていた。
ただし、今回の番号については、対応する番号が見つからなかった。
高瀬は、回答を森川に見せた。
「旧管理区分の番号らしいことは分かりました。ただ、統合後の番号との対応関係がありません」
「旧管理区分の番号なら、過去の移管記録を調べられるかもしれない」
「はい。管理区分の統合時に、すべての番号が変換されたのかも確認します」
森川は頷いた。
「それと、対応表にないことと、移管されなかったことは区別しておこう」
高瀬は、回答を調査記録に加えた。
変更後の番号は、旧管理区分で使われていた形式と一致する。
統合後の対応番号は未確認。
移管の有無も未確認。
調査は、もう一段階進んだ。
しかし、連絡先がなぜ表示されなくなったのかは、まだ分からなかった。
*
同じ日の午後、山本は五〇二号室の住民に関する調査で、旧管理区分の資料を取り寄せていた。
前回の照会では、現在の管理画面から参照できない記録が、統合管理領域に登録されていることが分かった。
今回は、旧管理区分の番号が、統合後にどのように扱われたのかを確認する必要があった。
山本は、資料の管理担当者に尋ねた。
「旧管理区分の番号を、現在の管理番号へ変換する対応表は残っていますか」
担当者は、保存資料を調べた。
「一部は残っています。ただし、当時の移管対象すべてを網羅しているわけではありません」
「変換できなかった番号は、どう扱われたのでしょうか」
「個別に確認する必要があります。番号が変換できなかった場合でも、別の管理区分へ移管されている可能性はあります」
山本は、五〇二号室の住民の旧番号を伝えた。
担当者は、対応表を確認した。
「この番号については、対応する番号が見つかりません」
「移管された記録もありませんか」
「この一覧だけでは確認できません」
山本は、回答を記録した。
連絡先の案件と同じように、番号が対応表にないという結果が得られた。
しかし、山本は二つの案件を同じ原因だとは考えなかった。
旧管理区分の番号が変換できない理由は、いくつも考えられる。
対応表の欠落。
移管時の記録不足。
別の管理区分への移管。
あるいは、当時の番号そのものが別の用途に使われていた可能性もある。
どれも、まだ確認されていなかった。
山本は、森川に報告した。
「五〇二号室の旧番号も、現在の対応表からは確認できませんでした」
森川は答えた。
「連絡先の案件と共通しているのは、対応番号が見つからないことだ。それ以上の共通点は、まだ確認できていない」
「はい」
「旧管理区分の資料を、もう少し調べよう。特に、対応表に載らなかった番号をどう処理したのか、手順が分かる資料があればいい」
山本は、次の照会先を整理した。
*
夕方、アポロンは店で、仕入れ先から届いた納品書を確認していた。
注文した品目と、実際に届いた品目は一致していた。
ただし、一つの商品だけ、納品書に記載された管理番号が、以前のものと違っていた。
アポロンは、箱に貼られたラベルを確認した。
商品名も、容量も同じだった。
健一に伝えると、健一は納品書を見た。
「仕入れ先が管理番号を変更したのかもしれないな」
「確認しなくてもいいのか」
「同じ商品だと確認できれば、受け取り自体はできる。ただ、番号が変わった理由は聞いておこう」
健一は、納品書に確認事項を書き加えた。
アポロンは箱を所定の棚に置いた。
「番号が違っても、同じものの場合があるんだな」
「あるよ。でも、番号だけで同じものだと判断するわけにもいかない。商品名や容量も確認する」
健一は、ほかの納品書も確認した。
仕事が終わるころ、仕入れ先から返信があった。
管理システムの更新に伴い、一部商品の管理番号が変更されたという。
商品自体の変更はなかった。
健一は、その回答を納品書と一緒に保管した。
アポロンは、確認が終わった箱を見た。
今回は、番号が変わった理由が分かった。
それだけのことだった。
*
夜、森川は二つの調査資料を確認していた。
連絡先の案件では、参照先を再設定する処理が実行され、旧管理区分の番号が登録されていた。
五〇二号室の記録では、旧受付番号と現在の管理番号の対応関係が確認できた一方、相談内容の保管先は特定できていなかった。
どちらも、番号に関する記録は残っている。
しかし、その番号が何を指しているのか、現在どこから参照できるのかという点で、確認できない部分があった。
森川は、調査記録に目を通した。
同じ仕組みが使われている可能性はある。
だが、それを裏づける資料は、まだ見つかっていない。
彼は、二つの案件を関連資料として登録しながら、調査そのものは別々に進めることにした。
*
アポロンが帰宅すると、美咲は食卓で書類を整理していた。
「今日は何か分かった?」
美咲が尋ねた。
「連絡先の番号が、以前の管理区分で使われていた形式だと分かった」
「じゃあ、原因も分かったの?」
「まだだ。現在の番号との対応関係が見つかっていない」
美咲は書類をまとめた。
「番号が古いことと、今どこにあるかが分かることは、別なんだね」
「そうだ」
「見つかるといいね」
アポロンは頷いた。
美咲は、明日提出する書類を封筒に入れた。
「こっちは、確認が終わったよ」
「全部?」
「うん。分からないところは、担当の人に聞いて解決した」
アポロンは封筒を見た。
「確認が終わったと書いても、何を確認したかは別に残すのか」
「必要ならね。今回は、確認した内容を自分でも控えてあるよ」
美咲は控えを手帳に挟んだ。
二人は夕食を片づけ、明日の準備をした。
アポロンは自分の手帳を開いた。
連絡先の調査については、まだ終わりの印をつけていなかった。
確認できたことと、確認できていないこと。
その二つを分けたまま、彼は手帳を閉じた。




