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神様は、明日を知らない』 ――全知全能の神が、人間になった理由――  作者: 亀


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第249章 同じ処理

翌朝、高瀬は二つの調査資料を机の上に並べた。


一つは、男性と担当者の連絡先が表示されなくなった案件。


もう一つは、五〇二号室の住民に関する旧管理記録だった。


どちらにも、参照先に関する情報が残っている。


ただし、記録の形式は同じではなかった。


連絡先の案件には、『参照先再設定』という処理名が記載されている。


五〇二号室の記録には、『別管理へ移管』という記載がある。


高瀬は、それぞれの処理番号を確認した。


番号の桁数は異なる。


管理区分も異なる。


処理日時の形式も違っていた。


一見すると、直接の関係はなさそうだった。


しかし、どちらも現在の管理画面から元の情報を確認できなくなっている。


高瀬は、共通点だけを抜き出した。


参照先の情報が残っていること。


現在の画面から、元の情報を直接確認できないこと。


処理を行った担当者が特定できないこと。


それ以外の項目は、共通していなかった。


高瀬は森川に資料を渡した。


「同じ処理だとは言えません。ただ、参照先の情報だけが残り、元の情報を確認できないという点は共通しています」


森川は資料を読み、首を横に振った。


「それだけでは、同じ仕組みが原因だとは言えないな」


「はい」


「ただ、確認する価値はある。管理区分が違っても、参照先を扱う共通の処理が存在する可能性はあるからだ」


森川は、システムの管理部署に照会することを決めた。


質問は一つに絞った。


異なる管理区分の記録であっても、参照先を再設定する共通の処理が存在するか。


それぞれの案件の原因を推測するのではなく、まず仕組みそのものを確認することにした。


     *


昼前、システム管理部署から回答が届いた。


複数の管理区分で、参照先を再設定する共通処理が使われていることは確認できた。


その処理は、管理区分の変更や、情報の保存場所の変更に伴って実行される場合がある。


ただし、すべての管理区分が同じ仕様で動いているわけではない。


一部の古い記録では、処理履歴の保存形式も異なっていた。


森川は、回答を読んだ。


「共通処理があることは分かった。しかし、今回の二つの案件で、それが使われたかどうかは別だな」


高瀬は頷いた。


「個別の処理番号を照会すれば、実行された処理を確認できる可能性があります」


「それを依頼しよう。ただし、記録が残っていない場合も、実行されなかったとは限らない。保存形式の違いも含めて確認してもらう」


高瀬は、照会文書を作成した。


連絡先の案件では、処理番号がすでに分かっている。


五〇二号室の記録では、旧管理番号と現在の管理番号の対応関係が確認されている。


それぞれの情報を使い、該当する処理履歴が残っているかを調べることになった。


森川は、調査記録に新しい項目を追加した。


『共通処理の存在:確認済み』


『個別案件への適用:未確認』


二つの状態を分けて保存した。


     *


午後、アポロンは店で、予約客への確認電話を手伝っていた。


前日に見つかった予約時間の不一致について、健一が電話をかけていた。


「明日のご予約ですが、十八時と十九時の二つの時間が記録されておりまして、確認のためご連絡しました」


健一は、相手の返答を聞いた。


「はい。十九時ですね。ありがとうございます」


電話を切ると、健一は予約表を修正した。


修正前の時間は消さず、変更した時刻と確認した相手を記録した。


アポロンは、その様子を見ていた。


「これで、予約の時間は決まったのか」


「そうだ。本人に確認できたからな」


「最初の十八時という記録は?」


「そのまま残す。どうして違う時間が入ったのかは、まだ分からないからな」


健一は、受付メモと修正後の予約表を一緒に保管した。


「予約が十九時だと確認できたことと、十八時という記録が生まれた理由は、別の話だ」


アポロンは頷いた。


夕方、店はいつもどおり忙しくなった。


予約客は十九時に来店した。


健一が席へ案内し、アポロンが水を運んだ。


予約時間について、客から追加の説明はなかった。


食事を終えた客が帰ったあと、健一は予約表に来店済みの印をつけた。


アポロンは、客が座っていた席を片づけた。


     *


その日の夕方、システム管理部署から追加の連絡があった。


連絡先の案件については、参照先を再設定する処理が実行された記録が見つかった。


処理日時も確認できた。


ただし、その処理によって、なぜ連絡先の表示が変わったのかは分からなかった。


五〇二号室の記録については、旧管理区分の保存形式が異なるため、同じ形式で処理履歴を検索できなかった。


森川は、二つの回答を並べた。


連絡先の案件では、処理の実行記録が見つかった。


五〇二号室の案件では、同じ方法では確認できなかった。


この違いだけで、片方に処理があり、もう片方にはなかったと判断することはできない。


森川は高瀬に言った。


「連絡先の案件は、次に処理の前後で何が変わったのかを調べよう。五〇二号室の記録は、旧形式に対応した別の照会方法を探す」


「分かりました」


「二つを無理に結びつける必要はない。ただし、確認できた事実は互いに参照できるようにしておこう」


高瀬は、関連資料への参照情報を登録した。


それぞれの案件は、引き続き別々に調査する。


共通している点が見つかった場合には、その時点で改めて確認する。


     *


夜、アポロンが帰宅すると、美咲は台所で夕食を準備していた。


「今日は予定どおり帰れたね」


アポロンが言うと、美咲は振り返った。


「うん。確認したかったことも、ちゃんと聞けたよ」


「全部分かったのか」


「全部じゃないけど、次に何をすればいいかは分かった」


美咲は、切った野菜を皿に移した。


「分からないところが残っていても、次に確認する相手や方法が分かれば、進められることもあるからね」


アポロンは頷き、食器を並べた。


二人は食卓についた。


食事の途中、美咲が明日の予定について尋ねた。


「明日は仕事が終わったら、まっすぐ帰る?」


「そのつもりだ」


「じゃあ、帰りに牛乳を買ってきてくれる?」


「分かった」


「ありがとう」


美咲は、明日の買い物を手帳に書いた。


アポロンも、自分の手帳を開いた。


そこには、明日の夕食と、牛乳を買うことが記されていた。


彼は、その横に小さく書き加えた。


『連絡先の変更理由を確認する』


それは、誰かから与えられた予定ではなかった。


自分で調べると決めたことだった。


手帳を閉じると、アポロンは食事を続けた。


まだ、原因は分からない。


しかし、何を確かめる必要があるのかは、少しずつ具体的になっていた。

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