第248章 参照先
翌朝、山本は、五〇二号室の住民に関する管理番号を使って、保管区分の詳細を照会した。
前日までに分かったことは、旧受付番号と現在の管理番号が対応していること、そして相談内容が別の管理領域にあると表示されていることだった。
今度は、その管理領域が何を意味するのかを確認する必要があった。
山本は、照会先から届いた回答を読んだ。
『参照先:統合管理領域』
その下には、短い説明があった。
統合管理領域とは、複数の部署で管理されていた情報を、共通の管理番号で参照するための仕組みである。
ただし、統合管理領域に番号が登録されていることは、元の資料が現在も保管されていることを保証するものではない。
山本は、回答を印刷した。
森川が資料を受け取ると、すぐに尋ねた。
「統合管理領域を管理している部署は?」
「照会先によると、システム全体の管理を担当する部署と、個々の資料を保管する部署は別だそうです」
「では、今回の資料を保管している部署は?」
「まだ特定できていません」
森川は、回答を机に置いた。
「共通の管理番号で参照できる仕組みがある。それは分かった。しかし、参照先があることと、資料がそこにあることは別だな」
「はい」
山本は、追加の照会を準備した。
今度は、統合管理領域の一般的な仕組みではなく、当該番号に対応する資料の保管場所と、現在の管理責任者を確認する内容にした。
森川は文面を確認し、送信を許可した。
*
昼過ぎ、高瀬のもとに、前日調査していた連絡先の変更について、新しい情報が届いた。
連絡先の管理担当者が、変更前後の記録をさらに調べたところ、通常の登録変更とは異なる処理番号が付いていることが分かったという。
高瀬は、処理番号を確認した。
番号の横には、次の表示があった。
『参照先再設定』
その下には、処理日時が記載されていた。
操作担当者の欄は、空白だった。
高瀬は、管理担当者に電話をかけた。
「この処理番号は、どのような場合に使用されますか」
「別の管理領域にある情報を、現在の管理画面から参照する場合などに使用します」
「今回も、別の管理領域から情報が移されたということですか」
「それは、まだ確認できていません。参照先の再設定という処理が行われたことまでは分かります」
「処理の前後で、連絡先の情報が変わった理由は分かりますか」
「現時点では、分かりません」
高瀬は、回答を記録した。
処理番号が示すのは、参照先の再設定だった。
それだけで、情報が移管されたのか、表示先だけが変更されたのかまでは判断できない。
高瀬は森川に報告した。
森川は処理番号を見て、少し考えた。
「五〇二号室の記録にも、同じ処理があるか確認できるか」
「管理領域が同じかどうか、まず確認します」
「そうしてくれ。ただし、番号の形式が似ているだけで、同じ処理だとは決めないように」
高瀬は、照会対象を整理した。
連絡先の案件。
五〇二号室の記録。
それぞれの処理番号、参照先、処理日時。
確認できる項目だけを並べ、対応関係は未確定のままにした。
*
夕方、アポロンは店で、予約の確認をしていた。
翌日の予約表には、二名の予約が記載されていた。
時間も、名前も、連絡先もある。
しかし、予約を受けた健一が、電話で確認した内容と照らし合わせると、来店時間が一致していなかった。
予約表には十八時。
電話の受付メモには十九時。
健一は、両方を見比べた。
「どちらが正しいんだろうな」
アポロンが尋ねた。
「今の段階では分からない。予約を受けたときのメモが残っているから、まずそれを確認する」
健一は、電話の受付メモを手に取った。
そこには、十九時と書かれていた。
「これを書いたのは?」
「俺だよ。電話を受けたときに記録した」
「では、十八時という時間は、どこから来たんだ」
「それを調べないといけないな」
健一は予約表を修正せず、予約を受けたときの記録と、現在の表示を両方保存した。
翌日、予約客に連絡して確認することになった。
アポロンは、予約表を見ながら言った。
「時間が記録されていても、その時間に相手が来ると決まったわけではないんだな」
「そうだな。本人に確認して、初めて予定を合わせられる」
健一は受付メモを所定の場所に戻した。
「記録は確認するために使うものだ。記録のほうに、人を合わせるわけじゃない」
アポロンは、その言葉を聞いていた。
仕事が終わると、彼は店を出た。
*
その夜、山本のもとに追加照会への回答が届いた。
統合管理領域の管理部署は、該当する管理番号について、参照先の情報が登録されていることを確認した。
しかし、参照先として登録された区分は、現在の組織図には存在していなかった。
過去の組織改編により、同じ名称の区分は廃止されている。
後継となる管理区分については、資料の種類によって異なるため、名称だけでは特定できないという。
山本は、回答を読み終え、森川に連絡した。
「参照先の区分は確認できました。ただ、現在どの部署が引き継いでいるのかは、まだ分かりません」
森川は答えた。
「では、廃止された区分の後継部署を調べよう。資料の種類が分からないなら、先に移管記録を確認する必要がある」
「分かりました」
山本は、追加の調査を登録した。
その後、五〇二号室の住民に、確認できた内容を伝えた。
住民は、説明を聞き終えると尋ねた。
「記録がどこにあるかを示す情報は、残っているんですね」
「はい。ただし、その情報が示す区分は廃止されていて、現在の保管先は確認できていません」
「分かりました」
住民は、少し考えてから言った。
「見つかるまで、私が何を希望していたかも、記録に残しておいてください」
「どのように記録するか、確認させてください」
「相談内容を確認したいと思っています。でも、見つかった内容を全部読むかどうかは、まだ決めていません」
山本は、その言葉を記録した。
「相談記録の所在を確認することと、内容を閲覧するかどうかの判断は、別に記録します」
「お願いします」
電話を終えたあと、山本は記録を保存した。
彼女が希望しているのは、まず自分の記録がどこにあるのかを確認することだった。
その先をどうするかは、まだ決まっていない。
*
帰宅したアポロンは、携帯を開いた。
連絡先の一覧には、相変わらず名前のない番号が残っていた。
彼は、古いメッセージを開き、相手の名前を確認した。
それから、連絡先の詳細画面に戻った。
『参照先再設定』
その表示は、彼の携帯にはなかった。
アポロンが見ているのは、名前が消えたという結果だけだった。
なぜ消えたのか。
どの情報が変更されたのか。
変更された情報が、どこに残っているのか。
まだ分からない。
彼は、昨夜保存した画面と、今夜の画面を並べた。
二つの画面の違いは、小さかった。
しかし、更新された時刻は残っていた。
アポロンは、その時刻を手帳に書き留めた。
理由は書かなかった。
まだ、理由が分かっていなかったからだ。
手帳を閉じたあと、美咲からメッセージが届いた。
『明日は少し早く帰れそう。夕食、一緒に食べられると思う』
アポロンは、すぐに返事をした。
『分かった。待っている』
今度は、手帳に予定を書いた。
明日の夕食。
時間は、まだ決めていない。
けれど、二人が一緒に食べたいと思っていることは、確認できていた。




