↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様は、明日を知らない』 ――全知全能の神が、人間になった理由――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

246/290

第246章 更新された時刻

アポロンは、翌朝、携帯を開いた。


昨夜、名前が消えていた連絡先は、元に戻っていなかった。


過去のメッセージには相手の名前が残っている。


しかし、連絡先の一覧には番号だけが表示されていた。


アポロンは、保存した画面を見直した。


更新時刻は、昨夜の二十一時四十七分。


その時間、彼は家にいた。


誰かに連絡先を編集した覚えはない。


設定画面を開き、変更履歴を確認した。


履歴は表示されなかった。


「何をしてるの?」


台所から美咲が声をかけた。


「連絡先を確認している」


「誰かの名前が消えたの?」


「そうだ」


美咲は近くに来て、画面を見た。


「この人、誰?」


「以前、仕事の連絡をするために登録した人だ」


「番号は分かる?」


「古いメッセージに残っている」


「じゃあ、連絡を取る必要があるなら、そっちから確認できるね」


「そうだな」


美咲は画面をもう一度見た。


「でも、勝手に変わったなら、理由は分からないままだね」


「うん」


アポロンは携帯を閉じた。


朝食を済ませ、仕事へ向かった。


     *


午前中、森川は前日に発生した連絡先の表示異常について、追加の報告を受けた。


男性と担当者の連絡先が、通常の管理画面から消えていた案件だった。


担当者側の過去の記録を調べたところ、連絡先の登録が変更されたとみられる時刻が見つかった。


しかし、変更を行った職員の名前は記録されていなかった。


「操作履歴がないのか」


森川が尋ねた。


「正確には、変更後の情報は残っています。ただ、変更前の情報と、操作した人を結びつける履歴が見つかっていません」


高瀬が答えた。


「変更時刻は?」


「記録されています。ただ、その時刻に誰が何を操作したのかは分かりません」


森川は、報告書に目を通した。


変更後の状態が存在することと、変更が正当な手続きで行われたことは別だった。


「変更の根拠が見つかるまで、連絡先が解除されたものとして扱わないようにしよう」


高瀬は頷いた。


「本人たちには、現在の連絡方法を確認してもらっています」


「それと、変更前の情報も保存しておいてくれ。現在の表示だけで調査を進めると、以前の状態が分からなくなる」


高瀬は、過去の連絡記録を別の資料として保存した。


その後、担当者から追加の連絡が入った。


男性との連絡は、以前に使っていた別の連絡経路を通じて、今後も続けられることになったという。


二人は、次回の面談日も確認していた。


ただし、管理画面上の連絡先は、まだ元に戻っていなかった。


森川は、その点も記録に加えた。


実際の連絡は再開できた。


管理画面の表示異常は解消していない。


どちらか一方だけをもって、案件全体が解決したとはしなかった。


     *


昼休み、アポロンは健一に携帯の画面を見せた。


「連絡先の名前が消えた」


健一は、画面を確認した。


「自分で編集した覚えはないのか?」


「ない」


「同期している別の端末は?」


「持っていない」


健一は少し考えた。


「俺なら、まず古いメッセージと、今の連絡先を保存するかな。あと、同じことが起きるか確認する」


「同じことが起きたら?」


「そのときは、変更された時間や、消えた項目を比べる。原因は、それだけじゃ分からないけどな」


アポロンは頷いた。


「原因が分からないのに、記録するのか」


「原因が分からないからこそ、記録するんだよ。後から何か分かったとき、比較できるだろ」


健一は、コーヒーを飲んだ。


「ただ、仕事に支障がないなら、今すぐ全部調べる必要はないと思うぞ」


「支障があるかどうかは、まだ分からない」


「なら、必要になったときに連絡できる方法だけ確保しておけばいい」


アポロンは、古いメッセージをもう一度確認した。


相手の名前と番号は残っていた。


今のところ、連絡を取る必要はない。


彼は携帯をしまい、仕事に戻った。


     *


午後、山本は五〇二号室の住民に、調査の進捗を伝えた。


「後継部署から資料を受け取りましたが、旧番号と新しい番号の対応関係は確認できませんでした」


「資料そのものは見つかったんですか」


「その番号に対応する資料があることまでは、確認できていません」


住民は、少し考えてから尋ねた。


「では、次は何を調べるんですか」


「移管当時の受領記録と、番号を変更した際の対応表が残っていないか、確認する予定です」


「私の相談内容は、まだ見られないんですね」


「はい。現在は、内容を確認できる状態ではありません」


住民は頷いた。


「分かりました。見つかったら、まず私の記録かどうかを確認してください。内容を見るかどうかは、そのあとで決めます」


山本は、その希望を確認した。


「記録の帰属を確認することと、内容を閲覧することは、別の段階として扱います」


「お願いします」


住民は帰り際、もう一つ尋ねた。


「今まで調べたことは、残っていますか」


「はい。確認できた資料と、まだ確認できていない事項を分けて記録しています」


「それなら、よかったです」


住民は、受付票を鞄にしまった。


山本は、彼女が帰ったあと、調査記録を開いた。


新しく確認できたことは、まだ多くない。


それでも、何を調べ、何が分からず、本人がどこまでの確認を希望しているかは、記録に残っていた。


山本は、その三点を改めて確認してから、資料を保存した。


     *


夕方、アポロンが帰宅すると、美咲はまだ帰っていなかった。


テーブルには、朝、美咲が置いていった書類があった。


付箋の貼られた箇所には、確認した結果が短く書き加えられていた。


一部は修正済み。


別の箇所は、担当者から回答待ち。


美咲は、分からない箇所を空欄のまま残していた。


アポロンは、書類を元の位置に戻した。


そのとき、携帯が鳴った。


連絡先の表示が変わっていた相手から、メッセージが届いていた。


『久しぶりです。以前の番号が使えなくなったので、こちらから連絡しました』


アポロンは、文面を読み返した。


相手は、番号が変わった理由を説明していなかった。


ただ、新しい連絡先を知らせてきただけだった。


アポロンは返信した。


『連絡ありがとう。以前の連絡先では名前が表示されなくなっていたので、確認していました』


少しして、返事が届いた。


『そうだったんですね。こちらでは、登録を変更したつもりはありません』


アポロンは、画面を保存した。


相手も変更した覚えがない。


自分にも変更した覚えがない。


それだけでは、何が起きたのかは分からなかった。


彼は、それ以上の質問を送らなかった。


必要な連絡は、今、取れている。


原因については、別に確認する必要がある。


夜、美咲が帰宅した。


「書類の確認、終わったよ」


「分かったのか」


「全部じゃないけど、必要なところは確認できた。残ったところは、明日もう一度聞くことになった」


「そうか」


美咲は鞄を置き、手を洗いに行った。


アポロンは携帯を手に取った。


名前が消えた連絡先。


変更した覚えのない相手。


残っている古いメッセージ。


どれも、今の時点では、原因を一つに結びつける材料にはならなかった。


ただ、昨夜の時刻と、今夜届いた相手の言葉は残っている。


アポロンは、それらを保存した。


そして、携帯を机の上に置いた。


分からないことを、すぐに一つの答えへまとめる必要はない。


確かめられるものを残しておけば、次に確認できることがあるかもしれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。