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神様は、明日を知らない』 ――全知全能の神が、人間になった理由――  作者: 亀


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第223章 記録の所在

翌朝、森川は統合管理部署から届いた追加回答を確認した。


旧端末の媒体について、統合後の管理部署が現物確認と内容照合を引き継ぐことになっていた点は、前回の資料で確認できていた。


今回の回答では、その後の管理記録について説明されていた。


統合後、現物確認と内容照合の結果は、媒体ごとの管理台帳に記録されることになっていた。


ただし、旧システムから移された媒体の一部には、正式な保管番号が付与されていないものがあり、その場合は仮番号を使って管理台帳を検索する必要があった。


森川は、高瀬に資料を見せた。


「仮番号を使えば、確認履歴を検索できる可能性があるんですね」


「はい。ただし、今回の媒体に対応する台帳が残っているかどうかは、まだ分かりません」


「では、まず仮番号をキーにして検索してもらいましょう」


森川は照会先に連絡し、旧端末の管理番号、統合後の仮番号、移管時の受付番号をまとめて伝えた。


三つの番号を照合すれば、別の番号に変更されていた場合でも、該当する台帳を特定できる可能性があった。


しばらくして、担当者から返信が届いた。


仮番号に一致する管理台帳は見つかった。


しかし、その台帳には、現物確認の結果も、内容照合の結果も記載されていなかった。


代わりに、備考欄に次の記述が残されていた。


「確認記録――別冊管理」


森川は、その文字を見つめた。


「また、別の記録に分かれているんですね」


高瀬は頷いた。


「はい。少なくとも、確認結果を記載する場所が、この台帳ではなかったことは分かります」


「別冊の管理番号は?」


「記載されていません」


森川は、台帳の前後にある記録を確認した。


同じ時期に作成されたほかの台帳にも、「別冊管理」と記載された例がいくつかあった。


ただし、それらの別冊がすべて同じ管理方法だったとは限らない。


また、今回の媒体に対応する別冊が、現在も保存されているかどうかも分からなかった。


森川は、次の照会を作成した。


別冊管理という方式が使用されていた期間。


別冊に付与される管理番号の規則。


仮番号から別冊の記録を特定するための対応表の有無。


そして、該当する別冊の保存状況。


「今度は、確認結果そのものではなく、確認結果が記録される場所を探すことになりますね」


森川が言った。


「そうですね。検索対象が少しずつ絞られてきています」


高瀬は、管理台帳を保存した。


現物確認が行われたかどうかは、まだ分からない。


内容照合が完了したかどうかも、まだ分からない。


しかし、確認結果が保存されるはずだった記録の形式については、新たな手がかりが得られた。


*


昼過ぎ、代理権限登録に関する調査にも、回答が届いた。


旧システムでは、本人の意思確認に関する記録を別の場所に保存した場合、登録記録に参照番号を記載することになっていた。


ただし、旧端末から移管された記録の一部については、参照番号の形式が、後年のシステムで使用されていたものと異なっていた。


そのため、通常の検索では、参照先が表示されない場合があった。


森川は、すぐに過去の記録を確認した。


以前から調べている代理権限登録には、本人の意思確認方法を直接示す情報が残っていなかった。


しかし、関連記録を参照した履歴そのものは、完全には確認できていなかった。


「参照番号の形式が違っていた可能性があるんですね」


森川が言った。


「はい。今回の回答では、旧形式の番号を新しい形式に変換するための対応表が存在していたことも確認できました」


「その対応表は、現在も残っているのでしょうか」


「一部は保存されています。ただし、今回の記録に対応する番号が含まれているかどうかは、まだ分かりません」


森川は、対応表の検索を依頼した。


ただし、検索の対象は代理権限登録の記録だけに限定しなかった。


旧端末の管理記録や、移行処理、閲覧制限の手続きについても、同じ形式の番号が使われていた可能性があったからだ。


それぞれの記録が同じ人物に関係していると決めつけることなく、まずは番号の変換規則を確認する必要があった。


高瀬が言った。


「番号の形式が違っていたなら、これまで見つからなかった記録を検索できる可能性がありますね」


「はい。ただし、検索できるようになることと、目的の記録が存在することは別です」


森川は照会を送信した。


これまでの調査では、記録が見つからないたびに、保存されていない可能性と、別の場所にある可能性を区別してきた。


今回も、その区別を崩すわけにはいかなかった。


*


夕方、山本は五〇二号室へ食事を届けた。


相手は袋を受け取ったあと、いつもより少し長く、山本の顔を見ていた。


「最近、いろいろ調べてもらっていますね」


「はい。記録の保存先について、新しい手がかりが見つかったそうです」


「見つかったんですか」


「記録そのものではなく、記録が別の場所に保存されていた可能性を示す資料です」


相手は、ゆっくりと頷いた。


「そうですか」


それから、少し考えて尋ねた。


「もし、記録が見つからなかったら、私の希望はどうなるんでしょう」


山本は、すぐには答えなかった。


「希望そのものがなくなるわけではないと思います。ただ、過去に何があったのかを確認できない部分は、残るかもしれません」


「今の希望と、過去の記録は別に扱ってもらえるんですよね」


「はい。その点は、すでに伝えてあります」


相手は、安心したように息を吐いた。


「なら、よかったです」


山本は続けた。


「過去の記録が見つかるかどうかにかかわらず、今のあなたが何を望んでいるのかは、今の希望として伝えられます」


「ありがとうございます」


相手は、食事の袋を持ち直した。


「過去のことを全部知りたいのか、自分でもまだ分からない部分があります。でも、今の自分がどうしたいかまで、昔の記録に決められたくはありません」


山本は頷いた。


「分かりました。そのまま伝えます」


扉が閉じたあと、山本は森川に連絡した。


森川は、相手の言葉を現在の希望として記録した。


過去の記録の内容が明らかになる前に、現在の希望を確定させる必要はない。


知りたいことが変わる可能性もある。


途中で調査を止めたいと思う可能性もある。


今の段階で、本人に将来の希望まで決めてもらう必要はなかった。


*


その夜、アポロンは仕事を終え、帰り道にある小さな公園を通りかかった。


ベンチのそばで、年配の男性がスマートフォンを操作していた。


男性は何度か画面を確認し、やがて小さく息を吐いた。


「どうかしましたか」


アポロンが尋ねると、男性は顔を上げた。


「いや、孫から写真が届くはずなんだが、うまく受け取れなくてね」


アポロンは、男性の許可を得て画面を確認した。


通知の設定に問題があるようだった。


必要な項目を一緒に確認すると、しばらくして写真が届いた。


画面には、小さな子どもが、両手で大きなぬいぐるみを抱えている姿が写っていた。


「おお、来た来た」


男性の顔が明るくなった。


「ありがとうございます。機械はどうも苦手でね」


「届くようになった」


「ええ。助かりました」


男性は、写真をもう一度開いた。


「この前は、こんな顔をしていなかったんですよ。子どもは、少し見ないうちに変わるものですね」


アポロンは、画面を見た。


写真に写っているのは、撮影された瞬間の姿だった。


今、その子どもがどこで何をしているのかまでは、写真だけでは分からない。


それでも、男性にとっては、十分に大切なものなのだろう。


「いい写真ですね」


アポロンが言うと、男性は嬉しそうに笑った。


「そうでしょう」


男性は礼を言い、公園を出ていった。


アポロンは、しばらくベンチのそばに立っていた。


記録には、過去のある瞬間が残される。


しかし、そこに写っている人間は、その瞬間だけで止まっているわけではない。


今も生き、変化し、別のことを考えている。


過去の記録を大切にすることと、今の相手を知ろうとすること。


その二つは、同じではなかった。


アポロンは公園を出て、駅へ向かった。


明日のことは、まだ分からない。


それでも、今夜、誰かが写真を受け取れたことは、確かな出来事として残っていた。

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