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神様は、明日を知らない』 ――全知全能の神が、人間になった理由――  作者: 亀


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第222章 照合されなかった欄

翌朝、森川は統合管理部署から届いた回答を確認した。


前回の照会では、旧端末の媒体について、現物確認と内容照合の状態が統合後のシステムにどのように引き継がれたのかを尋ねていた。


回答には、当時のデータ変換仕様の一部が添付されていた。


森川は高瀬と一緒に、該当する項目を探した。


旧システムでは、移管処理の状態と、現物確認の状態、内容照合の状態は、それぞれ独立した項目として管理されていた。


ところが、統合後のシステムでは、移管処理の状態だけが正式な管理項目として引き継がれ、現物確認と内容照合については、別の管理記録を参照する方式に変更されていた。


「ここで管理方法が変わっているんですね」


森川が言った。


高瀬は仕様書を読み進めた。


「はい。統合後の画面に、二つの確認項目が表示されない理由は、これで説明できそうです」


「ただし、確認作業が完了したことにはなりませんね」


「その通りです。別の管理記録に状態が保存されている可能性はありますが、その記録が見つからなければ、完了したかどうかは確認できません」


森川は、仕様書の注意事項に目を向けた。


統合処理を行う担当者は、旧システムの管理番号と新システムの管理番号を対応づける必要があった。


一方、現物確認と内容照合の実施状況については、統合後の管理部署が引き続き確認することになっていた。


つまり、管理番号を変換したことと、媒体の現物や内容を確認したことは、別の手続きだった。


森川は、前回までの資料を並べた。


旧端末では、受領確認が未登録だった。


統合前の引き継ぎ資料では、現物確認と内容照合が未完了と記録されていた。


統合後のシステムでは、管理番号の対応関係は確認できたが、二つの確認項目の更新履歴は見つかっていなかった。


これらの情報は、少なくとも一つのことを示していた。


現在の管理画面に移管完了と表示されていても、それだけでは、媒体の現物や内容が確認されたとは言えない。


しかし、統合後に確認が行われなかったと断定することもできなかった。


「次は、別の管理記録そのものを探す必要がありますね」


森川が言った。


「はい。今回の仕様書では、どの部署が管理責任を持つことになっていたかも確認できました。その部署の記録を調べましょう」


森川は、新しい照会先を追加した。


これまでの調査で、媒体が見つかったわけではない。


ただ、どこを探すべきかについては、少しずつ具体的になっていた。


*


昼前、代理権限登録に関する照会にも回答が届いた。


旧システムでは、本人の意思確認に関する記録が複数の形式で保存されていた。


署名付きの書面であれば文書管理番号が付与され、連絡による確認であれば、対応履歴の番号が登録される。


緊急時の例外処理については、別の承認記録が作成されることになっていた。


いずれの場合も、代理権限登録の記録から、関連する記録番号を参照できる仕組みがあった。


森川は、その記述を確認した。


「関連番号が登録されていれば、本人の意思確認に関する記録を追えるはずなんですね」


高瀬が答えた。


「はい。ただし、今回の記録には、確認方法を直接示す番号が残っていません。参照先が別の記録に移されている可能性もあります」


「では、登録記録の参照履歴も調べる必要がありますね」


森川は、照会文を修正した。


本人の意思確認に関する記録の有無だけではなく、関連番号の付与履歴と、参照先の変更履歴も確認対象に加えた。


これで、記録が存在していた場合に、どの経路で検索できるのかが明確になった。


しかし、本人の意思確認が実際に行われたかどうかは、まだ分からない。


関連番号が残っていない理由も、現時点では判断できなかった。


「記録が見つからないこと自体を、何かの証拠にするのは、まだ早いですね」


森川が言った。


「そうですね。保存場所が変わったのか、参照情報が失われたのか、それとも別の事情があるのか。まずは確認できる範囲を広げましょう」


二人は、追加照会を送信した。


*


午後、五〇二号室への食事を届けた山本は、相手から思いがけない質問を受けた。


「もし、昔の記録に、誰かが私の代わりに答えたことが書かれていたら、その人が何を考えていたのかも調べるんでしょうか」


山本は少し考えた。


「記録の内容によると思います。ただ、誰が何をしたのかを確認することと、その人がなぜそうしたのかを確かめることは、別になるかもしれません」


相手は頷いた。


「そうですよね」


しばらく沈黙が続いた。


「その人が、私を助けようとしていた可能性もありますよね」


「はい。その可能性もあると思います」


「反対に、私のことをよく知らないまま、何かを決めた可能性もある」


「そうですね」


相手は、袋の持ち手を握り直した。


「どちらなのか、今は分からないんですね」


「はい。記録そのものが確認できていませんから」


相手は小さく息を吐いた。


「もし、誰かが私のために何かをしてくれたのなら、それを最初から悪いことだったと決めつけたくはありません。でも、助けるつもりだったからといって、私がどう思っていたかまで、その人が決められるわけでもないと思います」


山本は、その言葉を聞いて頷いた。


「その二つは、分けて考えられると思います」


「ありがとうございます」


相手は、食事を受け取った。


「今は、まず、自分に何が関係しているのかを知りたいです。それから考えたいと思います」


山本は、その希望を森川に伝えた。


森川は、記録に追記した。


過去の行為にどのような意図があったのかを、現時点で推測しないこと。


本人が知りたいと望んでいるのは、まず、自分に関係する事実であること。


そして、誰かの意図が善意だったかどうかと、本人の意思が確認されていたかどうかは、別々に検討する必要があること。


彼女は、その三点を整理した。


*


その夜、アポロンは帰宅すると、鉢植えの葉に小さな変化があることに気づいた。


一枚の葉が、昨日より少しだけ下を向いていた。


彼は土の状態を確認し、窓から入る光の角度を見た。


すぐに原因を一つに決めることはできなかった。


水が足りないのかもしれない。


光の当たり方が変わったのかもしれない。


あるいは、葉そのものの自然な変化なのかもしれない。


アポロンは、鉢植えを少しだけ移動させた。


そこへ、美咲が帰ってきた。


「どうしたの?」


「葉が一枚、昨日と違う」


美咲は近づいて、葉を見た。


「ほんとだ。でも、ほかの葉は元気そうだね」


「原因は分からない」


「一枚だけなら、少し様子を見てもいいんじゃない?」


アポロンは頷いた。


「すぐに対処すれば、よいとは限らないのか」


「もちろん。何かしたほうがいいときもあるけど、変化があったからって、必ず何かを変える必要があるわけじゃないよ」


美咲は手を洗いに行った。


アポロンは、鉢植えをもう一度見た。


変化があったことは確かだった。


しかし、その原因は分からない。


原因が分からないからといって、何もしないことが常に正しいわけでもない。


今の状態を確かめ、必要な対応を考える。


そして、次の変化があれば、もう一度判断する。


アポロンは鉢植えをそのままにした。


夕食の準備を始めながら、明日も様子を見ようと思った。

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