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ハルちゃんは、俺。  作者: 家宝ダンゴ


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9/10

俺、飯を忘れられる。

小さな寝息。

白いふわふわが上下に動く。


ガチャ。


春輝のサークルの扉が開いた。

柔らかいタオルに丸まっていた春輝は、そっと顔を上げた。


『なんだ?』


半開きの目でキョロキョロと周りを確認する。


『おお、ママか……』


テクテクとママのところへ歩く。

ママの優しい手が春輝をそっと持ち上げた。

覗き込むように春輝を観察する。

じっくりと。


『な、なんだよ』


自然とふわふわの尻尾が両足の間に入った。

ママは小さく息を吐いた。


「……考え過ぎね」


ママはそう呟くと、春輝をそっとサークルに戻した。


『どうせならリビング散策させてくんねえか?』


春輝はサークルに足をかけてパタパタと手を振った。

ママはふふっと笑うと春輝の頭を撫でてリビングを出て行った。


『なんだったんだ……?』


春輝は頭を足でカシカシと掻いた後、タオルの上に戻っていった。





「ハルちゃん!おはよ〜!」


ビクッと動く白くふわふわな毛。


『朝から脅かすな!』


「陽菜、今日から小学校だからね」


サークルの上から身を乗り出して、春輝の頭を撫でる。

春輝は目を細めて、ふわふわの尻尾を揺らした。


「陽菜いないけど、泣かないでね」


『泣かねえよ!俺は人間だぞ!』


「陽菜ちゃん、そろそろ行くわよ」


優しそうなママの声。

陽菜はくるりとソファに駆けていき、置かれたランドセルを背負った。

まだ陽菜の体には、大きなランドセル。

その後ろ姿を春輝は見守っていた。


「いってきま〜す!」


パタン。

扉が閉まった。




春輝はいつものように柔らかいタオルに戻ろうとして足を止めた。


『あれ?俺、朝ごはん食べてなくね?』


目を閉じて思い出す。

そして、ハッと目を開ける。


『やっぱ食べてないぞ!』


春輝はサークルの中をウロウロと歩き回った。


『いや、ママが帰ってきてからかもしれんな』


テクテクとタオルの上に座り、やけに良い姿勢でママの帰りを待つのだった。




『……遅い!遅すぎるだろ!』


春輝はカギに手を伸ばし、ドンっと体当たりした。

カチャッ。

鍵が開いた。


窓に一直線に駆けていく。

いつもの犬の散歩仲間の集まりが外にいた。

数頭の犬達が飼い主のそばで雑談している。


その集まりにママはいた。

何か楽しそうに笑っている。


『おいおい、お喋りより飯食わしてくれよ……』


春輝は力なくダラリと項垂れた。

窓からは春らしい柔らかい日差しがそそいでいた。


子犬の春輝は、光を浴びながらウトウトと目を細めると、そのまま夢の中に落ちていった。




カラ、カラ、カラン。

ドライフードが器に当たる音。


春輝の耳はピンッと立ち上がった。


『……この音は!』


ピシッと立ち上がると、タッタッとサークルまで駆けていく。

タオルの上でおすわりの体勢で胸を張る。

涎が溢れないように何度も舌で舐めとり飲み込む。


「ハルちゃん、遅くなってごめんね」


『本当にな!』


文句を言いながらも器から目が離せない。


「じゃあハルちゃん、待て」


『遅れたくせに、さらに待たせんのかよ!』


春輝は後ろに数步さがり、改めて胸を張った。

器とママの目を交互に見る。


「よし」


『うおぉぉっ!今日のもうまいなあ!』


器に顔を突っ込み、大きく尻尾を振る。

ママは春輝の様子を見てクスッと笑うと、器に一枚小さいクッキーを置いた。


『え?まじ?いいの?食っちゃうよ?』


春輝は上を向いて、食べる姿をママに見せつけた。

目を細めてクッキーを味わう子犬をママはカメラに納めた。


「この子が人間なわけないわよね」


ママは笑いながら呟いた。

春輝は、クッキーとご飯に夢中で何も聞こえていなかった。


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