俺、家族写真を撮る。
晴天の朝。
青々とした空が一面に広がる。
春輝は今日も柔らかいタオルの上で丸くなっていた。
バタバタとどこか忙しない空気に顔を上げて見回した。
『なんか、今日は騒がしいな』
朝から珍しくスーツを着込むパパ。
ママはベージュのジャケットにスカート。
『おっ、ママいつもより華やかだな』
ピンクのワンピースの陽菜がやってきたが、やけに大人しい。
俯いてランドセルを見つめていた。
『そうか!今日が入学式か!』
春輝は少し考えた後、サークルをカリカリと爪で引っ掻き音を立てた。
『陽菜!大丈夫だぞ!』
陽菜は気付かない。
『……仕方ねえな』
春輝はサークルの前で後ろ足をぴょんぴょんとジャンプして見せた。
陽菜と目が合う。
「うわあ!ハルちゃんがジャンプしてる!」
『結構しんどいなコレ』
春輝は息を上げながら陽菜が笑顔になるまで飛び続けた。
『陽菜!大丈夫だからな!』
「ハルちゃん、ベロ出てる〜!」
陽菜はスマホを取り出すと何度も連写する。
春輝はしばらく舌を出した後、水を飲んで一息ついた。
「そろそろ時間だよ」
「ハルちゃん、いってきます!」
『おう!行ってこい!』
パタン。
扉が閉まる音がやけに大きく聞こえた。
耳が痛くなるような静けさ。
春輝が犬になってから初めてのお留守番だった。
『……静かだな』
『おーい!』
返事はない。
『なんか……変な感じだな』
耳を下げてそっと呟いた。
柔らかいタオルに丸くなり、目を閉じた。
『……静かすぎて寝れねえ!』
春輝はサークルのカギに手を伸ばす。
下から押し上げる。
が、あと少し開かない。
『まだダメか……なら!』
ダメ元でタックルしたらポロッとカギが落ちた。
『ラッキー!』
春輝はリビングに出ることに成功した。
テクテクと歩き回る。
窓の外を覗く。
散歩の途中の犬が何匹か集まっていた。
一頭の目立つ柴犬に春輝の目は細くなった。
茶色い柴犬。
ピンクのTシャツ。
何かを喋っているのか口が動いている。
『アイツ……ご近所さんかよ!』
そう言いながらも顔見知りがいて少し嬉しいのか、春樹の尻尾はふりふりと大きく動いた。
『散歩か……悪くねえな』
外を見ながらごろりと横になる。
『陽菜、遅えな……』
春輝の瞼はゆっくりと落ちて行った。
玄関の扉の開く音。
春輝はハッと目が覚めた。
『せっかくだし、迎えてやるか』
玄関までテクテク歩く。
「ただいま〜!あれ、ハルちゃん?」
『おかえり!陽菜!』
春輝はおすわりをしてふわふわの胸を張った。
「ママ〜!ハルちゃん来てくれたよ!」
「あら?カギをかけ忘れたのかしら」
首を傾げるママの肩をそっと叩きパパがカメラを見せた。
「ちょうど良いね、外で写真撮ろうか」
「陽菜がハルちゃん抱っこしていい?」
「良いわよ」
ママとパパが陽菜を見て目を細めて笑う。
春輝は陽菜の腕に抱かれて家の外に出た。
『うわっ良い天気だな』
外は雲一つない真っ青な空。
爽やかな風が春輝のふわふわの毛を揺らす。
パパが三脚にカメラをセットする。
「ハルちゃん、今日ね、いっぱい緊張したの」
『だろうな』
「でもね……ハルちゃんが頑張れしてくれたから、陽菜、頑張れたよ」
『……そうか、やったな!陽菜!』
陽菜は春輝のふわふわに顔をつけて嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、撮るよ!」
パパの声。
急足でママの隣に並ぶ。
爽やかな風が吹いた。
陽菜の長い髪を撫でるように流れていく。
春輝の鼻にコショコショと髪が当たる。
『ぶぇぇっくしゅっっ!』
カシャ。
「撮れたかな?」
カメラに駆け寄るパパ。
『ちょ、もう一回撮れる?くしゃみ出ちゃってさ』
「うーん。ハルちゃんが変な顔になっちゃったなあ」
陽菜もパパのカメラを覗き込む。
春輝の目と口が半開きだった。
「ハルちゃんかわいい!」
「じゃあこれでいいか」
『良くねえだろ!撮り直せ!』
転生後、初めての家族写真。
春輝以外はみんな良い笑顔だった。




