俺、遊んでやる。
柔らかいタオルにちょこんと丸まる白いふわふわ。
春輝は今日も夢の中。
小さく寝息を立て、体を上下させていた。
「ハルちゃん、おはよぅ!」
ビクッと白いものが大きく動く。
『朝からうるせえな!』
「ママ〜!ハルちゃん出してもいい?」
『外にいけるのか?』
「陽菜ちゃん、少しだけならいいよ」
ママの優しそうな声。
「たくさんはハルちゃんが疲れちゃうからね」
「は〜い!」
パタパタと足音が近づいてくる。
「ハルちゃん!一緒に遊ぼ」
カチャカチャと金属のぶつかる音。
そしてサークルの扉が開いた。
『なんだ家の中かよ』
文句を言いながらサークルの外に一歩踏み出す。
キョロキョロと見回しながらリビングを探索する。
「ハルちゃん!」
『何だよ?』
自分の名前を呼ばれて振り返る。
「ママ〜ハルちゃん、こっち見てくれたよ!」
「陽菜ちゃんがたくさんお名前呼んだから、覚えたのね」
「うん!」
『違う!俺は春輝でハルちゃんなんだって!』
春輝は動揺していた。
人間の頃の名前、一條春輝が子犬のハルちゃんに上書きされた瞬間だった。
陽菜は高いテーブルの上から何かを取り出す。
「ジャーン!ハルちゃんのおもちゃだよ」
『普通のボールだな』
「えいっ」
陽菜は、ボールらしき物を投げる。
春輝は動かなかった。
『さすがに俺、人間だしな』
「……ハルちゃん新しいおもちゃ嫌だった?」
悲しそうな声。
顔は俯き、目からは涙が滲む。
『お、おい!こんなことで泣くなよ』
春輝はいそいで走り出す、ボールの元へ
両手で掴もうとすると隙間から逃げた。
『なんだ、結構むずいな』
口を使い、軽く噛むとピッと音が鳴った。
『押すと音が鳴るタイプか』
口で押し付けてピッピと鳴らす。
『陽菜!ほら遊んでるぞ!見てるか?』
後ろをくるりと振り返る。
陽菜は真剣にスマホで撮影していた。
おそらく動画だった。
『お前、せっかく遊んでやってるんだから肉眼で見ろ!』
そう文句を言いつつ、陽菜の前でピッピと鳴らし続ける春輝だった。
「陽菜ちゃん、そろそろ終わりにしてね」
「……は〜い」
陽菜は、少し物足りなそうに返事をした。
『もう終わりか』
春輝はボールから離れ、てくてくと柔らかいタオルの上に戻った。
陽菜は目を丸くして春輝を見つめた。
『あ、まずかったか……』
「ハルちゃん、自分で戻れてえらいね!」
『俺が人間だって、まだバレてないな』
陽菜はサークルの上から身を乗り出して春輝を撫でた。
温かい温度がじんわりと体に広がっていく。
春輝は目を細めて陽菜の手を受け入れていた。
『撫でられるの気持ち良いな』
春輝は、ころんと横たわりお腹を見せた。
足を開いて陽菜の手を待つ。
『これ腹の方が気持ち良いんじゃ……』
「陽菜ちゃん、おやつにしましょ。」
「は〜い!」
『……』
パッと離れる手。
春輝は腹を見せ、足を広げた状態で放置された。
プルプルと足が震える。
「ちゃんと手をよく洗うのよ」
「は〜い!ママおやつ何?」
「今日はね……」
春輝はそっと足を閉じた。
柔らかいタオルの上で座る。
軽い尿意がして周りを見渡した。
『陽菜は見てないな』
青いシートの上で力を抜くと水の音が響く。
腰を落とし最後の一滴まで絞り出す。
春輝は小さく息を吐いた。
くるりと振り向く。
春輝の後ろで陽菜はスマホを向けていた。
ピロリンと鳴る電子音。
『この音は……動画か!』
「ハルちゃんスッキリした?」
『毎回撮影しやがって!人権知らないのか』
「ママ〜可愛く撮れたからパパに送っていい?」
『やめろ!』
「いいわよ」
『と、めろよ……』
春輝はもっと怒りたかったが、子犬の体はすでに体力の限界だった。
瞼は次第に重くなり、完全に落ちた。
数十分後、ひっくり返りお腹を出して眠る春輝を陽菜は連写するのだった。




