俺、服を着る。
ソファの前でちょこんと座る白いポメラニアン。
その表情は真剣だった。
向かいには、教科書を読み上げる陽菜。
『ちゃんと読点と句読点に気をつけろよ!』
春輝は審査員になりきっていた。
『陽菜、だいぶスラスラ読めるようになってきたな』
陽菜がパタンと教科書を閉じた。
春輝は陽菜の足の上に手をついて、ふんわりとした尻尾を振った。
『なあ、今日はどこ行くんだ?』
『公園か?』
春輝は、陽菜との散歩が楽しみになっていた。
ピンポーン。
チャイムの音。
「あら?誰かしら?」
ママは、インターホンで何かを話す。
そのまま、玄関に向かった。
『ママ!誰だったんだ?』
春輝は、テクテクとママの後ろをついていく。
ドアの向こうにいたのは、配送屋さん。
一つ、ダンボールの箱が届いた。
「陽菜ちゃん!届いたわよ!」
「ホント?やったぁ!」
『なんだ陽菜の買い物か』
『おもちゃか、シールとかか?』
陽菜の隣でダンボールを覗き込む。
春輝は目を丸くした。
箱の中身はピンク色だった。
濃淡はあれど統一されたピンクだった。
『陽菜……結構攻めたなあ』
『やっぱ女の子ってピンク好きなんだな』
春輝はサークルに水を飲みにくるりと踵を返した。
「ママ〜!ハルちゃんのお洋服届いたぁ!」
春輝は水を吐き出した。
激しく咽せた。
『お、俺ぇぇ?』
『陽菜!俺、男だぞ!?』
ママは陽菜の隣でダンボールから次々と服を取り出し、並べていく。
『おいおい……何着買ってんだよ!』
春輝はブルブルと体を震わせた。
ふんわりと毛が広がる。
『陽菜、ママ!俺は絶対着ないからな!』
「ハルちゃんはどれが好きかなあ」
「ママ〜、ハルちゃんこれが良いって!」
『俺は言ってねえぞ!勝手に決めんな!』
手に取ったのは、ピンク、フリフリ、リボンの可愛いワンピースだった。
陽菜が楽しそうに微笑む。
「ハルちゃ〜ん!お着替えしよ!」
『……これ、行かなきゃダメか?』
春輝はサークルの中で立ち尽くしていた。
──数分後。
「ハルちゃん、可愛い!」
陽菜の声と共にシャッター音が鳴り響く。
何度も。
さらに連写の嵐だった。
春輝は、ピンクに染まっていた。
静かに俯いた。
『俺、男なのに……』
視界にチラリとピンクのフリフリが映る。
春輝はそっと天井を見上げた。
「ママ〜!ハルちゃんとお散歩行ってくるね!」
『この格好じゃ……む、むりだぞ!』
陽菜は嬉々としてリードを持ってくる。
カチャッ。
絶望の音。
「ハルちゃん!行こうっ!」
陽菜の足取りは軽かった。
その後ろをやけに挙動不審なポメラニアンはついて行く。
『……誰にも会いませんように!』
ママは目を細めて二人を見守っていた。
「もう保育園の効果が出てるのね」
ママの手には申し込み書類が握られていた。




