俺、抱き合う。
サークルの中に入ったトレーナーがボールの笛を鳴らす。
犬達がボールに向かって走り回っていた。
春輝はマロンの横でちょこんと座っていた。
「人間さん、あなたも遊んで来たら?」
『……俺はいい』
『そういう気分じゃねえんだ』
春輝はみんなの前で漏らしたことを気にしていた。
実は繊細な元男だった。
窓の外からは柔らかい日が差し込む。
春輝はウトウトと目を細めた。
「人間さんってば、ほんとに仕方ない子ね」
マロンは春輝を包むように横になる。
春輝はドッグフードの匂いに包まれ、夢の中に落ちていった。
「ハルちゃん!」
ビクッと体を揺らす春輝。
目を開くと一面がド派手なピンク色に染まっていた。
『うわぁぁ!ぴんくぅぅ!』
「なによ……失礼ね」
春輝はマロンに抱かれて眠っていた。
「ママ〜ハルちゃんがね、マロンちゃんとぎゅってして寝てたよ!」
「本当ね。そんなに仲良くなったのね」
ママは優しく微笑んだ。
『いや、陽菜違うんだ!これは、その、事故だ!』
春輝は立ち上がり、陽菜に向かって言い訳を続けた。
「……何焦ってんのよ。人間さんって変ね」
マロンは小さく息を吐くと外を眺めた。
トレーナーがサークルに入り、春輝を抱き上げる。
宙に浮く春輝。
マロンの背中が少しだけ寂しげに見えた。
『……マロン!また散歩で会おうな!』
マロンは目を見開くとハッハッと笑って見せた。
「変な人間さん、またね」
透明なサークルの板がマロンの吐息で白く曇った。
「ハルちゃん!おかえり!」
陽菜がトレーナーから春輝を受け取り、抱きしめる。
春輝は興奮し過ぎないように呼吸を整えた。
ふんわりと尻尾を振る。
『陽菜、帰ったぞ!』
トレーナーと話をするママ。
陽菜は春輝を床に降ろすとキャリーケースを開けた。
「ハルちゃんお家帰ろ!」
『おう!』
テクテクと中に入る。
トレーナーが目を丸くする。
「この子、かなり頭が良いですね。言葉を理解していますよ」
「え?そうなんですか?」
『そうだぞ!ママ!』
春輝は扉の隙間から舌をペロペロと見せた。
「セラピードッグや介助犬にも向いているかもしれません」
「ええ!?本当ですか?」
ママは目をキラキラと輝かせた。
とても乗せられやすかった。
『こりゃ保育園の契約しちまったな』
春輝はキャリーケースの中でフンッと鼻を鳴らしていた。




