俺、教わる。
犬が自由に歩き回る広いサークルの中。
春輝はリードをつけて散歩していた。
ただ、スタッフの横を歩いていた。
犬達は春輝を丸い目で見つめていた。
『おい、犬!……見過ぎだろ』
「ハルちゃん、お散歩上手だね!」
スタッフはメモを取りながら春輝を見ている。
「うーん……全然問題ないなぁ」
スタッフは首を傾げた。
『あっ……そういうことか!』
『俺が陽菜に熱血指導し過ぎたのか』
春輝は全てを理解した。
リードを外されると、春輝はマロンへ向かった。
『マロンわかったぞ!俺が連れてこられた理由!』
『陽菜のリードを引っ張ったからだぞ!』
春輝はなぜかドヤ顔していた。
マロンは横目に春輝を見ると、そっと目を逸らした。
『なんだよ!マロン!今日は冷てえじゃん』
「人間さん、あなた心配にならない?」
『何がだよ?』
「もう迎えに来ないのかもって」
『ねえな!』
即答する春輝。
フンッと鼻まで鳴らした。
「……そう」
マロンは小さい声で呟くとサークルの隅で外を見続けた。
『マロンのやつ。なんか変だな』
春輝はモゾモゾと床をクンクン嗅いだ。
生理現象だった。
『そろそろトイレ行っとくか!』
広いサークルの中を歩くと見覚えのある青いシート。
『おっ!あった。あった』
春輝は立ち止まる。
『何だよ……あいつ……』
目の前にはトイレに寝そべる犬。
気持ちよさそうに寝息を立てていた。
『こ、このパターンは初めてだ!』
春輝は動揺した。
トイレに近づき声をかけてみた。
『すいませーん。俺、ちょっとそこに出したい物があって』
薄らと目を開ける犬。
『ちょっと避けてもらいたいんですけど!』
再び目を閉じる犬。
『まじ!?こういう場合ってどうすんの?』
モジモジと動き回る春輝。
限界は近い。
「人間さん、教えてあげるわ」
『マロン!助かった!』
マロンはトイレで眠る犬の側に行くと、眉間に皺を寄せた。
大きく息を吸う。
「どけなさあぁぁぁいいい!!!」
大声で吠え立てた。
飛び起きた犬は、さっさとサークルの隅に逃げて行った。
「ほら、人間さ……あら」
くるりと振り返ったマロンは小さく息を吐いた。
白いポメラニアンは、サークルのど真ん中で震えながら全てを放っていた。
悲しい音が響く。
「見ろよあのチビ、漏らしてるぞ」
「可哀想」
犬達の笑い声と同情の声が上がる。
春輝は天井を見上げて小さく震えていた。
『……ま、マロン。次からは大声出すって事前に言ってくれない?』
「人間さん、あなた成長しないわね」
マロンのドッグフードの匂いが漂っていた。




