俺、保育園にいく。
ガタガタと揺れる車の中。
さらにキャリーケースの中で春輝はウトウトと目を細めていた。
『……今日はどこ行くんだ?』
車は静かに進む。
「ハルちゃん、着いたわよ」
ママの優しい声。
キャリーケースを優しく持ち上げた。
春輝は扉から外の様子を伺う。
『うわっ、犬だらけじゃねえか!』
大きなサークルの中には色々な種類の犬が走り回る。
サークルの端では、のんびりと座る犬。
春輝は思わず二度見した。
端に座る柴犬。
見覚えのあるピンクのTシャツ。
『マロン!?』
「……あら、ご近所さんの、マロンちゃんじゃない?」
『おっ、ママも名前覚えたんだな』
そこに犬のリードを斜めにかけた男性スタッフが声を掛けてきた。
「叶内さん、ですか?」
「はい。今日はよろしくお願いします」
深々と頭を下げるママ。
話している内容から察するに、ここは犬の保育園らしかった。
『俺、大学行ってたのに保育園かよ!』
ゆっくりとキャリーケースの扉が開く。
テクテクと外に出ると体がふわりと宙に浮いた。
「今日はお試しでショートステイですね」
「頑張ろうね!ハルちゃん」
男性スタッフは爽やかに微笑んだ。
ママは少しだけ心配そうに眉を下げる。
手を振る間も何度か振り返った。
「ハルちゃん、中に入ってみんなと遊んでみよう」
『犬と遊ぶ?そういや遊んだことはねえな』
春輝はサークルの中に入ると、マロンの元に駆けていった。
いつものように息を止めながら犬の挨拶をする。
『……ぷはぁ。マロン、お前ここに来てたんだな』
「人間さんも保育園?世間は狭いわね」
ハッハッと息がかかる。
今日はドッグフードの匂いがした。
『俺、ママに連れてこられたんだ。何かやっちまったかな?』
春輝は全く自覚がなかった。
「……人間なんて、そんなものよ」
『?』
「ほら、人間さんトレーナーがこっちに来てるわよ」
『トレーナー?』
「ここのボスよ」
男性スタッフは春輝の隣にくると首にリードをつけた。
カチャ。
『ん?なんだ?』
「ハルちゃん、お散歩の練習してみようか」
『練習ってここでか?』
春輝はキョロキョロと周りを見回す。
犬達はじっと春輝を見つめる。
『すげー見てくんだけど』
春輝は緊張しながらも男性スタッフの隣を歩いた。
尻尾はだらりと床につく。
『こんなつまんねえ散歩初めて……』
春輝はすぐにでも帰りたかった。




