俺、センチメンタルする。
水色の術後服を着た白いポメラニアン。
ぼーっと窓の外を眺めていた。
ふんわりとした尻尾は、ピクリとも動かなかった。
『なんか、やる気でない』
「ハルちゃん!ボールで遊ぼ!」
陽菜はボールを見せ、コロコロと転がす。
春輝はボールの行く先を見送った。
『悪いな陽菜』
『なんか俺、そういう気分じゃなくてさ』
陽菜は心配そうに春輝を覗き込んだ。
隣に座り、そっと体を撫でる。
「ハルちゃん、どこか痛いの?」
不安げな陽菜の目は、じわりと潤む。
『違えよ。なんかセンチメンタルなだけだ!』
春輝はセンチメンタルと言ってみたいだけだった。
意味もちょっと自信がなかった。
「ママ〜!ハルちゃんが元気ないみたい」
ママが春輝の元にきて、様子を観察する。
ふんわりとした胸を優しく撫でた。
「まだ痛みがあるのかしら?」
『おっ!そういえば、もう痛くねえな』
ママは立ち上がり、スマホを手に取った。
「陽菜ちゃん、ママちょっと病院にお電話してくるわね」
「……うん」
心配そうに陽菜は俯いた。
『大袈裟だな。気分が乗らない時だってあんだろ』
春輝はまた外をぼんやりと眺めた。
陽菜は隣に座り、同じように外を眺める。
「ハルちゃん、何見てるの?」
『ん、いや別に何見てるってわけじゃ……』
外をたまたま通りかかる犬が一匹。
飼い主とお揃いのピンクの派手なTシャツが目を引いた。
『お、マロンだ』
陽菜がパァッと嬉しそうに顔を上げる。
「陽菜、わかったあ!」
『……ん?』
「ハルちゃんピンク色のお洋服が着たいんだぁ!」
『んなわけないだろ!』
「ママ〜」
パタパタと陽菜はママの元に走っていく。
『陽菜!頼むからピンクだけはやめてくんない?』
急いで陽菜の後ろを追いかける春輝だった。
ママが少し暗い顔で通話終了ボタンをタップした。
「ママ〜!陽菜ね、ハルちゃんが欲しいもの分かったの!」
「なあに?」
「ハルちゃんはね、ピンク色のお洋服が欲しいんだよ!」
ママは何度か目を瞬きさせて、フッと微笑んだ。
「あら、そうなの?教えてくれてありがとう」
「うん!」
『だから違えって!』
『ママ!ピンクだけはいらねえからな!』
春輝はフンッと鼻を鳴らすとまた窓の下に戻って行った。
ママは小さく息を吐いた。
優しい声で陽菜に話しかけた。
「陽菜ちゃん、あのね」
「なあに?」
「ハルちゃん、手術のせいで少しだけ元気が無くなっちゃうことがあるみたい」
「ママ、それって痛いの?」
「痛いからじゃないみたい」
「良かったあ」
陽菜は安心したようにニコリと笑った。
ママは陽菜の髪の毛をそっと撫でた。
「ハルちゃん早く元気になるといいね」
「…….そうね」
ママは、ポチポチとスマホを操作する。
ピンク、犬、洋服。
検索ボタンをタップした。
「陽菜ちゃん、これなんてどう?」
「陽菜はね〜、このフリフリのがいい!」
「ハルちゃん喜んでくれるといいわね」
一方その頃。
窓の下には白い毛玉が一つ。
クシュッ。
春輝は、くしゃみをしていた。
『なんだ?誰か噂したか?』
春輝は鼻水を垂らしながら外をぼーっと眺め続けた。




