俺、ズキズキする。
暗い夜道をライトは照らし、車は家へ向かって走る。
キャリーケースの中で白い子犬は丸くなっていた。
『いざ、失ってみると大したことなかったな』
春輝は余裕ぶっていた。
車の中では、陽菜の元気な声が続いていた。
「でね、まきちゃんがすごいって言ったの」
「そう!良かったわね」
「うん!」
『陽菜は友達ともうまくやれてるみたいだな』
ママが思い出したように問いかける。
「陽菜ちゃん、もうすぐ運動会ね」
「……うん。」
少し元気のない声。
ママは少しだけ目を細めた。
「お弁当は何がいいかしら?」
「お弁当!えっとね、お花の卵焼きと〜」
『陽菜はかけっこが苦手って言ってたな……』
春輝はキャリーケースの中で立ち上がった。
『俺が特訓してやらねえとな!』
その時、車がカーブを曲がった。
キャリーケースがガタンと跳ねるように動く。
春輝は真横にころりと転がった。
『おいママ!今日の運転荒いぞ!』
「ハルちゃん大丈夫だった?」
春輝は返事の代わりに鼻をフンッと鳴らした。
家に帰るとパパが帰ってきていた。
「おかえり」
「パパ〜!」
『パパ!お疲れさん!』
玄関でキャリーケースから出てきた春輝は、テクテクとリビングに向かう。
「陽菜、ハルちゃんのお迎え行ってきたんだよ」
「ハルちゃんも陽菜がいて安心したんじゃないか?」
「うん!ハルちゃん、またおしっこしちゃったよ」
『陽菜!やめろ!』
「ハルちゃんはいつもお漏らししてるな」
『言うなぁ!』
「まだ子犬だものね」
ママの優しい声。
「今日は頑張って疲れたでしょう。ゆっくり休ませてあげましょうね」
「うん!」
ママはサークルの中のタオルをふんわりと畳んで整える。
春輝はサークルに向かってパタパタと駆け出した。
その時。
ズキッ。
『痛って』
ぴたりと立ち止まる。
『え?なんだ?』
また一歩踏み出す。
チクッ。
『なんか痛えんだけど!』
春輝はサークルまで一歩ずつゆっくりと進む。
慎重に腰をおろす。
ズキッ!
『俺、人間だからギリ耐えれるけど……犬だったらキツイぞ!』
ママが思い出したようにガサガサとカバンから小さな紙袋を取り出す。
「ハルちゃんのお薬飲ませないと!」
「お薬?」
「痛くないようにするお薬よ」
「ハルちゃん痛いの?」
陽菜は心配そうにサークルを覗き込む。
春輝の背中を優しく撫でる。
『陽菜、俺は大丈夫だぞ!』
『ちょっとピリピリするだけだ!』
ママは春輝に小さな錠剤を差し出した。
「このままじゃ飲めないかしら?」
『ママ!段々痛くなってるから早くくれ!』
春輝はママの手に乗った錠剤をペロリと口に入れ、すんなりと飲み込んだ。
『ふう。これで痛くなくなるんだな!』
「ハルちゃん……?」
眉を寄せ不思議そうに見つめるママと陽菜。
春輝はドキッと心臓が跳ねた。
『やべえ。……俺が人間だってバレたか?』
春輝は気まずそうに両耳を下げ、二人を見上げた。
「ハルちゃん!そのまま飲めるなんて偉いわ」
「陽菜もゼリーとじゃないと飲めないのにスゴ〜イ」
『……今日はいっぱい褒められたな』
春輝はふんわりとしたタオルの上で、大きくあくびをしたのだった。




