俺、目覚める。
ガシャン。
金属のぶつかる音。
春輝は薄らと目を開けた。
床には知らないタオル。
『……どこだよ。ここ』
顔を上げキョロキョロと見回す。
銀色の檻。
外では人が忙しなく歩き回る。
春輝は思い出した。
『お、俺の元気玉……!』
春輝は、二つの袋を確認しようと足を広げた。
『あれ?俺、服きてる』
『これじゃ分かんねえ』
ギィィ。
檻の開く音。
「ハルちゃん、お水飲もうか」
『おっ。丁度ノド渇いてたんだよ!』
看護師が器を差し出す。
春輝はふわふわの尻尾を大きく振りながら器を覗き込んだ。
器には、ほんの少しの水。
『えっ?何これドッキリ?』
看護師をチラリと見上げながら、水を飲む。
すぐに飲み終わった。
飲むというより舐めるだった。
看護師は春輝の頭を優しく撫でた。
「ハルちゃん、偉いねぇ」
『まあな、俺人間だからさ』
『ちょっと俺の元気玉見たいから服脱がしてくれない?』
ガシャン。
扉は閉まった。
「叶内ハルちゃんのお迎えって?」
「十八時みたいよ」
『日帰りか……まだ時間があるな』
春輝は手を前に出し、タオルに腹をつけた。
扉の向こうで動く人の足。
大きく口を開け、あくびを繰り返す。
春輝の目はゆっくりと細くなっていた。
ギィィ。
ビクッと飛び跳ねる体。
春輝は半目で扉を見つめた。
「叶内ハルちゃん、お迎えだよ」
『……もうそんな時間か?』
春輝は体をブルブルと震わせる。
寝癖がついた顔と尻尾の毛がふんわりと立ち上がった。
大きな手に抱えられる。
降ろされた場所は黒い滑り止めがついた台だった。
『ここ診察室だな』
先生が春輝を撫で、聴診器を当てる。
カラカラと扉が開く。
「ハルちゃん!」
陽菜の声。
それだけで春輝の小さい胸がいっぱいになった。
ふんわりとした尻尾が激しく動く。
『陽菜!俺、俺、大事なもの無くした』
『……まだ見てねえんだけどさ』
陽菜は台の上で尻尾をふる春輝を優しく撫でた。
春輝の尻尾は止まらなかった。
『や、やばい。そろそろ落ち着かないと……』
陽菜の隣でママも春輝を撫でる。
『や、やめ』
そして──
ショロロ……
「あっ!ハルちゃんが!」
陽菜が大きな声で指を指す。
「ママ〜!ハルちゃんがおしっこ漏らしちゃった」
「ハルちゃん、いつもと一緒ね」
少し安心したようなママの声。
『お、お前らワザとやってねえか?』
先生は垂れた目を細め、頬を上げた。
感心したように腕を組み頷く。
「普通の子は違和感で我慢しちゃうのに、ハルちゃんは偉いな」
『褒められても嬉しくねえ!』
結局、春輝は自分の目で玉の確認をすることはできなかった。




