俺、嬉ションする。
リビングを駆け回る白いポメラニアン。
今日も春輝は、陽菜が投げるボールを追いかけていた。
『陽菜!もっと振りかぶって投げてみろよ』
「ハルちゃん!いくよ〜!」
手から離れるボール。
春輝がいる場所より奥に飛んでいく。
『まあ悪くはねえな』
春輝はふわふわの尻尾を大きく振りながらボールに追いつく。
「ハルちゃん走るの早いね」
『まあ犬の体だしな』
『人間の時より軽いぞ』
「陽菜、かけっこ遅いから……」
急に俯きだす陽菜に春輝は駆け寄る。
足元でくるりと回って見せた。
『もっと手を振ると良いらしいぞ!』
「どうしたら早くなるかな」
『犬じゃ伝わんねえな』
春輝は可愛く首を傾げた。
「陽菜ちゃん、今日はハルちゃんのお散歩は行かないの?」
「……行く」
少しだけ元気がない陽菜を春輝は気にかけていた。
『よっしゃあ!じゃあ紐持ってくるわ』
長いリードを咥えながら、テクテクと陽菜の足元にやってくる。
背中を向けて陽菜にリードを付けさせた。
春輝と陽菜は玄関を勢いよく飛び出していった。
『公園の方行ってみようぜ』
「公園に行ってみようかな」
『おっ、伝わったか?』
春輝は風に逆らうようにぴょんぴょんと跳ねながら進んだ。
「ハルちゃん!早いよ〜」
『俺のスピードについて来い!』
この日の春輝は強気だった。
オラオラ系だった。
公園につくとすぐどこからか声が飛んできた。
「陽菜ちゃーん!」
陽菜はキョロキョロした後、大きく手を振った。
「あかりちゃん!まきちゃん!」
陽菜と同じくらいの女の子が手を振りながらやってくる。
『おっ!学校の友達か?』
『陽菜が世話になってるな!これからも頼むぞ』
春輝は陽菜の足元でおすわりすると、胸を張ってみせた。
ふんわりと白い毛が膨らむ。
「陽菜ちゃんのワンちゃん?」
「触りたーい!」
「いいよ!ハルちゃんって言うの」
「ハルちゃんおいでー」
女の子に囲まれる春輝。
『なんか緊張するな』
白いふわふわの春輝の体を小さい手が撫でる。
『まあ悪くないな』
春輝はうっとりと目を細めた。
そのまま足がゆっくりと上がり、くるりとお腹を向けた。
『子犬のサガで勝手にひっくり返っちまう』
『……座りたいのに起き上がれねえ!』
春輝は内心慌てていた。
尻尾はいつも以上に高速で動く。
自分の意思では止められない。
『お、俺どうなってんだ!勝手に体が……』
小さな手がお腹を激しく撫でた。
次の瞬間。
プシャッ。
「きゃっ!」
「ハルちゃん、おしっこ出ちゃった!」
『ひぃぃ。逮捕される!』
春輝は必死で尻尾で隠そうとするが、高速で動く尻尾が止められない。
「まだ子犬だからおしっこしちゃうんだね」
「赤ちゃんと一緒だね!」
『やめろ!頼む……もう忘れてくれ!』
陽菜と陽菜の友達は顔を見合わせて、楽しそうに笑っていた。
春輝だけが床で股を開き、寝そべっていた。
尻尾いつまでも高速で動き続ける。
『もう誰か止めてくれー』
春輝は久しぶりに心の中で涙を流した。




