俺、舐める。
ランドセルを丁寧に拭き上げていくママ。
春輝は陽菜の足に手を置いた。
『陽菜、何かあったなら話してみろよ』
『こう見えて俺、年上なんだぞ!』
陽菜は俯いたまま、唇をキュッと噛み締めていた。
「ママ……あのね、」
陽菜がぽつりと話し出した時、ママのスマホが鳴り出した。
ビクッと肩を震わせる陽菜と春輝。
「陽菜ちゃん、ちょっと待っててね」
ママはスマホをスワイプすると、耳に当てた。
電話先の話を少し聞くとリビングからゆっくり出て行った。
陽菜の口からは小さく息が漏れていた。
春輝は陽菜を見上げて、耳を下げた。
『こういう時、人間なら声かけれるのにな』
陽菜の足元でそっとおすわりして待つ春輝だった。
ママが話を終えてリビングに戻ってくる。
陽菜は、さっきまでの元気はなくチビチビとおやつのクッキーを齧った。
ママが陽菜の隣に座り、そっと肩を寄せた。
それだけで陽菜の顔はどんどん歪んでいった。
目からは大きな水粒がポロポロと零れた。
「お友達とケンカしちゃったの?」
ママの優しい声。
小さな背中をそっとさする。
「……っ、陽菜がぁっ、きらいって、」
嗚咽。
それでも頑張って自分の口で話す。
「文字消すのっ、で、たたいたのぉっ……」
「そっか、陽菜ちゃん我慢したのね」
ママが優しく抱きしめた。
春輝は陽菜の足元でポロポロと落ちる雫を見上げていた。
『俺があと少しデカかったら……』
『あっ!そうだ!』
春輝はパタパタと玄関に駆けていった。
陽菜の足を手でカリカリと引っ掻く。
「……っ、ハルちゃん?」
鼻を啜りながら陽菜は足元を覗く。
春輝は口にリードを咥えておすわりしていた。
胸の毛がふんわりと膨らむ。
『今日、散歩行くって言ってたよな?』
『俺、頑張るからさ』
陽菜はフッと頬を上げ、笑うと春輝を抱き上げた。
「ハルちゃん、お約束してたもんね」
『おっこれなら届くぞ!』
春輝は陽菜の頬をペロペロと舐める。
大粒の涙も全部なくなった。
『しょっぺ!』
「ハルちゃんがお顔ペロペロした!」
陽菜はさっきの泣き顔が嘘みたいに笑い出す。
ママは春輝の頭を撫でる。
「……ハルちゃん、ありがとう」
小さく呟いた。
『陽菜を笑わせるなんて簡単だからな』
春輝は舌なめずりしながら陽菜の頬をもう一度舐めた。
カチャ。
『ん?』
陽菜は嬉しそうに春輝の首輪にリードを付ける。
膝から春輝を下ろすと玄関へ歩き出した。
「ハルちゃん、お散歩いこうね」
『あ、まじ?』
春輝は陽菜の後ろをやけにゆっくりとついて行った。




