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森番の娘は魔王様?!〜魔物にご飯と仕事をあげていたら、辺境村が魔王領扱いされました〜  作者: 志摩 伊純


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第23話 キキの言葉と庇護の願い

第1部:辺境領と教会編

第5章:ゴブリン小集団と柵作り


 木札を境に、誰も動けなかった。内側には、ミナたち。外側には、キキと大人ゴブリンたち。その奥、森の影から金色の目が見ている。ロウたちは動かない。大人ゴブリンたちは、動けない。村の家々の戸口は、半分だけ閉じられたまま。


 水路では、ぷるが二つ、静かに揺れていた。鳴子の音が、まだ耳に残っている。


 から。


 乾いた、小さな音。それだけで、誰かが走り出しそうだった。ミナは木札を見た。古い板に、黒い線が一本。


 こちらが村。


 向こうが森。


 本当は、そんなにきれいに分かれるものではない。でも今は、その黒い線がないと、全部が一度に崩れそうだった。


「村には入れない」


 ミナは木札の黒い線から目を離さなかった。


「ロウも入らないで。ゴブリンたちも、そこから先はだめ」


 ロウの耳が少し動く。


 大人ゴブリンたちは、言葉が分かったわけではないのかもしれない。けれど、ミナの手が木札を指し、村の側を止めるように動いたのは見ていた。


「撃たない。噛まない。近づかない」


 ガルムの弓は下りていない。ロウたちの金色の目も、森の影に残っている。大人ゴブリンたちの手には、棒や欠けた金具。それでも、今は誰も動かない。


「まず、聞く」


 キキが小さく息を吸った。


「ミナ、きく?」


 声は震えていた。


 ミナの視線が、木札の外側のキキへ移る。キキはそこにいる。隠れ場所から出て、ミナと大人ゴブリンたちの間に立とうとしていた。でも、足は逃げる形のまま。肩は上がり、耳は伏せている。胸の前には、いつもの木片。それを、ぎゅっと握っていた。


「うん。聞く」


 ミナは膝を少し折って、目線を下げた。


「でも、怖かったら下がっていいよ」


 キキは首を振る。


「キキ、いう」


「無理しなくていい」


「ミナ、きく」


「うん。聞く」

「ゆっくりでいい。言えるところだけでいい」


 キキは大人ゴブリンたちを見た。大人ゴブリンたちも、キキを見ている。そこにある目は、優しくはない。疲れていて、飢えていて、怖がっている。でも、歯もある。棒もある。怪我人を支えている腕にも、まだ力は残っていた。キキは喉の奥で、何かを鳴らした。言葉になる前の音だった。


「むずかしい」


「うん。難しいね」


 ミナの声はすぐに返った。


「分かったところだけでいい」


 キキは、またうなずこうとして、途中で固まった。ルシェラが動いたからだ。


「ふむ」


 ルシェラは、ミナの後ろから一歩出た。その顔は、いつものように偉そうだった。でも、目はキキを見ている。肉を見ている時でも、鍋を見ている時でもない目だ。


「小さき者が、群れの前に立つか」


 キキの肩がびくっとした。


 ルシェラは気にせず、ゆっくりうなずく。


「その勇気やよし」


「ルシェラ?」


 ミナの視線が、ルシェラの足元へ向く。


 ルシェラは、当たり前のようにキキの後ろへ立った。木札の外ではない。ぎりぎり内側。ただし、キキの背中に、古い山みたいな圧が乗る。


「案ずるな。後ろにおる」


「ちょっと今はふざけな……」


 ミナが言い終える前に、大人ゴブリンたちが崩れた。一体が、かすれた声を上げる。怪我人を抱えたまま、後ろへ下がろうとするものがいる。棒を握り直すもの。欠けた金具を持つ手が震えているもの。膝をつきかけたもの。耳が伏せられ、目が一斉にルシェラへ向いた。それから、ロウたちへ。村側へも。


 どこにも逃げ場がない。


「なんだ」


 戸口の奥で、誰かの声がした。


「武器を上げたぞ」


「やっぱり襲う気じゃないのか」


「魔狼も動いた」


「子どもは下がれ!」


 バルドの声が飛ぶ。


「戸を閉めろ。出るな!」


 トマがすぐ横から離れ、村人たちの方へ走った。


「下がれ。戸の内側。見るなら隙間からにしろ、外へ出るな」


「トマ!」


「分かってる。前には出ない」


 言いながら、トマは子どもがいる戸口の前へ立つ。ガルムの弓が少し上がった。


「くるぞ!」


「撃たないで」


 ミナの手が、すぐに小さく上がった。


「こっちには来てない。逃げようとしてるだけかもしれない」


「近い」


「分かってる。でも、今撃ったら散る」


 大人ゴブリンの一体が、ルシェラから逃げるように横へ走りかけた。そこは森側だった。金色の目がある。魔狼の一体が、一歩だけ前へ出る。吠えない。噛まない。牙も大きくは見せない。


 でも、道は消えた。


 ゴブリンは、喉を詰まらせたような声を出して止まる。別の一体も、怪我人を引こうとして動けなくなった。ロウたちは、逃げ道を塞いでいる。ただし、ルシェラへは近づかない。森の影の中で、いくつかの耳が低く伏せた。目をそらすものもいる。ロウだけは、すぐには目をそらさない。それでも、ほんの少しだけ身を低くしていた。


 トマが戸口のそばから、ひきつった声を出す。


「ロウたちまで静かになったぞ」


「それはそれで怖い」


「だよな」


 ルシェラは、特に顔色を変えることもなく泰然としていた。キキが話そうとしている。なのに、大人ゴブリンたちが騒いでいる。ルシェラには、そう見えたのだと思う。


「控えよ」


 声は大きくなかった。でも、森の端まで落ちた。大人ゴブリンたちが止まる。ロウたちも動かない。村人の声まで、一瞬止まった。ルシェラはキキの後ろで、腕を組む。


「王の小さな代理人が、物申すと言っておる」

「傾聴せよ」


 静かになった。静かになったが、安心できるわけでもない。怖さの形が、変わっただけだった。大人ゴブリンたちは固まっている。棒は少し下がった。欠けた金具を持つ手も、わずかに落ちた。怪我人を抱えた二体は、そのまま動けない。


 ロウたちの金色の目は、横へ流れない。ただ、森の影で控えている。村人たちは、意味が分からないまま戸の隙間から見ていた。


「静かに……なった?」


「なんで?」


「ルシェラさん、今、何を」


「王って誰だよ」


 トマの声だった。


「今、ミナのこと言ったよな?」


「違う」


 ミナは間を置かず首を振った。


「違うのか?」


「違う」


「いや、今の流れだと絶対……」


「今そこ拾わないで」


「なんで誰もそこに突っ込まないんだよ」


「突っ込んでる場合じゃない」


 ミナはルシェラを見上げた。


「ルシェラ、後ろにいるだけね」


「いるだけだ」


「睨まないで」


「見ておるだけだ」


「怒らないの」


「わたしは、話を聞かせようとしただけだ」


「うん。ありがとう」

「でも、怯えてる」


 ルシェラは不満そうに眉を寄せる。


「むう」


「あと、王じゃない」


「小娘の言葉を運ぶのだ。代理人であろう」


「代理人でもない」


「魔のものが控え、牙どもが待つ。ならば王であろう」


「王じゃない」


「では何だ」


「通訳」

「今日は通訳」


 キキが、小さくミナを見た。自分の話だと分かったのかもしれない。あるいは、ルシェラが怖すぎて、ミナの声だけ聞いていたのかもしれない。


 ルシェラは少し考えた。


「むう。小さな通訳か」


「うん、通訳」


 ミナは木札をもう一度指す。


「ロウは噛まないで」


 ロウの耳が動く。


「ガルムさんも撃たない」


 ガルムは弓を構えたまま、目だけでミナを見る。


「まだ撃たない」


「まだ、だ」


「うん。まだ」


 ミナは大人ゴブリンたちの棒と欠けた金具を見た。


「ゴブリンたちは近づかない。武器を上げない」


 通じたかは分からない。でも、キキが震えながら同じように木片を下げる。


「だめ」


 キキの木片が、下へ小さく動く。


「上げる、だめ」


 大人ゴブリンたちがキキを見る。一体が、かすれた声で何かを返した。キキは肩をすくめる。でも、下がらなかった。


「キキ」


 ミナの声に、キキの耳が少し動いた。


「怖かったら、下がっていい」


 キキは首を振る。


「ミナ、きく」


「うん。聞く」


「キキ、いう」


「言えるところだけでいい」


 キキは、大人ゴブリンたちの方へ向き直った。木片を握りしめたまま、何かを短く鳴く。大人ゴブリンの言葉だ。


 ミナには分からない。


 音は硬く、喉の奥で割れている。大人ゴブリンたちの中で、一体が返した。別の一体が、手を動かす。森の奥を指す。ロウを指す。怪我人を指す。自分の腹を押さえる。欠けた金具を見せる。


 その金具は、武器にも見えるし、何かをこじる道具にも見えた。キキは目をぎゅっと閉じかけた。


「キキ、ゆっくり」


 ミナは声を抑えた。


「分かったところだけでいい」


 キキは息を吸う。


「ゴブ」


「うん」


「おおきい」


「キキより大きいね」


「こわい」


「怖い」


 キキはロウを指した。


「ロウ、こわい」


「ロウも怖い」


 ロウの耳が、また少し動く。


 ミナは見ないふりをした。


「ゴブ、ロウ、こわい」


「ロウが怖いんだね」


 キキはうなずく。


 それから、大人ゴブリンたちの一体が、自分の腕を見せた。泥の下に、古い傷がある。新しい血ではない。でも、腫れている。別の一体は、足を引きずる仲間の膝を示した。


 キキが眉間を寄せる。


「いたい」


「怪我してる?」


 キキの目が大人ゴブリンの方へ動く。短い声が返り、キキは首を傾げた。


「いたい。ある」


「うん。怪我はある」


 ガルムの声が低く落ちた。


「手負い程、危険だ」


「うん」


 ミナはうなずく。


「武器は見てる」


「うん、お願い」


 大人ゴブリンの一体が、森の奥を指した。


 その指は震えている。


 次に、手首を押さえるようなしぐさをする。何かをはめられたような、縛られたような動き。それから、逃げるように腕を振った。


 キキの喉が鳴る。


「ひと」


 村人の誰かが息を呑んだ。


「人?」


 トマの目がキキと大人ゴブリンの間で止まる。


 キキは言葉を探した。


「てつ」


 大人ゴブリンの一体が、欠けた金具を握った手を隠すように下げる。別の一体が、自分の肩を押さえた。


「いたい」


 キキの声は小さい。


「にげる」


 ミナは、すぐには聞き返さなかった。


 人。鉄。痛い。逃げる。


 それだけでは、何も分からない。人に追われたのかもしれない。罠にかかったのかもしれない。盗んだのかもしれない。追われるだけの理由があったのかもしれない。


 今は、まだ分からない。


「まだ決めない」


 ミナは自分にも言い聞かせるように、声を落とした。


 トマが横から戻ってきて、さらに声を低くする。


「今の、人って言ったよな」


「言った」


「鉄も」


「言った」


「人間に追われたってことか?」


「まだ決めない」


「ミナらしいな」


 バルドが杖を握り直した。


「村へは入れん」


「うん」


「木札の外でも近い」


「うん」


「聞くのはよい。決めるのは別じゃ」


「分かってる」


「食わせれば居つくぞ」


 ミナは黙った。


 大人ゴブリンたちの腹は、空いているように見える。腹を押さえたしぐさ。細い腕。土を掘った跡。それでも、今ここで食べ物を出せば、木札の線があいまいになる。


「食べ物は、少しだけ」


 バルドの顔が渋くなる。


「村の分を出すな」


「村の分は出さない」


 ミナは木札の内側で、出せるものを頭の中に並べた。


「くず根菜と、薄い汁。骨を煮た後の、薄いやつ」


 ルシェラが少し顔を上げる。


「肉ならあるぞ」


「今、肉を出すと寄ってくる」


「半分ほど」


「ルシェラが食べたいだけでしょ」


「半分ほど」


「やっぱり」


 トマが思わず吹き出しかけ、すぐ口を閉じた。笑う場面ではない。でも、少しだけ息が戻る。ミナは大人ゴブリンたちへ向き直った。


「食べ物は、少しだけ」


 通じない。


 でも、キキが聞いていた。


「キキ」


「うん」


「食べ物、少しだけ。村の中はだめ。こっちが置いて、下がってから取る」


「むずかしい」


「うん。難しい」


「たべる、少し」


「うん」


「こっち、だめ」


 キキは木札を指す。


「そう。木札の内側はだめ」


「上げる、だめ」


「うん。武器を上げたら、なし」


 キキは大人ゴブリンたちへ向き直り、断片的に声を出した。ゴブリンの言葉。人間の言葉。身振り。全部が混ざっている。大人ゴブリンたちは、すぐには動かなかった。


 一体が腹を押さえる。別の一体が、怪我人を見る。棒を持つ手は、まだ下がりきらない。


 ガルムの声は短かった。


「武器を下ろさせろ」


「キキ」


 ミナが口を開く前に、キキはもう木片を下げていた。


「だめ」


 キキの目が、棒を持つ大人ゴブリンへ向く。


「上げる、だめ」


 大人ゴブリンは歯を見せた。怒ったのか、怖がったのか分からない。でも、少しだけ棒が下がった。完全には下がらない。それで十分ではない。けれど、何もしないよりはましだった。


 ミナは足を動かさないまま、木札の線を見せた。


「村に入りたいの?」


 キキが大人ゴブリンたちへ向き直る。


 大人ゴブリンたちがざわめいた。一体が首を振るような動きをする。別の一体が、村側を見てすぐ目をそらす。怪我人を支えたまま、木札の外の地面を指した。森の方を見る。ロウを見る。


 キキが声を絞る。


「ここ」


「ここにいたい?」


「ここ……だめ?」


「今の場所は近すぎる」


 ミナはすぐ首を振った。


 キキが困った顔をする。


「近い、だめ」


「そう。村に近すぎる」


 大人ゴブリンの一体が、ロウを指した。ロウの金色の目が細くなる。そのゴブリンは、すぐ手を下げた。


「ロウ、かむ、だめ」


 キキの声が、森側へ細く落ちる。


「ロウは噛まない」


 ミナの視線が森の影へ向く。


「今は噛まない」


 ロウは返事をしない。


 ただ、森の影で息を吐いた。キキは、また大人ゴブリンたちの声を聞く。耳を伏せる。うなずく。首を傾げる。


 分からないところで止まる。


「まもる……?」


 その言葉は、キキにも自信がなさそうだった。ミナはすぐ言葉を選んだ。


「守るって言うと、大きすぎる」


 キキがミナを見る。


「大きい?」


「うん。私にできることより、大きい」


 トマが、小さく息を吐いた。バルドは何も言わない。ガルムも弓を下ろさない。


「村には入れない」


 ミナは続けた。


「でも、このまま追い詰めない」


 キキは、その言葉を拾おうとして、眉間にしわを寄せた。


「村、だめ」


「うん」


「ロウ、かむ、だめ」


「うん」


「ゴブ、ここ……だめ?」


「今いる場所は近い」


「むずかしい」


「難しいね」


 ミナは木札を見た。


 今ある線。


 村の線。キキの線。ロウが入らない線。


 それだけでは足りない。


 大人ゴブリンたちを村に入れない。でも、ロウたちに追い詰めさせない。このまま木札のすぐ外に固まられても困る。怪我人がいる。腹も減っている。夜も来る。


「今夜の場所を考えないと」


 ミナは木札を握ったまま、頭の中で村の外側を探し始めた。


 バルドの眉間が、すぐに深くなる。


「村へは入れん」


「入れない」


「木札の外でも近い」


「うん。だから、もう一つ線がいる」


「線?」


「木札の外に、もう一つ」


 トマが頭をかいた。


「また増えたな」


「増えた」


「増える時はだいたい厄介だよな」


「分かってる」


 ガルムが、森の端を見る。


「明るいうちに見るなら、今だ」


「うん」


「暗くなる前に戻る」


「うん」


「武器は持たせたまま近づけるな」


「分かってる」


「弱っている。だが、群れだ」


「うん」


 大人ゴブリンたちは、まだ完全には静まっていない。歯を見せるもの。怪我人を支えるもの。腹を押さえるもの。


 棒も、金具も、まだある。


 それでも、さっきよりは少しだけ、動きが止まっていた。キキは、そこで膝をついた。


「キキ」


 ミナの声に、キキは木片を握ったまま顔を上げた。


「むずかしい」


「うん。難しいね」


「ゴブ、いっぱい」


「うん」


「ロウ、こわい」


「うん」


「ひと、こわい」


 その言葉に、村人たちが少しだけざわめいた。


 ミナは振り返らなかった。


「うん。人も怖いね」


 キキの目が、木札の内側のミナへ向く。


「ミナ、いる」


「いるよ」


「ミナ、きく」


「聞いたよ」


 ミナは、木札の内側でしゃがんだ。手は伸ばさない。触らない。


 でも、近くにいる。


「言ってくれてありがとう」


 キキは、返事をしなかった。木片を握る手が震えている。ルシェラが腕を組んだまま、少し顎を上げた。


「小さな通訳は、よく立ったな」


 キキはルシェラの声にびくっとする。ミナの視線も、すぐルシェラへ向いた。


「ルシェラ、次はもう少し後ろね」


「むう」


「あと、見すぎないで」


「わたしは褒めただけだ」


「褒め方が怖い」


「難しいものだな」


「うん。難しい」


 少しだけ、トマが笑った。すぐ、森側を見て顔を戻す。笑って終わるには、まだ何も解けていない。ミナは立ち上がった。木札を握る。古い板の角が、指に当たる。


「村には入れない」


 大人ゴブリンたちは動かない。


「でも、このまま追い詰めない」


 ロウの耳が動く。


「食べ物は少しだけ。こっちが置いて、下がってから。武器を上げたら、なし」


 キキが、その一つ一つを追おうとして、途中で疲れたように目を伏せた。


「無理しなくていい」


 ミナは木札の内側から、声をやわらげた。


「次は、場所を見る」


 バルドが杖を握る。


「明るいうちに、じゃな」


「うん」


「今の場所は近すぎる」


「うん」


「村の分は出さん」


「出さない」


「勝手に決めるな」


「決めない。見る」


 バルドは、渋い顔のまま杖を握り直した。ガルムは弓を下ろさない。ロウたちは森側で動かない。大人ゴブリンたちは、木札の外で固まっている。キキは座り込んだまま、木片を握っている。ぷるは水路で、細かく揺れていた。村の戸口は、まだ半分閉じたままだ。


 何も終わっていない。


 安全な場所を求めているらしい。それは分かった。でも、村には入れられない。今いる場所も近すぎる。食べ物も、気前よくは出せない。武器も下ろしきっていない。ロウたちも、まだ森側で見ている。


 ミナは木札を握り直した。


「明るいうちに、場所を見る」


 キキが、小さくうなずいた。


 大人ゴブリンたちは、その意味までは分からなかったかもしれない。でも、キキがうなずいたのは見えた。


 ロウの金色の目が、ゆっくり森側へ向く。


 それ以上、進まない。ただ、待っているようにも見えた。


 ミナは、もう一度木札を見た。聞いたからには、線を増やさなければいけない。それは、助ける約束ではない。でも、聞かなかったことにもしない。


 村と森の間に、もう一つ、場所が必要だった。


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