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レリ・マハーシーヴァ  作者: JING
青いクジラと第0レーン
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17/19

第17話 足を止めて、ここへ!

レリ・マハーシーヴァ オープニングテーマ「まなざしのマントラ」

https://youtu.be/6FmwM8nEabA

 森田くんの指の震えも、袖をつかむ1本ずつ違う力も、布越しにはっきり伝わってくる。


 台車の軸がこすれる音も、靴底の滑る音も、頭の上で鳴る応援の小さな切れ目も、いっぺんに耳へ流れ込む。


 短い録音を、同じところから流してるんだ。


 でも、そこを聞いている場合じゃない。


 わたしは森田くんの手へ自分の手を重ねる。


 動きが速くなるわけじゃないんだから、焦っても、腕は2本のままだよね。


「壁のほうへ、行くね」


 森田くんの肩を支えて体の向きを変えると、同時に、金属を打つ音が届く。


 細く、硬い音が、続けて3回鳴る。


 少し間を置いて、もう2回。


 わたしは壁に顔を向け、次の合図を待つ。


 図を見たときには広告の向こうだと思ったけど、音はそれより、給水台に近いところから来る。


 見えている換気口はもっと遠くにあるけど、そっちへ行く必要は、ないんだね。


 袖のテープを1枚、指へ移し、空いた手で壁を押さえて体を横へずらす。


 手の下で塗装の粒が細かく引っかかる。


 広告のボトルは手首の向こうへ消えていって、壁に印刷された絵を、触ってる感じはしない。


 同じところでまた3回の音が鳴り、今度は、耳に届く音と壁の震えが重なる。


 その真下を靴の先で探る。


 足はぶつからずに壁の向こう側へ進むのに、目にはまだ青い広告が見えている。


 わたしは自分の足の感触を信じる。


「ここ、端がある!」


 手のひらが角張った縁をつかみ、壁の表側から、横向きの面へ指が回る。


 すぐ内側にある冷たい日陰のにおいは、ほこりと、濡れたコンクリートのにおいだ。


 入ってきたときと、同じ場所だと思う。


 わたしは片膝をついて、通路へ体を傾ける。


 先に出した手の下へ平らな床が続き、足を落とすような段差は、触る範囲にはない。


 黄色いテープを入口の床へ押しつけ、端を少し折って指でも拾えるようにする。


 もう1枚は、壁の角へ折り曲げて貼る。


 これで、見える景色が変わっても探せる。


 テープの端には親指の跡が残っていて、わたしが残した、下手な目印だ。


 今は、写真みたいな絵じゃなくていい。


「舞人くん、黄色のところ!」


 後ろから、車輪の向きが変わる音がする。


 舞人くんが台車を横へ回している。


 持ち手は給水台へ、荷台の先は設備箱へ。


 その間を、長い腕が通り抜けようとする。


 灰色の指が、持ち手をつかんで引く。


 舞人くんは張り合わず、逆に荷台を押す。


 横向きの台車が、相手の足へ当たる。


 夜叉が半歩下がり、短い隙間ができる。


「今、通れ!」


 森田くんの腕を自分の肩へ回して、わたしは腰を落とし、横向きに1歩進む。


 森田くんも床へ置いた手で体を押す。


 ジャージがこすれ、靴のかかとが続く。


 1歩というより半分ずつの移動でも、少しずつ、給水台から離れている。


「そこ、痛くない?」


「だい、じょうぶ……」


 返事がわたしのすぐ横で震えて、それを聞いてから、もう1歩だけ動く。


 手に伝わる重さが、ぐっと増える。


 森田くんもかかとで床を押してくれる。


 わたしは重さを支えて、あと半歩だけ進む。


 給水台から入口まではほんの3メートルなのに、今は、すごく長く感じられる。


 森田くんのかかとが、黄色いテープへ届く。


 わたしは壁の角を手の甲でたどり、そのまま、細い通路へ体を入れる。


 さっきまでないように見えていた道だ。


 いったん中へ入ると広告は横へ流れ、目の前に、薄暗いコンクリートの壁が現れる。


 わたしは息を吐きながら右へ曲がる。


 森田くんの背中を支え、壁際へ座らせる。


 ここから見えるのは向かいの壁だけで、入口から曲がり角まで、壁が続いている。


 耳へ届いていた細かい音が減り、袖をつかむ指の1本ずつがわからなくなる。


 換気口の金属音も遠くの騒ぎに混じる。


 急に、壁が厚くなったみたいな感じだ。


 空いた手でスマホを出すと、18時13分になっている。


 もう、60秒。


 アンクは終わって、すぐには使い直せない。


 それでも、黄色い目印は見える。


 画面を消してしまい、森田くんの背中へ手を戻す。


「森田くん、ここから松本くんを呼んでくれる?」


「松本、先輩……!」


 細い声が通路を抜けて走路へ出て、台車の音に消されかけても、森田くんはもう一度呼ぶ。


 わたしは森田くんの背中をそっと押さえ、壁にぶつけないように、手を挟んでおく。


「ぼく、ここです……休んで、ます!」


 森田くんの声のあと、近づく足音の間隔が変わる。


 わたしは角の外へ半歩だけ顔を出す。


 松本くんの横に舞人くんが並び、片腕を伸ばせば届くくらいの、近い距離にいる。


「松本、あの声、聞こえただろ!」


 松本くんは口を動かしても声にならず、森田くんの顔を見たくて、首をこちらへ向ける。


 舞人くんはその肩に自分の手を添える。


「あと少し、こっちだ!」


 外側へ流れかけた松本くんを急には引っ張らず、同じ速さで走りながら、内へ誘導する。


 松本くんの足の間へ、舞人くんの影が入る。


 2人の歩幅が、一緒に小さくなる。


 森田くんが壁に背をつけたまま呼ぶ。


「先輩、もう、止まっていいです!」


 松本くんの靴が、黄色いテープを踏む。


 膝が折れる。


 わたしは前へ出る。


 空いている腕を受け止める。


 重い、と思う前に、体ごと沈む。


 舞人くんが肩を入れ、松本くんの体を支え直す。


 わたしの左膝が、もう一度床をこする。


 痛いけど、手を離したら頭を打つ。


「角まで、あと1歩!」


 舞人くんが言ってわたしも足を動かし、2人で松本くんを支え、曲がり角を越える。


 背中が壁に触れてからゆっくり腰を下ろし、森田くんの横に松本くんが座る。


 ジャージの胸元が、激しく上下している。


 息の音が近くて、それだけで泣きそうになる。


「松本くん、ここ、わたしたちがいるから」


 返事の代わりに顔が少しこちらを向くけど、目は開いているのに、焦点が合いにくそう。


 わたしは勝手に立たせず、そのまま待つ。


 舞人くんの手が松本くんの肩から離れ、次に聞こえる靴音は、入口へ向かっている。


 角の陰へ入る直前、舞人くんが振り返る。


 わたしは2人の前で手を広げてうなずく。


 松本くんも森田くんも、ここから動かさない。


 灰色の腕が入口の角へ引っかかる。


 さっきまでの台車は、横へ倒れている。


 夜叉が、ついに近くまで来てしまう。


 舞人くんが角の外へ出て姿を隠すと、わたしからも、右手の先が見えなくなる。


 小さな声が、靴音の合間へ落ちる。


「アヴァターラナ・ダンダー」


 壁をつかんでいた指が、勢いよく離れる。


 手首が後ろへ跳ねて、長い爪が壁をかする。


 通路へ入ろうとした腕が、押し戻される。


 その向こうで、台車の車輪が大きく鳴る。


 わたしは角から顔を引き、2人を見直す。


 松本くんの目は、森田くんへ向いている。


 森田くんはその手首を、両手で握っている。


「止まれたよ。2人とも、ここにいるよ」


 口にすると、やっと実感が追いついてくる。


 まだ勝ってないし、外にも出ていない。


 舞人くんはこれから敵を防がなきゃいけないし、わたしも、2人から目を離せない。


 でも、もう足を動かし続けなくていいんだ。


 わたしは震える手で、松本くんの手を握る。


 次はこの場所で、帰れる力が戻るまで待つ。


「松本くん、聞こえる?」


 握った手をそっと持ち上げても、松本くんの指は曲がったままで、ほとんど動かない。


 松本くんの口が開いて細い息が出るけど、あれだけ走っていたのに、声は出ない。


 ……怖いよ。


「返事、急がなくていいからね」


 口ではそう言って、目は顔から離せない。


 指の動きを見逃さないよう、わたしは松本くんの手をのぞき込む。


 松本くんがまたゆっくり息を吸って、わたしも、同じ呼吸に合わせる。


「……森、田」


「はい、ぼく、ここにいます」


 隣から森田くんが体を寄せて、伸ばした手で松本くんのジャージに触れる。


 自分も立てないのに、心配している顔だ。


 わたしは森田くんの背中も壁へ支え直す。


「松本くんのこと、ここで見ててくれる?」


「はい……でも、先輩、すごく冷たいです」


 握っている手に汗の冷たさが伝わって、わたしもそれが気になり、離せない。


 相沢さんの話と同じとは限らないから、何分たてば戻るなんて、わからないんだ。


「今、外の人へ伝えるね」


 森田くんがうなずくのを見てスマホを出すけど、電話をかける指がうまく曲がらない。


 今度は葵へつながる番号を押す。


『りん!? 今、どうなってるの?』


「松本くんも森田くんも、見つけたよ」


 名前を言ったところで、葵が大きく息を吸う。


 その音を聞いて、わたしも息をつける。


 待ってるほうも、怖かったんだよね。


「2人とも座ってる。返事はできるけど、歩けない」


『わかった、そのまま伝える。場所は?』


「搬入口へ戻る、曲がった通路の中」


 角の向こうで、金属を引きずる音がする。


 わたしはスマホを耳へ寄せたまま、前を見る。


 角の手前まで下がってきた舞人くんの右の靴に、給水台の白い塗装がついている。


『大きい扉、開けてもらってるから、そっちから出て』


「うん、わかった……まだ、走路側に来ないで」


『変な人、まだいるの?』


「いる。舞人くんが、入ってこないようにしてる」


 言えることだけでも、怖さは伝わってしまう。


 葵の声が高くなり、すぐに戻る。


『待ってて、絶対、そっちまで行くから!』


「大人の人といてね、お願い」


 返事を聞いてから電話を切る。


 2人の状態を送ったところで画面を閉じると、そのスマホへ松本くんの指が触れる。


「……帰れる、のか」


「帰るよ。外で、待ってる人がいるから」


 まだ動かない足を、軽くたたくことはしない。


 急がせたら立てるわけじゃ、ないもんね。


 わたしはそのまま隣に座って待つ。


 角の向こうから舞人くんが半歩戻り、わたしを見てから、2人の顔へ目を移す。


「どうだ?」


「返事、少しずつ、できるようになってる」


「わかった。ここにいてくれ」


 舞人くんは左手を開いて握ってみせるけど、右の肩は低く落ちている。


 心配だけど、長く呼び止めてはいられない。


 走路のほうから何かを折る音がする。


「そっちは、どう?」


「台車、押し返された。入口の前にある」


 舞人くんは壁の先へ目を向け、自分の体を隠してから、低く声を落とす。


「腕が来たら、もう一度、押す」


「うん……わたし、松本くんのほうを見るね」


 舞人くんが、短くうなずいて前へ出る。


 通路は狭くて2人並んでは戦えないから、今は場所を取り合わないほうが助けになる。


 わたしは奥へ下がり、松本くんへ手を戻す。


「森田くん、さっきより手、動く?」


「少し、ですけど……つかめます」


 森田くんが自分の袖を握ってみせると、指が布へ入り、離してもまたつかめる。


 同じことを確かめたくなる気持ちがわかるし、わたしなら、何度でもやってしまいそう。


「じゃあ、松本くんの肩、ずれたら教えて」


「はい、ぼく、見てます」


 森田くんはうなずいて、松本くんへ体を寄せる。


 立てなくても、できることはあるんだよね。


 わたしは入口の角までそっと戻り、顔を全部出さずに、舞人くんの背中を見る。


 足元の黄色いテープは半分はがれて、踏まれたところだけ灰色の砂で汚れてる。


 それでも、折った端なら指でつかめそうだ。


 夜叉が台車を走路へ放り出すと、ねじれた車輪が空中でひと回りする。


 もう使えない。


「それ、どこで覚えた?」


 夜叉が、舞人くんの右手へ視線を落とす。


 舞人くんは答えずに床の上で足を開き、肩を動かすと痛むのか、右肘を低くする。


 格好いい構えとは、ちょっと違って見える。


 逃げずにいる。


「答える暇があるなら、そこをどけよ」


「おまえがどけば、済む話だ」


 夜叉の爪が、入口の壁へ食い込む。


 夜叉は指をかけたまま、体を横から滑り込ませてくる。


 長い腕は普通の人より先まで届くから、壁があるだけで安全、とはいかないんだね。


「舞人くん、上からも来る!」


 わたしが声をかけると、舞人くんが腰を落とす。


 爪がコンクリートを削り、壁の角へ当たった腕が、ひと呼吸だけ止まる。


「アヴァターラナ・ダンダー」


 低い声のあとで、肘が外へ押し戻される。


 夜叉の体が、入口の反対側へ傾く。


 倒せそうなら追いかけたいところなのに、舞人くんは追わず、同じ場所へ戻ってくる。


 奥の2人を、ここから離せないからだ。


「壁につかまるとき、腕が止まる」


 わたしは、舞人くんの背中へ口を寄せて伝える。


「うん、そこなら、まだ当てられる」


 舞人くんは口を開けたまま、息を吸っている。


 攻撃を外せば、その腕でつかまれてしまう。


 すごい力を持っても、失敗することはあるんだ。


 わたしが奥へ戻って松本くんの顔を見ると、さっきより、目がはっきりこちらを向く。


「……弥勒、そこにいる?」


「うん、入口で、待ってくれてるよ」


「おれ、足が……重くて」


 松本くんが自分の膝へ手を置くと、今度は、途中で手が止まらずに届く。


 わたしは先走って、もう平気とは言わない。


「さっき、手も、あまり動かなかったよ」


「……そう、か」


 松本くんは膝を握ってゆっくり離し、自分の手を初めて見るみたいな顔をする。


 森田くんが、その横で口元を緩める。


「ぼくも、さっきは、そんな感じでした」


 外から金属をたたく音が続くけど、ほかの音と混じって、ことりの合図かはわからない。


 でも扉のほうから大人の声もして、誰かが、こっちへ来ようとしてくれてる。


 その声に混じって、鋭い叫び声が上がる。


「開けろ! 早く、こっちを開けてくれ!」


 矢崎さんの声だとすぐにわかる。


 わたしは松本くんの肩から手を離す。


 入口で、舞人くんも横へ顔を向けている。


 設備の壁の先から、何度も同じ声がする。


「外へ出られないのか……」


 舞人くんが、走路の向こうをにらむ。


 夜叉はわたしたちのほうを見ず、長い腕を伸ばして、壁の端へ体を寄せる。


「何を、騒いでいる」


「もう来るぞ、警察も、外に人がいる!」


 わたしたちの入口とは違う向きに、矢崎さんの顔が設備壁の端からのぞく。


 不透明な壁が間に高く立っているけど、声だけは大きく響いてくる。


「おまえが開ければいいだろう」


「開かないんだ。だから、開けろと言ってる!」


 矢崎さんの声はいつもの指導の声じゃなくて、息が上がり、最後のほうがかすれている。


 夜叉が、ベストの前をゆっくり直す。


 まるで練習の終わりに、身なりを整えてるみたい。


「もう、次を連れてこられないのか」


「そんなこと、今、話してる場合じゃ――」


「なら、返せ」


 灰色の手が、壁の端へ伸びていく。


 矢崎さんの襟がつかまれ、顔が見えなくなる。


 次に聞こえるのは、硬い物が倒れる音だ。


 外周側の通路から、靴底がこすれる音がする。


 わたしは角の手前で足を止める。


 矢崎さんがいるのは赤い取っ手の扉の先だから、そこへ行くなら、管理通路を戻ればいい。


「……矢崎さん、倒れたみたい」


「間宮、外側に回れるか?」


 舞人くんは、夜叉から目を離さずに言う。


 わたしは2人のいる壁際を振り返る。


 森田くんが、松本くんの肩を押さえている。


「2人、ここで待ってて。すぐ近くだから」


「……あの人、ですか」


 森田くんの顔がはっきり曇るのを見て、わたしも、足が一度止まってしまう。


 助けたいとすぐ思える相手じゃ、ないよね。


 わたしだって怖いし、怒っている。


「ここへは連れてこない。大人の人に渡すよ」


 それだけ伝え、わたしは通路を戻る。


 走るたび左の膝がずきずきする。


 管理通路の先を左へ曲がると、入ってきたときに触った作業扉の、赤い取っ手がある。


 その先の脇戸の前には、ことりの言ったとおり棚が倒れている。


 本当に、ふさがってる。


 赤い取っ手に両手をかけ、左へゆっくり引くと、重い扉が床のレールの上を動く。


 開いた先に矢崎さんの腕が見えて、壁沿いに横たわった体から片足が伸びている。


「矢崎さん、こっち、つかまれますか」


 声をかけると顔がこちらへ向き、唇は動くけど、最初は声が出てこない。


 わたしを見る目だけが、大きく開いている。


「……足が、動かない」


 矢崎さんは床の上で膝を引こうとするけど、靴のかかとが滑り、すぐに止まってしまう。


 さっきまでの速さが、どこにも残っていない。


 借りていた力を、取られてしまったんだ。


 腕は動いてる。


「手、ここの取っ手へ、伸ばしてください」


「引いてくれ……早く!」


 伸びてきた手を両手でつかみ、そのまま引こうとすると、自分の足が滑る。


 大人1人を引っ張るって、こんなに重いの?


 わたしは腰を落とし、扉の縁へ足を当てる。


「わたしだけじゃ無理、腕で、押してください」


 矢崎さんが顔をしかめて床へ手をつくと、体が少し起きて、伸ばした腕が近づく。


 手首を支えて赤い取っ手へ導くと、矢崎さん自身の指が金属を握り込む。


「そのまま、引いて……こっちへ」


 扉の縁を越えて、肘が内側へ入る。


 わたしは半歩下がり、肩の服をつかみ直す。


 床に当てた手のひらへ、ざらつきが食い込む。


 痛いけど、今は洗ってる場合じゃない。


 遠くで台車が鳴り、夜叉の足音が重なる。


「まだ、そっちへ逃げるのか」


 背中が冷たくなって、つい振り向きたくなる。


 でも、音のするほうには高い設備壁がある。


 わたしは矢崎さんの手を取っ手へ押さえる。


「離さないで。あと少しです」


 矢崎さんが膝を扉の内側へ寄せ、最後に靴がレールを越えてから、わたしも下がる。


 近くの壁が鳴って、白い粉が床へ落ちる。


 わたしたちの頭の上には指は届かない。


 舞人くんが、防いでくれているんだ。


 守護者、とシーヴァくんは言っていた。


 あのときは、意味がぜんぜんわからなかった言葉だ。


レリ・マハーシーヴァ エンディングテーマ「ここにある」

https://youtu.be/RXc36LRIwuI

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