ギルド職員は炎上案件に駆けつける
火事は、音より先に匂いで分かる。
焦げた木材。
熱せられた油。
煙に混じる獣脂の臭い。
そして、人が焦って走るときの、汗と土埃の匂い。
ルネリア城下町の夜に、その匂いが流れた。
最初に気づいたのは、南区画の屋台番だった。
「……焦げ臭くねえか?」
次に、酒場帰りの冒険者が空を見た。
「おい、あれ煙じゃないか?」
そして三人目が叫ぶ。
「火事だ! 倉庫街の方だ!」
鐘が鳴った。
衛兵詰所の警鐘。
火消し組の呼び笛。
逃げ惑う人々の足音。
夜の町が、一気に騒がしくなる。
◇
冒険者ギルド・ルネリア支部の二階。
リオは自室で、改良外套の縫い目を確認していた。
黒蝶の外套は、少し重くなっている。
肩の線をぼかすために布を増やした。
首元に喉を隠す覆いを足した。
裾には薄い芯材が入っている。
正体を隠すには有効だ。
ただし、動きづらい。
屋根を飛ぶ者にとって、それは命取りになる。
「もう少し軽くしたいな……」
リオが独り言を漏らした、そのとき。
窓の外から、鐘の音が聞こえた。
一つ。
二つ。
三つ。
間隔が短い。
火事の鐘だ。
リオは立ち上がり、窓を開けた。
南東の空に、赤い揺らめきが見えた。
職人街ではない。
商業区の外れ。
倉庫街寄り。
煙が上がっている。
リオの顔から表情が消えた。
火事。
この世界では、火事はかなり危険だ。
水属性魔法が使える者がいれば消火は早い。
だが、都合よく熟練者が現場にいるとは限らない。
木造倉庫。
油。
魔石灯。
可燃性の薬品。
風向きが悪ければ、隣の建物へ火が移る。
そして何より、煙だ。
炎より先に、人は煙で倒れる。
リオは机の上を見た。
黒い仮面。
眠り銃。
粘糸弾。
黒膜弾。
鳴響弾。
戦闘用の装備。
だが、今必要なのは戦うことではない。
助けることだ。
リオは木箱を引き寄せ、奥から別の袋を出した。
耐熱布。
簡易呼吸袋。
湿気を含ませた布ではなく、濾過層を増やした防煙用の予備。
夜間誘導用の小型魔石灯。
粘糸弾の試作品。
消火粉を詰めた小瓶。
前世で知っていた。
火災現場で、濡れ布を口に当てれば安心、というのは半分だけ正しい。
煙の中には、熱と毒性のある気体が混じる。
水で湿らせた布だけでは足りない。
だから、防毒仮面がいる。
黒蝶の仮面は、そのためのものでもあった。
リオは右手を前に出した。
胸の奥にある輪郭を、もう一つ外へ押し出す。
空気が揺れる。
もう一人のリオが現れた。
複製体は、窓の外の赤い煙を見て言った。
「火事か」
「南東。倉庫街寄り」
「夜鴉?」
「分からない。でも、放っておけない」
「三原則は?」
本体のリオは一瞬だけ黙った。
いつもの三原則。
死なない。
捕まらない。
装備を落とさない。
だが、火事場では足りない。
「追加する」
本体は言った。
「救助優先。煙を吸わない。炎と戦わない。人を外へ出す。無理なら撤退して情報を渡す」
「黒蝶らしくないな」
「黒蝶らしくなくていい」
本体は仮面を差し出した。
「今日は怪談じゃなくて、防災要員だ」
複製体は仮面を受け取った。
低く、ざらついた声で答える。
「了解」
◇
火元は、南東区画の古い倉庫だった。
もともとは香油や布を扱う商会の倉庫。
だが最近は、所有者が何度か変わっている。
今の正式な借主は、小さな運送業者。
ただし、裏で誰が使っているかは分からない。
黒蝶は屋根の上から現場を見た。
倉庫の一階部分から煙が噴き出している。
火はまだ建物全体を飲み込んではいない。
だが、内部で何かが燃えている。
厄介なのは、倉庫の扉が内側から塞がれていることだった。
衛兵が数人、扉をこじ開けようとしている。
火消し組は水桶を運んでいる。
周囲の住民は避難を始めているが、混乱していた。
「下がれ! 倉庫に近づくな!」
「中に人がいるぞ!」
「子供が入ったって聞いた!」
「誰か水属性を呼んでこい!」
子供。
その言葉で、黒蝶の意識が切り替わった。
黒蝶は風向きを読む。
煙は南から北へ流れている。
火の勢いは一階奥。
屋根にはまだ回っていない。
なら、正面から入るより屋根を使う。
黒蝶は隣の建物から跳んだ。
屋根瓦に着地する。
熱い。
だが、まだ耐えられる。
腰から鳴響弾を取り出す。
ただし、いつものように敵へ投げるのではない。
床へ向けて落とす。
カン、と鳴る。
反響が返ってきた。
空洞。
梁。
壁。
積み荷。
そして、かすかな物音。
黒蝶は仮面の奥で目を細める。
奥にいる。
倉庫の北側、積み荷の影。
小さい。
子供か。
黒蝶は短い工具を取り出し、屋根板の継ぎ目に差し込んだ。
無理に破ると崩れる。
煙の抜け道を作るだけなら、小さく開ければいい。
前世の知識が告げていた。
煙を抜く。
ただし、酸素を入れすぎると火勢が増す。
開けすぎるな。
風を読み、流す方向を決めろ。
黒蝶は屋根の一部を小さく外した。
黒い煙が噴き出す。
すぐに身を低くする。
熱気が頬を撫でた。
仮面がなければ、一息で喉を焼いていた。
黒蝶は風属性の魔力を薄く流す。
煙を上へ逃がす。
倉庫の奥から入口側へ流さない。
子供がいると思われる場所の煙を少しでも薄くする。
細い制御。
派手な魔法ではない。
だが、火災現場では、この程度の差が命を分ける。
「屋根の上だ!」
下から衛兵が叫んだ。
「黒蝶だ!」
「何してるんだ、あいつ!」
黒蝶は答えない。
答えている暇はない。
屋根穴から中へ滑り込む。
◇
倉庫の中は、煙で満ちていた。
視界は悪い。
熱い。
木材が爆ぜる音がする。
どこかで油が燃えている。
黒蝶は即座に姿勢を低くした。
煙は上に溜まる。
まだ床付近の方がましだ。
ただし、倉庫内には木箱が散乱している。
足を取られれば終わる。
黒蝶は小型魔石灯を取り出した。
強い光ではなく、足元だけを見る灯り。
強い光は煙で乱反射して、かえって見えなくなる。
低く。
速く。
呼吸を浅く。
鳴響弾の反響で聞いた位置へ向かう。
奥から咳が聞こえた。
「……だれか……」
子供の声。
黒蝶はそちらへ向かう。
積み荷の影に、小さな少年が倒れていた。
年は十歳前後。
手に布袋を抱えている。
中には焦げたパンらしきものが見えた。
盗みに入ったのか。
逃げ込んだのか。
今はどうでもいい。
生きている。
それが全てだ。
黒蝶は少年の口元に簡易呼吸袋を当てた。
袋の中には、短時間だけ煙を濾すための簡易層が仕込んである。
「吸え」
低く、ざらついた声。
少年は意識が朦朧としていたが、何とか息を吸った。
黒蝶は少年を抱え上げる。
その瞬間。
倉庫の奥で、何かが動いた。
大きな影。
人だ。
男が一人、燃える木箱を蹴り飛ばしながら現れた。
腕に、黒い腕輪をつけている。
肌は赤く腫れ、服の袖は焦げている。
普通なら痛みで動けない。
だが、男は笑っていた。
「どこだ……黒蝶……」
黒蝶は足を止めた。
腕輪。
夜鴉商会の違法魔道具。
痛みと恐怖を鈍らせる道具。
火災現場で使えば、最悪だ。
逃げるべき場面で逃げない。
痛みを感じず、火の中で暴れる。
自分も周囲も巻き込む。
男の視線が黒蝶を捉えた。
「いたなあ……!」
男が突進してくる。
少年を抱えたままでは避けにくい。
黒蝶は粘糸弾を撃った。
白い糸が男の足元へ広がる。
だが、床が熱い。
粘糸が一部焼け、拘束が甘くなる。
「邪魔だあ!」
男は力任せに引きちぎった。
黒蝶は舌打ちしない。
声を出さない。
少年を抱え直し、横へ跳ぶ。
男の腕が空を切り、燃える棚に叩きつけられた。
火の粉が舞う。
少年が震えた。
黒蝶は短く言った。
「目を閉じろ」
これ以上喋るな。
そう思いながらも、必要な指示だけは出す。
黒蝶は黒膜弾を床に叩きつけた。
黒い膜が広がる。
煙と火の粉を完全には止められない。
だが、視界を区切る壁にはなる。
男が膜の向こうで叫ぶ。
「逃げんなあ!」
黒蝶は少年を抱えて走った。
出口は正面ではない。
正面扉は塞がれている。
人も多い。
煙も濃い。
屋根から戻るのは、少年を抱えたままでは危険。
なら、側面。
古い倉庫には、荷下ろし用の小窓があるはずだ。
リオは昼に資料室で倉庫の構造を見たことがある。
南東区画の古い倉庫群。
同型の建物は、小窓が北側にある。
黒蝶は壁際へ向かった。
あった。
腰より少し高い位置に、小さな木窓。
外からは閉じられている。
黒蝶は少年を床に下ろし、粘糸弾を梁へ撃った。
糸を支点にする。
次に短い金属筒を取り出し、風圧で窓の留め具を吹き飛ばした。
小窓が開く。
外の空気が入った。
同時に、炎が揺れる。
入れすぎるな。
黒蝶は風を細く制御し、煙だけを押し出す。
外から声が聞こえた。
「こっちだ! 北側に穴が開いたぞ!」
「誰かいる!」
黒蝶は少年を抱え、小窓へ押し上げた。
外の衛兵が少年を受け取る。
「子供だ!」
「生きてる!」
まず一人。
黒蝶は息を吐く。
次の瞬間、背後から熱が迫った。
腕輪の男が黒膜を突き破って来た。
火のついた木片を手にしている。
「黒蝶おおお!」
黒蝶は避けた。
木片が壁を叩く。
火が散る。
男の腕輪が黒く光っていた。
魔素が濁っている。
このまま暴れれば、倉庫が崩れる。
そして、外にいる衛兵や子供にも火が回る。
黒蝶は眠り銃を抜いた。
だが、煙の中で眠り粉は使いづらい。
自分は仮面がある。
男にも効くかもしれない。
しかし、煙の流れが読みにくい。
外にいる人間へ流れる危険がある。
駄目だ。
黒蝶は眠り銃を戻す。
代わりに、鳴響弾を取り出した。
男が突っ込んでくる。
黒蝶は床へ鳴響弾を投げた。
甲高い音が、倉庫内で反響した。
密閉気味の空間。
木箱。
壁。
梁。
音が跳ねる。
男は耳を押さえた。
「ぐあっ!?」
痛みに鈍くなっていても、平衡感覚は揺らせる。
黒蝶は踏み込んだ。
男の腕を取り、体勢を崩す。
だが、力が強い。
腕輪のせいか。
痛みを感じないせいか。
男は黒蝶を掴もうとする。
黒蝶は外套をわざと掴ませた。
改良外套の肩布が外れる。
ミラが仕込んだ応急の離脱縫い。
引っ張られれば一部が外れ、拘束から抜けられる。
黒蝶は身を沈め、男の懐に入った。
粘糸弾を直接、男の両足へ撃つ。
さらに梁へもう一発。
男の体と梁をつなぐように、糸が張る。
だが熱で保たない。
数秒。
それで十分。
黒蝶は男の腕輪を見た。
外せるか。
無理やり外すには時間がかかる。
なら、冷やす。
黒蝶は腰の小瓶を取り出した。
水属性ではない。
冷却用の薬剤でもない。
ただの消火粉だ。
前世の知識と、この世界の鉱物粉を混ぜた試作品。
炎を消すというより、火の勢いを一瞬だけ殺すもの。
黒蝶は腕輪の周囲へ粉を叩きつけた。
白い粉が散る。
腕輪の熱がわずかに落ちる。
男が叫ぶ。
「何しやがる!」
黒蝶は答えない。
工具を差し込み、腕輪の留め具を壊した。
金属音。
腕輪が外れた。
男の目が見開かれる。
次の瞬間、痛みと恐怖が戻ったのだろう。
男は絶叫した。
「あ、熱い! 熱い熱い熱い!」
膝から崩れる。
黒蝶は男の首元に眠り弾を撃った。
至近距離。
男は倒れた。
今度は眠った。
黒蝶は腕輪を布で包み、腰袋へ入れる。
その直後。
天井の梁が大きく鳴った。
まずい。
黒蝶は男を引きずる。
重い。
だが、置いていくわけにはいかない。
殺さない。
助けられるなら、悪党でも助ける。
それが黒蝶の線だ。
小窓までは数歩。
だが、梁が落ちる方が早い。
黒蝶は残りの粘糸弾をすべて撃った。
梁へ。
壁へ。
床へ。
糸が網のように張る。
崩落を止めるほどの強度はない。
だが、一瞬遅らせることはできる。
黒蝶は男を小窓へ押し込んだ。
「引け」
外の衛兵が反応する。
「引け! 引っ張れ!」
数人が男を外へ引きずり出す。
その瞬間、梁が落ちた。
黒蝶は風を足元へ叩きつけ、横へ跳んだ。
熱。
煙。
木片。
肩に何かが当たる。
痛み。
だが止まらない。
屋根へ戻るのは無理。
小窓も塞がりかけている。
黒蝶は壁を見た。
古い倉庫。
板壁。
火で脆くなっている。
黒蝶は黒膜弾の空容器を握り潰し、風を一点に集めた。
拳ではなく、圧力。
壁の脆い部分へ叩き込む。
一度。
二度。
三度。
板が割れた。
外の夜気が見えた。
黒蝶はそこへ身を滑り込ませた。
背後で倉庫の一部が崩れた。
◇
外へ出た瞬間、歓声ではなく悲鳴が上がった。
「出たぞ!」
「黒蝶だ!」
「下がれ! まだ崩れる!」
黒蝶は膝をついた。
肩が痛い。
喉が熱い。
仮面の濾過層が限界に近い。
だが、動ける。
少年は外で衛兵に抱えられていた。
生きている。
腕輪の男も、煙を吸ってはいるが息がある。
火消し組が水をかけ始めた。
水属性の魔法使いも到着したらしい。
炎の勢いが少しずつ落ちていく。
黒蝶は立ち上がった。
このまま現場にいるわけにはいかない。
衛兵の一人が叫んだ。
「待て! 黒蝶!」
黒蝶は振り返らない。
「中の奴を助けたのはお前か!」
答えない。
沈黙を守る。
だが、少年の声がした。
「あ……ありがとう……」
黒蝶は一瞬だけ足を止めた。
言葉はいらない。
黒蝶は小さく頷いた。
そして屋根へ跳ぼうとした。
そのとき、視線を感じた。
路地の奥。
老人がいた。
ぼろ布をまとった、浮浪者風の老人。
旧水路で感じた、あの視線と同じ目をしている。
黒蝶は仮面の奥で目を細める。
老人は拍手をしなかった。
笑いもしなかった。
ただ、こちらを見ていた。
その横に、赤茶けた髪の男が立っていた。
ガロ。
黒蝶はわずかに体勢を変えた。
ガロの腕に、黒い腕輪はない。
少なくとも、今はつけていない。
ガロは燃える倉庫と、救出された少年と、黒蝶を順番に見た。
その顔には、いつもの薄笑いがない。
黒蝶は動かなかった。
ガロも動かなかった。
老人が何かを呟く。
ガロはそれに答えず、黒蝶を睨んだ。
そして、口だけを動かした。
声は届かない。
だが、言葉は読めた。
――倒すだけじゃねえのかよ。
黒蝶は答えない。
屋根へ跳んだ。
夜風が、焦げた外套を揺らす。
◇
ギルドの自室へ戻った黒蝶は、窓枠に手をかけたところで少しよろけた。
本体のリオがすぐに支える。
「ひどい匂い」
「火事場だからな」
「肩は?」
「打った。あと煙。濾過層は限界」
「腕輪は?」
黒蝶は腰袋から布包みを出した。
二つ。
一つは昨夜から保管していたもの。
もう一つは、火災現場で男から外したもの。
「使用済み。装着者が痛みを感じにくくなって、火の中で暴れていた」
本体のリオは顔をしかめた。
「予想通り最悪」
「それと、子供がいた」
「助けた?」
「助けた」
「なら、よかった」
短いやり取り。
だが、それだけで十分だった。
黒蝶は椅子に座った。
「ガロが見ていた」
本体の手が止まる。
「現場に?」
「老人と一緒にいた。旧水路でこちらを見ていた、あの老人だと思う。腕輪はつけていなかった」
「つけなかったのか」
「少なくとも、今夜は」
リオは少しだけ考えた。
ガロは悪党だ。
だが、馬鹿ではない。
黒い腕輪を渡されても、すぐには使わなかった。
それは大きい。
自分が使い捨てにされるかもしれないと気づいたのか。
それとも、単に警戒しただけか。
どちらにせよ、まだ完全には夜鴉側に落ちていない。
「統合する」
黒蝶が言った。
「待って。水」
「助かる」
本体は水を渡す。
黒蝶が飲む。
そして二人は向かい合った。
「今回、重いよ」
「だろうな」
「煙、熱、肩、魔力消費、あと精神的にも」
「分かった」
指先が触れる。
黒蝶の輪郭が揺らぎ、消える。
次の瞬間、すべてが戻った。
「――っ、ぐ……!」
リオは椅子から転げ落ちそうになった。
熱。
煙。
焦げた匂い。
少年の軽さ。
腕輪の男の暴力。
梁が落ちる音。
肩に走った痛み。
仮面の内側にこもった息苦しさ。
そして、助けられた少年の声。
ありがとう。
リオは床に膝をついた。
咳が出る。
喉が痛い。
目の奥が熱い。
だが、死んでいない。
戻ってきた。
「……火消しじゃ、ないんだけどな」
リオは掠れた声で呟いた。
ただ、火を消すために入ったわけではない。
人を連れ戻すために入った。
それだけだ。
机に手を伸ばし、活動記録を引き寄せる。
手が震えていた。
それでも書く。
『南東区画倉庫火災。黒い腕輪装着者が内部で暴走。子供一名を救助。装着者も拘束・救出。腕輪を回収。火災現場において、腕輪は極めて危険。痛覚・恐怖反応の鈍化により避難行動を阻害する』
そこまで書いて、少し止まる。
さらに書く。
『ガロが現場を目撃。黒い腕輪は未装着。夜鴉側の老人と接触している可能性あり』
最後に、もう一行。
『黒蝶は戦闘だけでは足りない。救助装備の拡充が必要』
リオはペンを置いた。
窓の外では、まだ遠くに煙が上がっている。
ルネリアの夜は赤く揺れていた。
黒蝶は一人。
夜に飛ぶ蝶は、一羽だけ。
だが今夜、その蝶は悪党を眠らせただけではなかった。
煙の中で息をし、炎の中から人を連れ戻した。
その噂は、きっとまた勝手に育つ。
黒蝶は殺さない。
黒蝶は喋らない。
黒蝶は火の中から子供を助けた。
そして、闇のどこかで。
三流の小悪党が、その意味を考え始めていた。
本日3回目の投稿でした。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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