救われなかった場所
王都に、雨は降らなかった。
雲は割れ、
湿り気は風に流され、
夜は静かに更けていく。
人々は胸をなで下ろし、
「予報持ちはやっぱり当たる」と笑った。
だが――
空は、
沈黙してはいなかった。
◆
◆遅れて届く報せ
翌朝。
天象庁の伝令が、
観測室に駆け込んできた。
「北西境界――
残滓砂漠縁で、
局地的な魔力嵐が発生!!」
セシリアが即座に地図を広げる。
「……水蒸気の逃げ場……
王都で弾いた分が……
全部、そっちへ流れた……」
ガルムが歯を食いしばる。
「……つまり……
俺たちが守った代わりに……」
「……別の場所が、
受けた……」
リュミが静かに続けた。
ソーマは、
何も言わなかった。
耳奥で、
あの声が――
言わなかった部分が、
はっきりと思い出される。
――別の場所で、強まる。
(……分かってた)
(分かってて……
選んだ……)
◆
◆救援部隊の編成
セイル・アルヴェインは、
即断した。
「天象庁、救援隊を出す。
被害状況の確認と、
二次災害の抑制を最優先」
「俺も行く」
ソーマが即座に言う。
セイルは一瞬、
目を細めたが――
止めなかった。
「……現場を、
自分の目で見るべきだ」
◆
◆残滓砂漠・縁
半日後。
一行が辿り着いたのは、
砂と霧が混じる境界地帯。
空は重く、
紫がかった雲が低く垂れ込めている。
「……うわ……
空気が……
嫌な感じだ……」
ガルムが顔をしかめる。
リュミは、
胸に手を当てた。
「……ここ……
魔力が……
溜まりすぎています……」
セシリアが、
魔導計を見つめる。
「……完全に、
王都の分を引き受けたわね……」
◆
◆救われなかった村
霧の奥から、
壊れた家屋が見えてきた。
半壊した柵。
倒れた風車。
地面に残る、
魔力嵐の爪痕。
生存者はいた。
だが――
全員ではない。
ソーマは、
立ち尽くした。
(……ここが……
“選ばなかった”場所……)
年配の男が、
震える声で言った。
「……王都は……
無事だったそうだな……」
ソーマは、
喉が詰まった。
「……はい……」
「……なら……
それでいい……」
男は、
そう言って笑った。
その笑顔が――
何より、重かった。
◆
◆責任の形
救助が一段落した後、
ノアがそっと言う。
「……ソーマ……
君が……
間違えたわけじゃない……」
「……分かってる」
ソーマは、
拳を握りしめた。
「でも……
選んだ結果だ」
リュミが、
隣に立つ。
「……だから……
目を逸らさないでください……」
「逸らさない」
ソーマは、
壊れた空を見上げた。
(未来は一つじゃない。
でも……
全部は、選べない)
◆
◆変わった予報の声
その時。
耳奥で、
いつもとは違う声が鳴った。
――(……この選択……
後悔してる……?)
ソーマは、
即座に答えた。
「……してる」
――(……それでも……
次も……
選ぶ……?)
ソーマは、
深く息を吸い――
はっきりと言った。
「……選ぶ。
だから……
次は、
もっと救う」
声は、
それ以上、何も言わなかった。
だが――
沈黙は、否定ではなかった。
◆
◆帰路
夕暮れ。
王都へ戻る馬車の中で、
ガルムがぽつりと呟く。
「……重ぇな……
英雄ってのは……」
「英雄じゃない」
ソーマは即答した。
「……ただの、
予報持ちだ」
リュミは、
小さく微笑んだ。
「……それで……
十分です……」
窓の外。
雲が、
ゆっくりと流れていく。
ソーマは、
確信していた。
(……次は、
もっと難しい問いが来る)
(でも……
逃げない)
未来を選ぶ覚悟は、
もう――
できている。




