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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第三章

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救われなかった場所

王都に、雨は降らなかった。


雲は割れ、

湿り気は風に流され、

夜は静かに更けていく。


人々は胸をなで下ろし、

「予報持ちはやっぱり当たる」と笑った。


だが――

空は、

沈黙してはいなかった。


◆遅れて届く報せ


翌朝。


天象庁の伝令が、

観測室に駆け込んできた。


「北西境界――

 残滓砂漠ざんしさばく縁で、

 局地的な魔力嵐が発生!!」


セシリアが即座に地図を広げる。


「……水蒸気の逃げ場……

 王都で弾いた分が……

 全部、そっちへ流れた……」


ガルムが歯を食いしばる。


「……つまり……

 俺たちが守った代わりに……」


「……別の場所が、

 受けた……」

 リュミが静かに続けた。


ソーマは、

何も言わなかった。


耳奥で、

あの声が――

言わなかった部分が、

はっきりと思い出される。


――別の場所で、強まる。


(……分かってた)


(分かってて……

 選んだ……)


◆救援部隊の編成


セイル・アルヴェインは、

即断した。


「天象庁、救援隊を出す。

 被害状況の確認と、

 二次災害の抑制を最優先」


「俺も行く」

 ソーマが即座に言う。


セイルは一瞬、

目を細めたが――

止めなかった。


「……現場を、

 自分の目で見るべきだ」


◆残滓砂漠・縁


半日後。


一行が辿り着いたのは、

砂と霧が混じる境界地帯。


空は重く、

紫がかった雲が低く垂れ込めている。


「……うわ……

 空気が……

 嫌な感じだ……」

 ガルムが顔をしかめる。


リュミは、

胸に手を当てた。


「……ここ……

 魔力が……

 溜まりすぎています……」


セシリアが、

魔導計を見つめる。


「……完全に、

 王都の分を引き受けたわね……」


◆救われなかった村


霧の奥から、

壊れた家屋が見えてきた。


半壊した柵。

倒れた風車。

地面に残る、

魔力嵐の爪痕。


生存者はいた。

だが――

全員ではない。


ソーマは、

立ち尽くした。


(……ここが……

 “選ばなかった”場所……)


年配の男が、

震える声で言った。


「……王都は……

 無事だったそうだな……」


ソーマは、

喉が詰まった。


「……はい……」


「……なら……

 それでいい……」


男は、

そう言って笑った。


その笑顔が――

何より、重かった。


◆責任の形


救助が一段落した後、

ノアがそっと言う。


「……ソーマ……

 君が……

 間違えたわけじゃない……」


「……分かってる」


ソーマは、

拳を握りしめた。


「でも……

 選んだ結果だ」


リュミが、

隣に立つ。


「……だから……

 目を逸らさないでください……」


「逸らさない」


ソーマは、

壊れた空を見上げた。


(未来は一つじゃない。

 でも……

 全部は、選べない)


◆変わった予報の声


その時。


耳奥で、

いつもとは違う声が鳴った。


――(……この選択……

   後悔してる……?)


ソーマは、

即座に答えた。


「……してる」


――(……それでも……

   次も……

   選ぶ……?)


ソーマは、

深く息を吸い――

はっきりと言った。


「……選ぶ。

 だから……

 次は、

 もっと救う」


声は、

それ以上、何も言わなかった。


だが――

沈黙は、否定ではなかった。


◆帰路


夕暮れ。


王都へ戻る馬車の中で、

ガルムがぽつりと呟く。


「……重ぇな……

 英雄ってのは……」


「英雄じゃない」

 ソーマは即答した。


「……ただの、

 予報持ちだ」


リュミは、

小さく微笑んだ。


「……それで……

 十分です……」


窓の外。


雲が、

ゆっくりと流れていく。


ソーマは、

確信していた。


(……次は、

 もっと難しい問いが来る)


(でも……

 逃げない)


未来を選ぶ覚悟は、

 もう――

 できている。

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