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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第三章

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救える数、救えない数

王都へ戻る道中、

馬車の中は静かだった。


誰も、疲れていないわけじゃない。

ただ――

言葉にすると、

何かが壊れてしまいそうだった。


ガルムは窓の外を睨み、

斧の柄を指でなぞっている。


セシリアは膝に置いた帳面を閉じたまま、

一文字も書かない。


リュミは目を閉じ、

小さく呼吸を整えていた。


ノアだけが、

時折ソーマを盗み見る。


(……重い……)


ソーマは、自分の胸を押さえた。


◆救える数


王都に戻ったその夜、

天象庁では緊急の内部会議が開かれた。


大広間ではなく、

あえて狭い会議室。


逃げ場のない距離感。


セイル・アルヴェインが、

静かに口を開く。


「今回の件で、

 一つはっきりしたことがある」


全員が顔を上げる。


「相馬颯真の判断が、

 世界規模で影響を及ぼす段階に入った」


セシリアが、

苦い表情で頷く。


「局地的な回避じゃない。

 “移動”と“集中”が起きる……」


「つまり?」

 ガルムが聞く。


「救えば、

 別の場所に皺寄せが行く」

 セイルが即答した。


室内に、

重たい沈黙が落ちる。


◆数字の話


セイルは続けた。


「王家は、

 “救える最大数”を求めるだろう」


「神殿は、

 “選ばれた場所”を守れと言う」

 セシリアが補足する。


「測候院は……」

 ソーマが言う。


「……確率だ」

 セイルは目を伏せた。

「成功率、犠牲率、

 最適解……」


ガルムが低く唸る。


「クソったれ……

 人を数で見る話かよ……」


「そうだ」

 セイルは否定しなかった。


「だが、

 それを決める立場に、

 君は立ってしまった」


ソーマは、

ゆっくり息を吐いた。


(……分かってる)


(もう……

 戻れない)


◆救えない数


会議後。


屋上に出ると、

夜風が頬を打った。


リュミが、

静かに隣に立つ。


「……ソーマさん……

 もし……

 もっと多くの人を救える選択があって……」


言葉が、途切れる。


「……それで……

 誰かを、

 見捨てることになったら……」


ソーマは、

しばらく黙ってから答えた。


「……それでも、

 俺は選ぶと思う」


リュミは、

何も言わなかった。


ただ、

その手を――

そっと、

ソーマの袖に添えた。


◆ノアの忠告


少し離れた場所で、

ノアが夜空を見上げていた。


「……ねえ、ソーマ」


「どうした?」


「……君は……

 “選ぶ側”になりすぎてる」


ソーマは、

目を細める。


「……どういう意味だ?」


ノアは、

ゆっくり言葉を選んだ。


「……世界が滅びるとき……

 最後に壊れるのは……

 “正しさ”なんだ……」


「……正しさ?」


「……正しいから、選んだ。

 正しいから、切り捨てた。

 ――それを……

 世界は、

 最後に……

 呪いにする」


ソーマは、

何も返せなかった。


◆変わる予報


その夜。


ソーマの耳奥で、

予報が流れた。


――(……三日後……

   南部に……

   強風……)


いつも通りの、

気象情報。


だが、

続きがあった。


――(……避難すれば……

   被害は……

   小さくなる……)


――(……だが……

   間に合わない者が……

   出る……)


ソーマは、

目を閉じた。


(……もう、

 隠してくれないんだな)


未来は、

優しくなかった。


だが――

嘘も、つかなくなった。


◆覚悟の形


ソーマは、

ゆっくりと拳を握った。


(……救える数と、

 救えない数)


(……どっちも、

 俺が見る)


(だから……)


小さく、

息を吸う。


(逃げない)


夜空には、

雲が流れている。


その下で、

選択は――

静かに、

積み重なっていった。

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