問いかける予報:未来は一つじゃない
――明後日は、雨。
――だが、降らせるかどうかは、そちら次第。
耳奥に残ったその言葉は、
いつもの天気予報とは、決定的に違っていた。
ソーマは、
しばらくその場から動けずにいた。
(……予報が、
“結果”じゃなくなってる)
これまでは、
どう抗っても、
最も濃い未来として
流れ込んできた情報。
だが今は違う。
(……分岐点を、
投げてきてる……)
◆
◆観測ではなく、相談
測候院の小会議室。
セシリアが、
簡易的な気圧図を広げていた。
「明後日、王都周辺に
低気圧が入るのは確定。
でも……」
図の上に、
細い線をいくつも引く。
「降雨に至るかどうか、
“決定因子”が欠けてる」
リュミが、
静かに頷いた。
「……空が……
迷っています……」
ガルムが首を傾げる。
「雨なんて、
降ろうが降るまいが
大した話じゃねぇだろ?」
「問題は、
雨が降る=魔力嵐の芽が育つ
この季節だってことよ」
セシリアが即答する。
ノアが、
ソーマを見る。
「……前なら……
もう“注意報”が……
鳴ってたよね……」
「ああ」
ソーマは、
静かに答えた。
「でも今は……
世界が、
俺に聞いてきてる」
◆
◆世界の選択肢
セイル・アルヴェインは、
腕を組んだまま言った。
「降雨を前提に
警戒態勢を敷くか、
何もせず様子を見るか」
「どっちも、
“正解”になり得ますね」
セシリアが言う。
「だが、
どっちも
“間違い”にもなり得る」
沈黙。
ソーマは、
自分の手を見た。
(前は……
未来を聞いて、
伝えるだけだった)
(今は……
選ぶ責任が、
こっちにある)
リュミが、
そっと声をかける。
「……ソーマさん。
空は……
どんな顔をしていますか?」
少し考えて、
答える。
「……困ってる」
「……なら……
助けてあげましょう」
◆
◆「降らせない」選択
ソーマは、
はっきりと言った。
「今回は……
降らせない」
ガルムが目を見開く。
「マジか?」
「低気圧は入る。
でも……
水蒸気の集積を
早めに逃がす」
セシリアが、
すぐに理解する。
「……風向操作……
雲を王都上空に
留めない……」
リュミも頷いた。
「……私が……
流れを、
押し分けます……」
イサナが、
影から補足する。
「……人の動きも……
制限した方がいい。
集まると……
“意味”が重くなる」
セイルは、
短く命じた。
「決まりだ。
準備に入れ」
◆
◆結果の見えない予報
作業は、
静かに進んだ。
風は吹き、
雲は流れ、
王都上空は
重さを失っていく。
ソーマの耳奥で、
予報が、
ゆっくりと形を変える。
――(……雨は……
降らない……)
――(……だが……
別の場所で……
強まる……)
(……分かった)
(全部を、
守れるわけじゃない)
(でも……
“選び直す”ことは、できる)
◆
◆夜、そして静寂
その夜、
王都に雨は降らなかった。
空は曇り、
湿り気を帯びながらも、
嵐にはならない。
「……当たったな」
ガルムが笑う。
「当てた、のよ」
セシリアが訂正する。
リュミは、
空を見上げて微笑んだ。
「……空が……
少し、楽そうです……」
ノアは、
小さく息を吐く。
「……世界が……
“選び直された”……」
ソーマは、
胸の奥の感覚を確かめた。
(……予報は、
もう“答え”じゃない)
(会話だ)
その瞬間、
耳奥で、
新しい声が鳴った。
――(……次の問いは……
もっと……
重い……)
ソーマは、
静かに目を開けた。
(望むところだ)
(……もう、
聞くだけじゃない)
未来は、
一つじゃない。




