予報が変わるとき
翌朝。
王都レウェンは、
驚くほど“いつも通り”だった。
市場は開き、
鐘は鳴り、
子どもたちは走り回っている。
――あの夜、
空が割れたことなど、
夢だったかのように。
「……忘れるの、早いな」
宿舎の窓から街を見下ろし、
ソーマは呟いた。
「人は……
“日常”が戻ると、
怖いことほど……
急いでしまい込みます」
リュミの言葉は、
優しいが鋭かった。
◆
◆変わった“予報の感触”
ソーマは、
無意識に耳へ意識を向ける。
――(……今日の……
天気は……)
声は、
確かに聞こえた。
だが――
どこか、違う。
以前のような
一方的に流れ込む感覚ではない。
(……待ってる……?)
まるで、
“聞く準備ができているか”を
確かめてから
届いているような――
そんな妙な間。
「……ソーマさん?」
リュミが、
異変に気づいた。
「予報……
変わりましたか?」
「……うん。
言葉にしにくいけど……
距離が近くなった」
「近く……?」
「前は、
向こうから流れてきてた。
今は……
“同じ場所”に立ってる感じがする」
リュミは、
小さく息を呑んだ。
「……空と……
目線が……」
「多分、
同じ高さになった」
◆
◆天象庁の空気
天象庁に向かうと、
廊下の視線が
明らかに変わっていた。
ひそひそ声。
探るような沈黙。
ソーマが通ると、
一瞬、会話が止まる。
「……噂、
広まってるな」
ガルムが、
肩をすくめる。
「そりゃそうだ。
“世界と睨み合った男”なんて、
酒場の鉄板ネタだぞ」
「笑えないな……」
◆
◆三勢力、動く
観測会議室。
セイル・アルヴェインの表情は、
いつも以上に硬かった。
「……結論から言う」
室内が静まる。
「今回の事象を受け、
王家、神殿、測候院――
三勢力すべてが、
君に興味を持った」
「でしょうね……」
セシリアが即答する。
セイルは続ける。
「王家は、
“兵器化できるか”を見ている」
ガルムが、
露骨に顔をしかめた。
「クソだな」
「神殿は、
“神託の代替”として
担ぎ上げる気だ」
リュミの表情が、
わずかに曇る。
「……予報が……
祈りの代わりに……」
「測候院は?」
ソーマが聞く。
セイルは、
一瞬だけ目を伏せた。
「……モデル化だ。
君の能力を、
“再現可能な理論”に落としたい」
セシリアは、
苦い顔で笑った。
「……正直すぎますね」
「だが――」
セイルは、
はっきりと言った。
「どこにも渡す気はない」
室内が、
一瞬だけ静まる。
「相馬颯真は、
天象庁所属の
“災害観測要員”だ」
ソーマは、
ゆっくり息を吐いた。
「……守る気、あるんですね」
「義務だ」
短い言葉だった。
◆
◆沈黙の余白
会議後。
廊下で、
ノアがぽつりと言った。
「……ソーマ……
予報……
怖くなってない?」
「……正直、
少し」
「……それでいい……」
ノアは、
小さく笑った。
「……怖くない予知は……
“選ぶ側”の目だ……」
イサナが、
影の中から告げる。
「……今の予報は、
“問い”に近い」
「問い?」
「……どうする?
と……
聞いてきてる」
ソーマは、
窓の外の空を見た。
雲は流れ、
鳥が飛ぶ。
何の変哲もない空。
だが――
確実に、
こちらを見返している。
(……予報が変わった)
(未来を告げる声じゃない)
(選択を、迫る声だ)
その時。
耳奥で、
いつもより
はっきりとした声が鳴った。
――(……明後日は……
雨……)
――(……だが……
降らせるかどうかは……
そちら次第……)
ソーマは、
静かに目を閉じた。
(……来たな)
“世界と対話する予報”が。




