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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第三章

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世界に立つ男

ソーマが一歩、踏み出した瞬間。


空気が、

はっきりと変わった。


音はない。

風もない。


だが――

世界そのものが、

彼を“認識した”。


(……来た……)


胸の奥が、

ぎゅっと掴まれる感覚。


耳の奥は相変わらず無音だが、

代わりに

全身で“圧”を受け取っている。


リュミが、

声を震わせる。


「……ソーマさん……

 世界が……

 あなたを……」


「見てる、だろ」


ソーマは、

空から目を逸らさなかった。


◆基準点の成立


セシリアの術式が、

突然、安定した。


「……数値が……

 固定された……?」


イサナの影が、

ソーマの足元に集まる。


「……影が……

 “中心”を認めてる」


ノアは、

はっきりと理解していた。


「……ソーマ……

 君が……

 “世界の物差し”になった……」


ガルムが、

歯を食いしばる。


「……ふざけた役目だな……

 だが……

 逃げるなよ……!」


「逃げない」


ソーマは短く答えた。


◆世界からの“問い”


空の二つの歪みが、

ゆっくりと――

動きを止めた。


そして、

どちらも

ソーマを中心に

距離を測るような動きを見せる。


(……測られてる……)


それは敵意ではない。

警戒でもない。


評価だ。


――重さは、ここか

――高さは、ここか

――意味は、ここか


言葉にならない“問い”が、

次々と突きつけられる。


ソーマは、

胸の奥で答えた。


(重さも、意味も、

 ここじゃない)


(ここは……

 ただ、人が立ってる場所だ)


◆予報なき宣言


ソーマは、

はっきりと言葉にした。


「……ここには、

 世界が選ぶ理由はない」


声は小さい。

だが、

確実に届いた。


リュミの同調が、

一段深く潜る。


「……空が……

 迷っています……」


セシリアが、

信じられないものを見る目で言う。


「……“現象”が……

 判断を……

 保留してる……?」


イサナは、

静かに息を吐いた。


「……世界が……

 “選び直し”を始めた」


◆一体目の変化


先に動いたのは、

一体目の“それ”だった。


高さをなぞっていた動きが、

徐々に鈍くなり――

摂取が、止まる。


「……止まった……」

 ガルムが呟く。


「完全じゃない……

 でも……

 “均し”をやめてる……!」

 セシリアが続ける。


一体目は、

その役割を失いかけていた。


◆二体目の決断


遅れて、

二体目の歪みが

わずかに揺れる。


ノアが、

はっきりと告げた。


「……選べないんだ……

 この世界は……」


空が、

ほんの少しだけ――

呼吸を取り戻した。


雲が、

ごく薄く流れ始める。


「……雲……?」

 リュミが息を呑む。


「天候が……

 戻り始めてる……!」

 セシリアが叫ぶ。


ソーマの胸に、

じんわりと熱が広がる。


(……戻ってきてる……

 “天気”が……)


◆限界


だが――

代償は、即座に現れた。


視界が、

ぐらりと揺れる。


「……っ……」


膝が、

崩れかける。


「ソーマさん!!」

 リュミが駆け寄る。


ノアが、

叫ぶ。


「……離れて!!

 基準点を維持したままじゃ……

 ソーマが……

 世界に引きずられる!!」


イサナも、

即座に判断した。


「……ここまで。

 これ以上は……

 戻れなくなる」


ガルムが、

迷いなくソーマの腕を掴む。


「十分だ!!

 もう十分やった!!」


ソーマは、

歯を食いしばりながらも、

小さく頷いた。


「……分かった……

 引く……」


◆基準点の解除


一歩、

また一歩。


ソーマが

偽の核の中心から離れると――


空の歪みが、

ゆっくりと距離を取った。


二体目は、

判断を保留したまま、

割れ目の奥へと

後退していく。


一体目は、

役割を失ったまま

形を崩し――

霧のように、

 空へ溶けた。


王都に、

微かな風が吹いた。


◆戻ってきた“音”


その瞬間。


ソーマの耳奥で――

久しぶりに、

はっきりとした音が鳴った。


――(……こちらは……

   明日の……)


ソーマは、

思わず笑った。


(……戻ったな)


リュミが、

涙を浮かべて抱きつく。


「……無茶しすぎです……

 本当に……」


ガルムが、

豪快に息を吐く。


「……生きてりゃ上出来だ」


セシリアは、

静かに言った。


「……あなた、

 世界に……

 名前を覚えられたわよ」


イサナは、

空を見上げて呟く。


「……これで……

 簡単には……

 無視されない」


ノアは、

穏やかな声で言った。


「……世界は……

 “選べなかった”……

 それが……

 今日の答えだね」


ソーマは、

空を見上げた。


雲が流れ、

風が吹く。


いつもの空。


だが――

確実に、

何かが変わっていた。

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