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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第三章

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予報なき災厄

王都レウェンの空は、

静かに――しかし確実に、壊れ始めていた。


雲はない。

雷鳴もない。

風も、雨も、霧すら存在しない。


それなのに。


空の中央に、

薄い“線” が走っていた。


ガラスに入った、

ごく細いヒビのような線。


「あれは……」


観測室の誰かが、

言葉を失ったまま呟く。


セシリアが歯を食いしばる。


「……空間層の裂け目……

 天候現象じゃない……

 “世界の表面”が剥がれてる……!」


鐘が鳴り響き、

王都全域に警戒が伝えられる。


しかし――

人々はまだ、それを

“災害”だと理解できていなかった。


なぜなら。


怖いほど、

何も起きていないからだ。


◆予報の沈黙


ソーマは、

観測室の中央に立ったまま、

じっと空を見つめていた。


耳の奥は、

完全な無音。


いつもなら、

この手の異変には

必ず“前触れ”がある。


ラジオ調の声。

雑音混じりの警告。

途切れた予報。


だが、今回は違う。


(……本当に、何も来ない)


ノアが、

かすれた声で言う。


「……ソーマ……

 この感じ……

 僕の世界が終わる直前より……

 もっと、静かだ……」


「静かすぎる」

 イサナが即座に重ねる。


「揺れがないんじゃない。

 揺れが“押さえ込まれてる”」


リュミは胸に手を当て、

苦しそうに息を整えていた。


「……空が……

 悲鳴を上げる準備をしています……

 声を出さないように……

 必死で……」


ガルムが斧を握り直す。


「おい……

 だったら叫ぶ前に止めりゃいいんだろ?」


「問題は、

 どこを止めるか分からないことよ」

 セシリアが即答した。


◆割れ目の正体


空のヒビは、

ゆっくりと――

広がっていく。


だが、

下には何も落ちてこない。


光も、闇も、

魔力の奔流すら見えない。


ただ、

“向こう側が透けている”。


ソーマの喉が鳴った。


(……見覚えがある……)


前世で見た、

衛星画像。


大気が“薄くなった”ときの、

あの不自然な色。


(違う……

 これは大気じゃない……

 世界そのものだ)


その瞬間。


リュミが、

はっと顔を上げた。


「……来ます……!」


「何が!?」

 セシリアが叫ぶ。


「……“落ちてきます”……

 天気じゃない……

 でも……

 空から来る災厄です……!」


◆最初の異常


ヒビ割れた空の中心から、

“何か”が垂れ下がった。


黒でも白でもない。

影でも光でもない。


まるで、

空間が溶けて垂れてきているような――

そんな異様な現象。


王都の誰かが、

遅れて悲鳴を上げる。


だがその悲鳴も、

どこかくぐもって聞こえた。


「音が……遅れてる……」

 ノアが震える。


「時間と因果がズレてる……!」

 セシリアが即座に理解する。


ソーマは、

一歩前に出た。


(予報は来ない。

 なら――)


拳を握る。


(見るしかない)


その瞬間。


ソーマの耳奥で――

音ではない、

声でもない。


“方向”と“重さ”だけを持つ

異常な感覚が、

一気に流れ込んできた。


(……上空三百……

 王都中央……

 落下じゃない……

 展開……?)


「みんな、離れろ!!」


ソーマの叫びと同時に。


空から垂れた“それ”が、

ゆっくりと開いた。


花が咲くように。

裂け目が、裂け目を生み。


そして――

王都上空に、

“天気でも魔物でもない存在”が

その姿を現そうとしていた。


ガルムが、

低く唸る。


「……なんだよ……

 あれ……」


イサナは、

はっきりと言った。


「……境界の向こう側が、

 歩いてきてる」


リュミは、

震える声で続ける。


「……世界が……

 耐えきれなくなっています……」


ソーマは、

空を睨みつけた。


(予報が来ない災厄……

 なら――)


(俺が、予報になる)


空が、

完全に――

割れた。

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