王都は今日も平和(とは限らない)
三日間の強制休養。
それは天象庁において、
ほぼ存在しない制度だった。
にもかかわらず――
今回は誰一人として異議を唱えなかった。
◆
◆朝の王都・宿舎前
「……で、俺たちは今、何をすればいいんだ?」
朝の光を浴びながら、
ガルムが真顔で言った。
「休むの」
セシリアが即答する。
「いや休むって何だよ!?
俺、休み方知らねぇぞ!?」
「それは威張ることじゃない」
リュミは苦笑しながら提案する。
「……お散歩、などはどうでしょう?」
「散歩!」
ガルムの目が輝いた。
「よし、行こう!!」
「なんでそんなテンション高いの……」
イサナは壁にもたれ、
静かに言う。
「……人混みは、ほどほどに」
ノアは眠そうに目をこすっていた。
「……パン……買いたい……
甘いやつ……」
「完全にオフだな……」
ソーマは苦笑する。
◆
◆王都・市場通り
市場は朝から賑わっていた。
果物の山。
香辛料の香り。
焼き菓子の匂い。
ガルムは開始三分で、
串焼きを三本持っていた。
「うまっ!!
王都最高だな!!」
「朝から肉は重くない?」
セシリアが呆れる。
「断層潜った後なら軽い軽い!!」
理論がよく分からない。
ノアはパン屋の前で立ち止まり、
じっと並んだ菓子パンを見つめている。
「……この丸いやつ……
中、甘そう……」
「それはクリーム入りだな」
ソーマが言う。
「……ください……」
リュミは小さく笑った。
「ノアさん、嬉しそうですね」
「……平和……」
イサナは露店の陰で、
細工物を眺めていた。
「……境界のお守り……
こういうの、王都にもあるんだ」
「買う?」
ソーマが聞く。
「……ううん。
“効く場所”じゃない」
「即答だな」
◆
◆事件は起きない(起きないとは言ってない)
その時――
「どいてどいてー!!」
小さな声と同時に、
子どもが人混みを駆け抜けていく。
次の瞬間。
「――あっ!」
ノアの手から、
買ったばかりの菓子パンが宙を舞った。
「……あ」
パンは放物線を描き――
ガルムの口に、
ちょうどよく吸い込まれた。
「……ん?」
もぐ。
「……お?」
もぐもぐ。
「……甘ぇなこれ」
全員、無言。
ノア:「…………」
ガルム:「……?」
「……返して……」
「いやもう腹の中だが!?」
「返して……」
リュミ:「あ、あの……ガルムさん……」
セシリア:「最低ね」
イサナ:「……死刑」
「なんで!?」
ガルムが本気で動揺する。
結局、
ガルムが追加で五個奢ることで決着した。
ノアは静かに言った。
「……許す……
でも、覚えておく……」
「怖ぇよ!!」
◆
◆昼下がり・噴水広場
一行は噴水のそばで休憩していた。
風は穏やか。
雲も薄い。
リュミは空を見上げて、
少し不思議そうに言う。
「……今日は……
空が、とても静かです……」
ソーマも頷く。
「予報も来ないしな」
「珍しいですね」
「強制休養のおかげだな」
セシリアはベンチで書類を閉じ、
珍しく何もしていなかった。
「……こういう日が続けばいいのに」
ガルムは噴水の縁に座り、
満腹そうに腹をさする。
「いやー、
世界救った後の飯はうめぇな!」
「まだ救いきってないからな?」
イサナは噴水の水面を見つめ、
ぽつりと言った。
「……でも」
全員がそちらを見る。
「……こういう“何も起きない日”が、
一番、揺れやすい」
「……どういう意味だ?」
ソーマが聞く。
イサナは首を振った。
「……ただの勘」
だが、
ソーマの耳奥で――
ほんの一瞬だけ、
“無音”が走った。
(……今の……)
何も聞こえない。
雑音すらない。
それが、
なぜか少しだけ――
不安だった。
◆
◆夕方・宿舎への帰り道
夕焼けの中、
一行は宿舎へ戻る。
ノアがぽつりと言った。
「……今日……
いい日だったね」
「ああ」
ソーマは頷く。
「……でも……
こういう日の後って……
大体、何か起きる」
「縁起でもないこと言うな」
「……ごめん」
リュミは二人の間に入り、
優しく言った。
「大丈夫です。
何が起きても……
一緒なら、乗り越えられます」
ソーマは小さく笑った。
「だな」
その夜。
ソーマはベッドに横になり、
目を閉じる。
耳奥は、
まだ静かだった。
だが――
眠りに落ちる直前、
かすかな“予報未満の感覚”が
胸をよぎる。
(……近いうちに……
“天気のない予報”が……)
そこまで考えて、
意識が途切れた。




