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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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静かな空と騒がしい現実

深空断層の揺れが落ち着くと、

空気は嘘のように静かになった。


あれほど耳を圧していた“世界の音”が消え、

ただ風が吹くだけの、

いつものアステリアの空が戻っている。


ガルムが空を見上げ、ぽつりと言った。


「……あー……

 なんか……普通だな」


「普通が一番ありがたいのよ」

 セシリアはその場に座り込み、深く息を吐いた。


「もうしばらくは、

 魔導具も断層も見たくない……」


リュミはまだソーマの腕を支えたまま、

心配そうに覗き込む。


「本当に……大丈夫ですか?」


「……うん。

 頭も、耳も……今は静かだ」


ソーマはそう答えながら、

ほんの少しだけ違和感を覚えていた。


(……静かすぎる……?)


以前なら、

断層を越えた直後は

ノイズの残響がしばらく残っていた。


だが今は――

まるで、世界が一拍置いているような静けさ。


イサナが断層を振り返る。


「……完全には閉じてないね。

 でも……

 “縫い止められた”感じはする」


ノアは地面に腰を下ろし、

空を見上げて呟いた。


「……ソーマ。

 僕の世界の揺れ……

 少しだけ、遠くなった」


「消えたわけじゃない?」


「うん……

 でも……

 “急かされなくなった”」


その言葉に、

ソーマは胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。


(完全な解決じゃない……

 でも、確実に“時間は稼げた”)


◆王都への帰還


天象庁の転送門を抜けると、

王都レウェンの喧騒が一気に押し寄せてきた。


露店の呼び声。

馬車の音。

遠くで鳴る鐘。


ガルムが思わず叫ぶ。


「うおっ!?

 人多っ!!

 断層よりこっちの方が危ねぇ!!」


「騒音レベルだけならそうね……」

 セシリアが苦笑する。


リュミはきょろきょろと周囲を見回し、

少しだけ頬を緩めた。


「……王都、久しぶりです。

 平和な音がします……」


イサナは人混みの中で、

自然と影の薄い位置に立っていた。


「……人が多い場所は、

 霊脈が厚くて……息が詰まる」


「それを言うなら俺もだ!」

 ガルムが肩をすくめる。

「鎧が重い!!」


「それは自業自得よ」

 セシリアが即答した。


◆天象庁・簡易報告室


最低限の報告だけを済ませるため、

一行は天象庁の簡易報告室に通された。


セイル・アルヴェインは

書類に目を通しながら、

静かに言う。


「……深空断層の暴走は沈静化。

 完全封鎖は不可能だが、

 当面の拡大は止まった――

 という認識でいいな?」


「はい」

 セシリアが頷く。


「ただし、

 断層内部で“第三の揺れ”を確認しました」


その言葉に、

室内の空気がわずかに張り詰めた。


セイルはペンを止める。


「……想定外だな」


「ええ。

 そして、

 ソーマの能力が――

 “予報”から一段階、

 変化しています」


セイルは、

ゆっくりソーマを見る。


「……本人の自覚は?」


ソーマは正直に答えた。


「……まだ、はっきりとは。

 ただ……

 “聞こえる”だけじゃなくなった気がします」


「それは朗報か?」


「……分かりません。

 でも――

 油断すると、

 世界に引きずられる感覚がある」


セイルは小さく息を吐いた。


「……厄介だな」


◆強制・休養命令


沈黙を破ったのは、

意外にもセシリアだった。


「で、長官。

 報告は終わりですよね?」


「ああ」


「なら――

 この人たち、全員休ませてください」


「は?」


「断層突入、

 三重揺れ、

 世界規模干渉。

 これで“通常業務”に戻す気ですか?」


ガルムが即座に同意する。


「そうだそうだ!!

 腹も減った!!

 風呂入りたい!!」


「後半は個人的欲求ね」


リュミも小さく手を挙げる。


「……あの……

 ソーマさん、

 ちゃんと眠っていません……」


ノアも続く。


「僕も……

 少し……休みたい……」


イサナは一拍置いて言った。


「……影も、休ませたい」


セイルは全員を見渡し、

観念したように言った。


「……分かった。

 三日間の強制休養。

 王都からは出るな。

 予報も、同調も、残滓聴取も禁止だ」


「それ、無理じゃないですか?」

 ソーマが素で聞く。


「努力しろ」


即答だった。


◆静かな夕方


その日の夕方。

宿舎の窓から、

王都の空が見えた。


穏やかな風。

薄い雲。


ソーマはベッドに腰掛け、

深く息を吸う。


(……久しぶりに、

 “ただの空”を見てる気がする)


その時――

耳の奥で、

ごく微かに音が鳴った。


――(……明日は……

   晴れ……)


ソーマは、

小さく笑った。


「……ちゃんと、

 天気予報だ」


だが、その声の最後に――

ほんの一瞬だけ、

聞き慣れない“余韻”が混じっていた。


――(……ただし……)


ソーマは、

それ以上聞こうとしなかった。


(今は……休む)


だが、

世界はもう――

次の問いを、準備している。

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