世界の声:選ばれる未来、選び返す意志
真白な世界の中で、
ソーマは“立って”いた。
いや、正確には――
立たされていた。
足の感覚はなく、
重力も方向も曖昧だ。
ただ、目の前に
三つの“未来”が浮かんでいる。
ひとつは、青。
澄んだ空と風、エルカリア大陸の輪郭。
王都レウェンの街並みと、人々の営み。
もうひとつは、赤。
崩れかけた街、灰色の空、
それでも最後まで立ち続ける人影。
ノアの世界。
そして――
三つ目は、黒。
形がない。
風も音もない。
ただ“飲み込む未来”。
ソーマは喉を鳴らした。
(……これが、“選択肢”……
世界が俺に突きつけてる未来……)
黒い揺れが、
低く、静かに囁く。
――(……どれか……ひとつ……
のこせば……
ほかは……しずむ……)
ソーマは奥歯を噛みしめた。
「……ふざけるな」
声は震えていたが、
はっきりしていた。
「そんな選択肢、
最初から間違ってる」
黒い揺れがわずかに波打つ。
――(……せかい……は……
いつも……
えらんで……きた……)
「知ってる」
ソーマは一歩、前へ出た。
「洪水の時も、
飢饉の時も、
戦争の時も……
世界は“切り捨てて”生き延びてきた」
青と赤の未来が、
かすかに揺れる。
「でもな……
それを“仕方ない”って言い続けた結果が、
今のお前だろ」
黒い未来が、
ほんの一瞬、ひるんだ。
――(……なに……を……
しって……いる……)
ソーマは胸に手を当てる。
「俺は、前の世界で
“どうにもならない天気”を見続けてきた」
雨が降る。
風が吹く。
誰かが被害を受ける。
「それでも、
予報は“諦め”のためにあるんじゃない」
ソーマの声が、
はっきりと響く。
「備えるためだ。
逃げるためだ。
生き延びるためだ。」
黒い揺れが、
ざわりと音を立てた。
――(……だが……
おまえ……の……
ちから……は……)
「まだ未完成だ。
だからこそ――」
ソーマは拳を握る。
「選ばない。
選ばされる未来を、選び返す。」
◆
その瞬間。
三つの未来が、
同時に“近づいてきた”。
青と赤が重なり、
黒がそれを包み込もうとする。
現実世界では――
◆
◆断層・最奥/現実側
「ソーマ!!」
リュミの叫びが、
断層内に響く。
ソーマの身体から、
不規則な魔力波が溢れ出していた。
セシリアが必死に計測する。
「ダメ……!
予報波形が……
未来干渉域に入ってる……!!」
ノアは歯を食いしばり、
ソーマの腕を掴む。
「戻ってこい……!
ソーマ!!
世界の声に……
“飲まれるな”!!」
イサナは影の隙間を踏み、
断層の揺れを切り裂くように立つ。
「……世界が、
ソーマを“器”にしようとしてる」
ガルムが叫ぶ。
「器だぁ!?
ふざけんな!!
ソーマは人間だ!!
道具じゃねぇ!!」
リュミは涙をこぼしながら、
同調を最大まで広げた。
「お願い……
ソーマさん……
戻ってきて……
あなたの居場所は……
“未来の中”じゃない……
“今”です……!!」
◆
◆再び、白い世界
ソーマの耳に、
リュミの声が届いた。
(……今……)
視界に浮かぶ未来が、
一瞬、静止する。
「……そうだ」
ソーマは、
未来から目を逸らした。
「俺の居場所は、
“選択肢の外”だ」
黒い揺れが、
明確に動揺する。
――(……なぜ……
こわく……ない……)
「怖いさ」
ソーマは、
正直に答えた。
「未来を知るのは、
いつだって怖い」
それでも、と続ける。
「だからこそ、
俺は“今”を選ぶ。」
◆
ソーマは、
未来そのものに背を向けた。
そして――
現実へ、意志を叩きつけた。
◆
◆断層が“呼吸”を取り戻す
轟音。
だが、破壊ではない。
深空断層の揺れが、
ゆっくりと“落ち着いていく”。
セシリアが叫ぶ。
「揺れが……減衰してる……!?
断層が……閉じ始めてる……!!」
ノアは崩れ落ち、
息を荒くする。
「ソーマ……
今の……
世界に……“逆らった”……?」
イサナは、
小さく笑った。
「……違う。
“世界に答えた”んだ」
ソーマは膝をつきながら、
ゆっくりと目を開けた。
視界は、
元の断層の最奥。
だが――
黒い揺れは、消えていなかった。
ただ、
“見ているだけ”になっている。
――(……おぼえ……た……
その……こえ……)
ソーマは、
はっきりと言った。
「覚えておけ。
次に会う時は、
もっとマシな未来を持ってくる」
黒い揺れは、
何も言わず――
断層の奥へと沈んでいった。
◆
リュミが駆け寄り、
ソーマを抱き支える。
「……無茶しすぎです……
本当に……」
ソーマは、
少しだけ笑った。
「ごめん……
でも……
なんとなく分かった」
「何がですか?」
「この世界が……
俺に何をさせたいのか」
ノアは疲れ切った声で言う。
「……世界の“選択係”?」
「違う」
ソーマは、
首を振った。
「“選ばせない存在”だ」
ガルムが豪快に笑う。
「ははっ!!
難しいことは分かんねぇが、
とりあえず生きてりゃ勝ちだな!!」
セシリアは深く息を吐く。
「……生きて帰れたのは奇跡よ。
本当に……」
イサナは断層の奥を見つめ、
静かに呟いた。
「……これで終わりじゃない。
世界は……
“次の問い”を用意してくる」
ソーマは、
ゆっくり立ち上がった。
「望むところだ」
深空断層は、
まだ完全には閉じていない。
だが確かに――
“暴走”は止まった。
そして、
ソーマの耳奥には、
久しぶりに“はっきりした声”が流れ始めていた。
――
(……明日の……
天気は……)
その続きを、
彼はまだ聞かなかった。




