深空断層・最奥:世界の溺死点
深空断層の最奥に近づくほど、
空間は「音」でも「景色」でもなく――
“情報の泡”が浮かぶ海 へと姿を変えた。
泡は光り、
ときに文字のようなものを形づくり、
そして消えていく。
ソーマはその泡のひとつが弾けた瞬間、
胸の奥に鋭い痛みを感じた。
(うっ……!
今の……“予報の断片”か……?)
ノアが肩で息をしながら言った。
「ここ……
僕の世界が崩れ落ちた瞬間と、
本当に同じ空気だ……
胸が苦しい……」
リュミは震える指で空気をなぞる。
「……泡に触れると……
誰かの“願い”が流れ込んできます……
でも、重い……
苦しそうで……」
セシリアも泡の光を観測しようとするが、
魔導計が悲鳴のように鳴り続けていた。
「数値が……意味をなしていない……!
存在量がマイナスになったり、
突然∞(無限)になったり……!」
ガルムは眉をひそめる。
「なんか、ここだけ空気が違うな……
“生き物が死ぬ寸前みてぇな空気”だ……」
イサナは静かに言う。
「……ここが“溺死点”
世界が限界まで沈んでいく場所。
揺れが重なりすぎて、
“生も死も決まらない”場所」
ソーマは前を見据えた。
(この奥に……何があるんだ……?
俺の予報を乱した“手”……
あれは何を伝えたかったんだ?)
◆
◆中心部――揺れの交差点
光の泡が途切れ、
ぽっかりと穴のような空間が現れた。
そこには――
何もない“はず”なのに、
無数の声が渦を巻いていた。
――(……たすけ……)
――(……きこえ……)
――(……わたしを……)
――(……しずめないで……)
――(……どこ……へ……)
崩れた世界、沈んだ未来、
消えた時間……
そんな断片が、声として漂っている。
ノアが頭を押さえ、倒れ込む。
「ぐっ……!!
声が……多すぎる……!!
僕の世界の声じゃない……
もっと……もっと遠い……!」
ソーマはすぐに駆け寄る。
「ノア!!
しっかりしろ!!」
リュミは両手を胸に当て、
必死に揺れを整えようとする。
「みんな……落ち着いて……!
揺れが……呼吸みたいに乱れています……!
誰の声か……わからない……!」
セシリア:
「これ……世界の“残骸”の叫び……!?
こんな密度、記録にないわ……!」
イサナはその声を静かに聞き取り、
低く言う。
「全部……“選ばれなかった未来”の声だよ」
ソーマ:
「選ばれ……なかった……?」
イサナ:
「世界が崩れるとき、
“救われなかった誰かの願い”だけが残る。
断層は、そういう声を溜め込む袋みたいな場所」
ガルムは苦しげに歯を食いしばる。
「なんだよそれ……!
そんなの……全部助けられねぇのかよ……!」
ソーマは拳を握った。
(そんなの……
俺だって助けたいに決まってる……!)
その時。
――(……ソーマ……)
再び、あの声が落ちてきた。
ノアが青ざめる。
「その声……第三の揺れだ……!
ソーマを“観測”してる……!」
ソーマ:
「観測……?」
ノア:
「ソーマがどんな未来を望んでるか……
どちらの世界を……
“生かしたいと思ってるか”……」
リュミが顔を上げ、強い声で言った。
「そんなの……まだ決められません!!
どちらも、救わなきゃいけない世界です!!」
イサナも続ける。
「断層の“第三の揺れ”は、
世界を天秤にかけようとしてる。
でも……それは間違ってる」
セシリア:
「選ばなくていい!
両方救うために来たのよ!!」
ガルム:
「そうだ!!選べなんてふざけんな!!
全部ぶっ飛ばして救うぞ!!」
影の声が揺れた。
――(……ぜんぶ……
すくう……?
そんな未来……あるの……?)
ソーマは一歩前へ出る。
「ある。
俺たちが作る。
“世界の終わりの予報”を、
俺が塗り替える!!」
揺れが強く脈打つ。
――(……なら……
みせて……
おまえの……“未来”……)
ソーマの耳奥で、
爆音のような残響が鳴った。
――ザアアアアアアアアアッ!!!
視界が真白に染まり、
世界が裏返る。
◆
◆ソーマの予報が“干渉”の段階へ
膝が崩れ、
ソーマは地面に手をついた。
(な……んだ……これ……
ただ見えてるだけじゃない……
俺の予報が……“世界に触ってる”……!?)
ノアが叫ぶ。
「ソーマ!!離れて!!
それは“観測”じゃない!!
世界の揺れが……
ソーマの中に入り込もうとしてる!!」
リュミも必死に同調を広げる。
「ソーマさん!!
戻ってきてください!!
あなたの意志が……揺れに飲み込まれかけています!!」
しかし、
ソーマにはもう“別の景色”が見えていた。
――青の揺れ(アステリア)
――赤の揺れ(ノアの世界)
――黒の揺れ(第三の世界)
三つが――
ひとつに重なろうとしている。
(これは……
世界の……未来の……
選択肢……?)
黒い揺れだけが、
ソーマへ問いかける。
――(……どの“未来”を……
みたい……?)
◆
その瞬間。
断層の中心に、
巨大な“ひび割れ”が走った。
イサナが叫ぶ。
「ダメ!!
このままだと断層が“外側”に溢れる!!
世界が飲まれる!!」
セシリアも絶叫する。
「ソーマ!!戻れ!!
あなたが引き金になってる!!
観測が干渉に変わってるのよ!!」
ガルム:
「ソーマァァァァ!!戻ってこい!!」
リュミは涙を浮かべ叫ぶ。
「ソーマさん!!
あなたは……この世界の“希望”なんです!!
だから……戻ってきて……!!」
ソーマの視界に、
三つの揺れが重なり――
世界が、
静かにこちらを見ていた。




