沈黙する空と最初の兆候
天象庁・中央観測塔。
アステリア最大の気象観測装置が集中する場所。
いつもの朝なら、
この塔の最上階には
水晶板の光や計測器の針の動きが
絶えず見られる。
――だが。
今日は、すべてが静止していた。
「……全部、止まってる?」
セシリアが訝しげに眉を寄せる。
計測盤の針はゼロ位置から動かず、
魔力風速計も沈黙。
霊脈の波形を描く立体水晶すら
暗く沈んでいる。
観測官の一人が青ざめながら言う。
「これ……観測史上初です。
“全項目ゼロ”なんて……
通常、どこか一つは動くはずなのに」
ガルムは首をかしげる。
「ゼロってどういう意味だ?
風がないとか、魔力がないとかか?」
セシリアが即座に否定した。
「違う。
“観測できていない”が正しいわ。
存在しないんじゃない、
“観測できない状態にある”の」
ガルム:
「……余計わかんねぇ!!」
ソーマも眉をひそめた。
(観測不能……
昨日の予兆の“沈黙”と同じだ……)
そのとき、
観測塔の中央にある巨大な魔導水晶が
“ピシ”と小さくひび割れた。
観測官たちがどよめく。
「ひ、ひび!?
魔導水晶が……!?」
セシリアも驚愕した顔で近寄る。
「こんなの理屈に合わない……
外部から衝撃もないのに、
内部からひびが……?」
リュミが小さく声を漏らす。
「……揺れが……吸い取られています……
まるで、世界の“気配”が……」
イサナも壁に触れながら瞳を細めた。
「薄い……
この塔、
まるで“世界から切り離された箱”みたい」
ノアは胸を押さえた。
「……また来た……
昨日の、あの感じ……
境界が……震えてる……!」
ソーマも耳奥に
わずかな“チリッ”という残響を感じた。
(予報じゃない……
でも、“何かが来る”前触れだ……!)
◆
セイル長官が急ぎ階段を上ってくる。
「状況は聞いた。
だがこれは……予想以上だな……」
セシリアが報告する。
「全観測器がゼロ値です。
世界の揺れ――
正確には“揺れの情報”そのものが遮断されています」
セイルは水晶をじっと見つめ、
低く呟いた。
「……まるで、“観測させまい”としているようだ。
世界が、何か重大な変化を隠している……
あるいは――」
ソーマが続きを言う。
「“別の何か”が、この世界を覆ってる?」
セイルが頷く。
「可能性は高い」
◆
そこへ、
観測塔の職員が駆け込んできた。
「長官! 緊急報告です!!
王城から使者が……!
“ソーマ・ソウマ殿を至急引き渡せ”と!」
ソーマ:
「……ッはぁああ!?なに言ってんの!?」
ガルムは即座に怒鳴った。
「ふざけんな!!
ソーマは渡さねぇ!!」
セシリアも険しい顔になる。
「王家……ついに動いたわね。
こっちの観測異常に気づいたのよ。
ソーマを“兵器化”する気ね」
リュミが不安そうにソーマの袖を掴む。
「ソーマさん……どうしましょう……」
イサナが静かに告げる。
「神殿も呼応する。
王家が動けば、すぐに“天啓の器”扱いされる」
ノアは迷いなくソーマの隣に立った。
「僕は……絶対にソーマを渡さないよ」
ソーマ:
「いやいやいや俺の取り合いすんなって!!
普通こんな状況ある!?
俺なんかただの気象オタ――」
セシリア:
「はいストップ。
現実逃避してる暇ないわよ」
ガルム:
「逃げるか!?ぶん殴るか!?それとも屋根から脱出か!?
どれでも得意だぞ!!」
「最後のだけ犯罪者ムーブすぎるだろ!!」
そんな漫才みたいな会話が交わされ――
その瞬間だった。
――ゴォ……ッ……。
観測塔そのものが、
低い、地鳴りのような音を発した。
リュミが震えた声で言う。
「……これ……
“世界の揺れ”じゃありません。
もっと……もっと深い……」
イサナが壁を押さえる。
「境界が……押されてる……
どこかで“大きな穴”が開きかけてる」
ノアも声を上げる。
「ソーマ!
これ、前の世界が消える直前と……
すごく似てる……!!」
ソーマは息を呑んだ。
(まずい……!
本当に“世界崩壊の共鳴”が始まってる……!!)
セイルが緊急判断を下す。
「全員!!
天象庁地下の“結界室”へ移動する!
観測塔は一時封鎖だ!!
ソーマ君、ノア君、君たちも来なさい!」
その背後で――
観測水晶がさらに大きくひび割れ、
――ピシィィッッ!!
白い光が塔内を一瞬照らした。
ソーマは思わず叫ぶ。
「これ……本格的にヤバいぞ……!!」
観測塔の沈黙は終わり、
“異変”はついに姿を見せ始めた。




