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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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王都の夜、静かな予兆

その夜。

王都レウェンの空は、不気味なくらい静かだった。


昼間にあれほど賑やかだった街も、

明かりがぽつぽつと消えていき、

かわりに虫の声と、遠くの鐘だけが響く。


ソーマは天象庁の簡易宿舎のベッドの上で、

頭の後ろに手を組んだまま天井を見つめていた。


「……静かすぎるな」


耳の奥も、妙に静かだ。


(予報がないのは助かるけど……

 “無音”ってのは、それはそれで気味が悪いんだよな)


あの世界では、

毎朝6時、昼12時、夕18時の3回、

ほぼ決まってアナウンサーの声が流れた。


ここでは、不定期。

それだけに――予報が来ない時間が長いほど、

胸の奥にざわつきが生まれる。


「……今日は何もないよな?」


そう呟いた瞬間だった。


――カサ……。


ベッド脇の窓の外で、何かが揺れた。


ソーマは上半身を起こす。


「……風?」


しかし、外の空気はほぼ無風だ。

木々の揺れの“周期”が違う。


(風じゃない……揺れ、か?)


立ち上がり、窓を開けた――その時。


――“ザザッ……ザ……”。


耳奥で、微かな雑音が走った。


「っ……!」


思わず窓枠を掴む。


(予報の……前触れ!?

 いや、違う。これは“予兆”だ……!)


“本来流れるはずの予報”が何かに遮られて、

断片だけが漏れているような感覚。


――ザ……ザ……(……低……気圧……)


「低気圧……?」


世界のどこかで、

精神に干渉する魔霧の揺れが立ち上がっている?


いや、それだけじゃない。


雑音は断続的で、

なにか別の音が混ざっている。


(……人の声?

 いや……“重なってる”……?)


ソーマは額を押さえた。


(まずい……これは普通の予兆じゃない。

 “別世界の残滓ざんし”との干渉がいつもより強い……!)


そのとき――


「ソーマ」


背後から静かな声がした。


「うわっ!」


思わず振り返ると、

ドアの影に立っていたのはノアだった。


髪が少し乱れ、

目に薄い揺れが宿っている。


「……ノア?こんな時間にどうしたんだよ」


ノアは胸に手を当て、

苦しげに息をついた。


「わからない……けど……

 さっきから胸の奥がざわざわするんだ。

 世界の境界が……“裂けてるみたいで”」


ソーマは息を呑む。


(ノアの揺れって……世界外のものだ。

 こいつが反応するときは、普通の現象じゃない)


「何か、聞こえた? ノア」


ノアは小さく頷いた。


「……人の声がしたんだ。

 でも、すごく遠くて……

 “助けて”って言ってる気がした」


ソーマの心臓が跳ねた。


(まさか……

 前の世界の、“残り時間”が……?)


いや、断言はできない。

だがノアの世界が完全に消滅していないなら――

そこから“助けを求める揺れ”が届く可能性もある。


その時、再び雑音が走る。


――ザ……ザァ……(……圧……域……接近……)


ソーマは直感で理解する。


「この予兆……

 前の世界とアステリア、両方の揺れが重なってる……!」


ノアは苦しげに目を閉じた。


「ソーマ……これ、

 “どっちかが押しつぶされる揺れ”だと思う……」


ソーマはノアの肩を掴む。


「ノア!!しっかりしろ!!」


ふるふると揺れるノアの瞳。


「……ごめん、平気。

 でも……怖い。

 僕の世界が消える時に似てる……

 “静けさの後に来る揺れ”だ」


ソーマは息を飲み込み、

夜空を見上げた。


どこまでも静かで――

その静けさが逆に不安を煽る。


(まずい。

 これは本気で危険な揺れだ……!

 天象庁に報告するか?

 でもこの予兆だけじゃ確証が……)


ノアが震える声で言った。


「ソーマ……僕たち……

 どっちの世界も、守れるのかな……?」


ソーマは強く首を振った。


「守る。

 どっちもだ。

 俺は……そのためにこの世界に来た」


ノアは目を丸くし、

ゆっくりと頷いた。


(……たとえ予報が沈黙していても。

 この“予兆”だけでも十分すぎる。

 明日……セイル長官に必ず伝えよう)


ソーマは静まり返った王都の空を睨む。


(……来る。

 次の揺れは、でかい)


夜気が冷たく、

星だけが静かに瞬いていた。


その星々の向こうで――

異世界の残滓が、かすかに蠢いていた。

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