帰還、揺らぎの王都
光が晴れ、足元の感覚が戻ってくる。
ソーマはぐらついた足で地面を踏みしめ、
ゆっくりと目を開けた。
「……戻ってきた……?」
そこは――
王都レウェンの外縁部。
時間の裂け目が発生した“あの場所”。
けれど、裂け目は完全に閉じており、
空気も、地面も、世界も“正常”だった。
ガルムが両腕を伸ばして叫ぶ。
「うおおお!!
地面が真っすぐだ!!
時間も反転してない!!
最高!!」
セシリアが呆れた顔で言う。
「普通それが当たり前なのよ……」
リュミは胸に手を当て、ほっとしたように微笑む。
「本当に……帰ってこれましたね……
空の揺れが落ち着いています」
青年も辺りを見回し、
静かに深呼吸した。
「……僕の揺れも、ちゃんと“世界に噛み合ってる”。
本当に戻ってこれたんだ……」
ソーマが微笑む。
「もう影に引っ張られたりはしないよな?」
青年は頷く。
「うん。
でも……引っ張られるとしたら、
きっとこれからは“ソーマ達に”だね」
ガルムが背中をばしんと叩く。
「いいことだ!
仲間ってそういうもんだ!!」
青年は少しよろけながらも笑った。
◆
帰還の喜びも束の間――
王都の方角から“ざわめき”が聞こえる。
セシリアが眉を寄せた。
「……王都、何かあった?」
リュミは空へ視線を向けた。
「いや……これは……
“人の揺れ”が増えているだけ……
でも、少し不安定……?」
イサナが袖を引いて指差した。
「来た」
王都から数名の騎士団が走ってくる。
その先頭には――
見覚えのある女性がいた。
「……あれは……」
ソーマが声を漏らす。
神殿直属の指揮官、
“聖盾隊”のカトレアだ。
鋼のような視線でソーマ達を見据え、
その足を止めた。
「ソーマ・ソウマ。
天象庁より報告が入った。
“時間異変の中心にいた”と」
ソーマは冷や汗をかく。
(あ、これ……
嫌な予感しかしない……)
ガルムがぼそりとつぶやく。
「ソーマ、お前また面倒ごと拾ってきたな……」
セシリアも呟く。
「今回は……“拾った”じゃなくて“飲み込んだ”規模よ……」
リュミはソーマをかばうように一歩前に出る。
「ソーマさんは……
世界を守るために動いただけです!
あのまま放っておいたら王都も……!」
しかしカトレアは表情を崩さない。
「それは確認している。
だが――」
彼女の視線は青年に向いた。
「……その者は何だ?
記録にない“揺れの転移者”だな」
青年が少し緊張した面持ちになる。
ソーマが前に出た。
「青年は……俺たちが救った仲間だ。
悪いことは何もしていない」
カトレアは鋭い目を向ける。
「世界の揺れに干渉できる存在は、
王国にとって脅威にもなる。
この者も、神殿で“調律”を――」
ガルムが大声で遮った。
「調律とかやめろよ!!
こいつは俺たちの仲間だ!!
勝手に持ってくな!!」
イサナも目を細める。
「神殿の管理って、
基本“持って帰って封じる”だから嫌い」
セシリアも腕を組む。
「わたし達、いま世界救ってきたばかりなんだけど……
功労者への扱いがそれ?」
黙っていたリュミも、
珍しく強い声を出した。
「青年さんを……危険な扱いにしないでください」
カトレアの目が細くなる。
「……巫女候補が反論とは、珍しいな」
空気が張りつめ、
最悪の場合、戦闘に発展しかねない雰囲気。
ソーマは深呼吸した。
そして――
一歩、前へ出た。
「青年は俺の責任だ。
俺の仲間で、俺が守る。
“調律”なんて言葉で扱われる存在じゃない」
カトレアの眉が動く。
「……世界の揺れを読む者が、
“保護対象”を自分で決めるつもりか?」
ソーマは強く頷く。
「決める。
それが俺の“揺れ”だ」
一瞬の沈黙。
だが――
カトレアは意外にもすぐに剣を収めた。
「……よかろう。
天象庁には任務報告として提出するが、
この場で拘束はしない」
全員が安堵の息をつく。
ただし――
カトレアは冷たい声で続けた。
「だが覚えておけ。
“揺れを外から呼ぶ者”は、
王家・神殿・測候院の三者にとって
絶対に放置できない存在だ」
ソーマは小さく息を呑む。
(……あぁ、来たなこれ……
ついに俺の“予報”が本格的に狙われる……)
カトレアは最後に青年へ向き直り、告げた。
「その揺れ。
決して隠しきれまい。
王都中に広がっている。
――覚悟しておけ」
青年は静かに頷いた。
「……覚悟ならとっくにできてるよ」
カトレアは踵を返し、
騎士たちを連れて王都へ戻っていった。
◆
残された六人は疲れを滲ませながらも笑った。
ガルムが大きく伸びをする。
「よし!!
難しい話は後だ!!
とりあえず腹減った!!
肉食おうぜ肉!!」
セシリアが呆れつつ頷く。
「まあ……確かにエネルギー切れね……
今日はたくさん戦ったし」
リュミが微笑む。
「王都に……美味しい焼き串の店がありますよ。
行きませんか?」
ソーマは少し笑った。
「焼き串……いいな……
やっと“普通の世界”に戻ってきた感じする……」
イサナが袖を引いた。
「ソーマ。わたし、甘いもの食べたい」
「え、世界が甘いもの好きって話からの流れ……?」
「うん。“世界に倣う”の大事」
「世界の真似はやめよ?」
青年が静かに笑う。
「……普通の時間って、いいね」
ソーマは青年の肩を軽く叩いた。
「ああ。
これからは“普通の時間”も取り戻せるさ。
……たまにならな」
「たまに、って言うんだね……」
ソーマは空を見上げる。
世界の揺れは静かだった。
けれど――
耳の奥にはまだ、微かな“予兆のざわめき”が残っている。
(……次の揺れが来る前に。
少しでも……普通の日常を味わっておこう)
六人は王都への道を歩き出した。
日常と陰謀と、
新しい揺れが待つ街へ。




