影核突破、六重の揺れ陣
影の巨層が咆哮をあげた瞬間、
世界がひっくり返ったような衝撃が走る。
時間が巻き戻り、
景色が二重に揺れ、
足元の地面が“波”のようにうねった。
ソーマは叫ぶ。
「足場まで揺れてる!?
世界、もっと落ち着いて!!」
セシリアが返す。
「それを落ち着かせるほうが難しいのよ!!
世界のご機嫌なんてどうやって取るのよ!!」
「お菓子とかあげたら……?」
「世界に通用するわけないでしょ!!」
イサナがぽつりと言う。
「でも……世界って甘いもの好きだよ」
「えっ好きなの?」
全員が二度見した。
イサナは平然と続ける。
「雷脈から砂糖の結晶が落ちてくることあるし」
「世界どうなってんの!?」
ソーマが素でツッコむ。
◆
影の巨層が再び腕を振り上げる。
その軌道はゆっくり見えるが、
“触れた時間”を奪いながら迫るため、避け方が極端に難しい。
ソーマは集中した。
(影の腕……“次”の揺れ……どこだ……)
――ザザ……
『……右前……層歪曲……二段……』
(右前から“二段攻撃”…!?
一回振り下ろしたあと、 時間が戻ってもう一度!)
「ガルム!!
その腕、一回じゃ終わらない!!
二回目の衝撃がくる!!」
「了解!!」
ガルムは斧を構え、
巨大な影の腕へ突っ込んだ。
「おらああああああ!!!」
最初の衝撃を受け止め、
地面を滑りながら踏ん張る。
そして――
時が“戻り”、振り下ろしが再び来る。
ガルムは斧を振り上げた。
「二回目もまとめてこいやぁぁぁ!!!」
斧と影の腕がぶつかり、
巨層の動きが一瞬止まった。
◆
セシリアはその隙に術式を展開する。
「《気圧震・裂断式》!!」
空間の圧力が揺らぎ、
影の腕に切れ込みが生じた。
イサナが素早く杖を突き立てる。
「《残滓縫合》」
裂けた影が固定され、動きを封じられる。
リュミは両手を胸に組み、祈るように呟いた。
「……揺れよ、澄みなさい……
《風路清正》」
風の流れが整えられ、
影の動きがさらに鈍った。
六人の技が重なり、
巨大な腕がわずかに後退する。
青年はその様子を見つめ、
静かに前へ歩み出た。
その身体は半透明だが、
足取りは確かだった。
「……僕の世界でも、同じだったんだ……」
ソーマが目を向ける。
「青年?」
青年は影の巨層を見上げた。
「あれは……僕がいた世界が崩れる時に生まれた“影”。
誰も助けられなくて……
僕は逃げて……
世界は飲み込まれた」
ソーマは拳を握る。
「一人の責任じゃないだろ!!
それを全部背負うな!!」
青年は小さく笑った。
「優しいね、ソーマ。
でも……僕は終わらせなきゃいけない。
あれは“僕の未練”の形だから」
イサナが頷く。
「なら、みんなで終わらせよう」
ガルムが斧を肩に担ぐ。
「おう。
お前だけにカッコつけさせねぇよ」
リュミは静かに手を合わせた。
「青年さんの揺れ、
いま……とても綺麗です」
セシリアは息を整える。
「感情が揺れを強くする……
なら今が最大値ね」
青年は深く息を吸い――
両手を前に突き出した。
「――来い。“僕の揺れ”」
淡い青い光が青年の手に集まり、
透明な球のような揺れが形成される。
ソーマが驚く。
「それ……!」
イサナが小さく呟いた。
「揺れ核だね。
揺れの本質」
青年が影に向け、声を放つ。
「……僕の時間を返してもらう!」
青年の揺れ核が、
影の巨層の胸部へ向かって飛ぶ。
影は初めて反応し、
胸を庇うように腕を交差させた。
リュミが叫ぶ。
「急所……!
そこが影の中心、影核です!!」
ソーマは青年に叫ぶ。
「もう一撃!!
動きが止まってる今なら届く!!」
青年は両手を握り、
再び揺れ核を形成する――が。
「……っ……!!」
突然ひざをついた。
ソーマが駆け寄る。
「青年!!?」
青年は苦しげに笑った。
「……少し……体が……追いつかない……
思ったより……戻れてない……」
セシリアがすぐに診る。
「揺れの密度が不安定……!
一気に力を使うと揺れが崩れるわ!!」
イサナが続ける。
「ソーマ、青年を支えて」
「任せろ!!」
ソーマは青年の背に手を添えた。
(揺れの流れ……!
俺も予報で聞こえる“世界の揺れ”を……!)
――ザザ……
予報が微かに反応する。
――『……共鳴……接続……補助……』
「いける……!!
青年、俺も一緒に揺れを流す!!」
青年は驚き、そして笑った。
「……分かった。
一緒に……行こう」
ソーマと青年の揺れが重なり――
――蒼い閃光が生まれた。
「行けええええええ!!!」
ソーマの叫びと同時に、
揺れ核が影の胸部へ突き刺さった。
――ズガァァァァァン!!!!
影の巨層が大きくたじろぎ、
胸の奥から黒い煙が噴き出す。
セシリアが叫ぶ。
「核心部にヒビが入った!!
あと少しよ!!」
ガルムが斧を構える。
「なら、仕上げは俺の仕事だな!!」
イサナも杖を構える。
「いくよ、みんな!」
リュミの声が響く。
「青年さん……!
あなたの揺れ、今すごく強いです!!
このまま押し切れます!!」
青年は頷き、立ち上がった。
影の巨層が反撃の構えを見せる。
世界が揺れる。
そして――
六人は一斉に駆けた。
影核を砕くために。




