揺れの復活、影の巨層
――世界が震えた。
青年の揺れが一度、強く脈打つ。
白かった光が、淡い青へ変わり、
その形が“人の輪郭”をはっきり帯び始める。
ソーマが息をのむ。
「……青年……!」
(……ここに、いたんだ……
僕は……)
青年はうつむき、
両手を見つめるように揺れた。
(僕の……揺れ……
僕が選ぶ……)
リュミがそっと祈る。
「あなたの揺れは……まだ消えていません。
戻っていいんです……ここへ」
イサナの声が重なる。
「揺れはね……“消えたい”より“残りたい”を選んだ時に強くなる」
ガルムが笑う。
「帰ってこいよ。
お前はまだ終わっちゃいねえ」
そして――
青年は、静かに頷いた。
(……戻る……
僕は……ここに……在りたい……)
その瞬間、青年の揺れが
3本の補助線を一気に引き寄せ――
――光が弾けた。
◆
だが、世界はそれを許さない。
――ゴオオォォォォ……!!
裂け目の底から、
“影の巨層”が迫り上がる。
巨大な手のようなものが、
地平線を塗りつぶすほどの暗さでせり上がる。
セシリアが絶叫する。
「来たっ……!!
層の崩落そのものよ!!
これ、世界が“間違えた時間”を消しに来てる!!」
ソーマが震える。
「世界ってそんな物騒なの!?
もっとこう……優しい存在じゃないの!?!」
イサナが淡々と告げる。
「優しいわけないよ。
“世界の維持”が最優先。
邪魔な時間は全部切り捨てる」
「こわッッ!!」
ソーマが全力で距離を置く。
影の巨層はゆっくりと腕を伸ばす。
だが、その動き一つ一つが“時間のずれ”を引き起こし、
周囲の地形が次々と崩れ、逆再生し、また崩れる。
ガルムが斧を構え、大声を上げる。
「オイ世界!!
切り捨ててんじゃねぇ!!
こっちはまだ終わらねぇんだよ!!」
セシリアが怒鳴った。
「相手は世界現象なのよ!?
怒鳴ってどうするのよ!!」
「気持ちの問題だろ!!」
◆
青年の復元はまだ途中。
リュミが叫ぶ。
「ソーマさん!!
青年さんを守らなきゃ!!
揺れが安定するまで時間が必要です!!」
ソーマは頷き、状況を解析する。
(影の動き……遅く見えるけど……
周囲の時間を“奪って”進んでる……
距離感がめちゃくちゃだ……)
そのとき。
耳の奥でノイズが走る。
――ザザ……
『……風速……流動……
警戒……』
ソーマの顔が変わった。
「影の“動き方”、予報と一致してる……!!
あれ……風じゃなくて“時間の流れ”を引き寄せてるんだ!!」
セシリアが理解する。
「つまり動かすには……
逆に“流れを乱す”必要がある!!」
ガルムが叫ぶ。
「乱すってなんだ!?
ぶっ叩けばいいのか!?」
「違うわよ!!!」
イサナが静かに告げた。
「違うけど、あなたがやることは合ってる」
「結局ぶっ叩くのかよ!!」
◆
戦闘体勢に入る五人。
●ガルム:時間奪い手の進行を物理で止める
●イサナ:層の揺れの固定
●セシリア:時間乱流を発生させ進行遅延
●リュミ:青年の揺れを安定化
●ソーマ:予報から動きの“先読み”を行う
各々が、最大限の役割を担う。
ソーマが叫ぶ。
「ガルム!!
振り下ろす腕、三秒後に“二重になる”!!
時間がズレるから避け方注意して!!」
「二重!?
何それ怖ッ!!」
ガルムは斧を構え直す。
セシリアが術式を放つ。
「《乱流障壁》!!!
時間の流れを乱して速度を落とす!!」
イサナが追加する。
「その隙に青年の揺れを安定させるよ!」
リュミは祈りの手を青年へ添えた。
「がんばって……戻ってきて……!」
青年の揺れはさらに明度を増し、
姿が徐々に“透明な青年の像”へ変化していく。
◆
そして――
影の巨層がついに腕を振り下ろした。
――ドォォォォン!!!
大地が裏返り、
上下が入れ替わるほどの衝撃。
ガルムは斧で受け止め、
地面を滑りながら踏ん張った。
「こ……のっ……!!
デカさの割に重さはねぇな!!
ただのデカい影じゃねぇか!!」
セシリアが叫ぶ。
「それ、褒めてるわけじゃないでしょ!?
ただのデカさで十分脅威よ!!!」
イサナは揺れの固定を続けつつ呟く。
「ガルム……ああいう時だけはすごいね」
ソーマは叫ぶ。
「次!!
影の腕、今度は“場所ごと”消すぞ!!
ガルム、絶対そこから動け!!」
「指示が遅え!!!」
ガルムが飛んだ瞬間、
ガルムのいた地面が空間ごと消えた。
リュミが悲鳴を上げる。
「ガルムさん!!」
「問題ねぇ!!
死んでねぇ!!
むしろ元気だ!!」
ガルムは別の層に足場を踏みしめ戻ってきた。
「なんで元気なんだ……」
ソーマが小さく嘆く。
◆
青年の揺れが、ついに形を為した。
透明だった身体が、淡く色を帯び、
輪郭が確かな“人”へ戻る。
青年――
その瞳が開く。
「……ソーマ……
みんな……」
ソーマが笑う。
涙がこぼれる。
「戻ってきたな!!
青年!!!」
青年はかすかに微笑み――
次の瞬間、表情を引き締め、影を見上げた。
「……あれが……
崩れた層の“中心原因”……」
セシリアが叫ぶ。
「青年!
身体はもう平気なの!?
無理しないで!!」
青年は首を横に振る。
「平気じゃない。
でも……分かる。
“あれは僕の時間から落ちた残響”なんだ」
ソーマが驚く。
「どういうこと!?」
青年は影を指差した。
「……あれは、僕の世界が崩れる時に生まれた“断片”。
僕が逃げたことで残った、最後の“影”なんだ」
イサナが目を細める。
「つまり……自分自身の影」
青年は頷いた。
「だから――
僕が“終わらせる”。
僕が逃げなければ、生まれなかった影だから」
ソーマは思わず青年の腕をつかんだ。
「一人でやれるわけないだろ!!!
俺たちがついてる!!」
ガルムが斧を肩に担ぐ。
「おう。
背中ぐらい貸すぜ?」
リュミが微笑む。
「あなたの揺れは、もう“ひとりじゃない”です」
セシリアも呟く。
「……逃げたい時は、逃げてもいいのよ。
でも今日は、一緒に戦う日みたいね」
青年は深い息を吸い――
静かに言った。
「……ありがとう。
それじゃあ――行こう」
影の巨層が吠える。
世界が軋む。
層が崩れ始める。
そして――
六人は影へ向かって駆け出した。




