揺れの大崩壊、世界の三日間
――バシュゥゥゥゥン……!!!
青年の体から爆発した白い揺れが、
広間だけでなく“世界そのもの”へ走り抜けた。
空間が一瞬、無音になる。
そして次の瞬間――
――ゴォォォォォッッ!!
地下広間が“消えるように”白光に包まれた。
「ソーマさん!!!」
リュミの叫びが、遠くで響く。
ソーマは咄嗟に仲間を引き寄せた。
その直後――
世界が裏返った。
◆
激しい風が吹きつける。
いや、“風”ではない。
大気そのものが“揺れの方向”を見失ったような流れ方。
ソーマは視界が白く霞む中、
息をついた。
「……ここは……どこだ……!?」
背後でガルムが咳き込む。
「わかんねぇけど……生きてるな……!」
セシリアが額に手を当てて呻く。
「始まった……
“世界規模の揺れ崩壊”よ……
観測史上……存在しないレベルの……」
リュミは胸に手を当てながら周囲の空気を読む。
「……王城地下の空間が……
揺れの波に飲み込まれて……
今は“別の層”にいます……!」
ソーマが聞き返す。
「別の層!? 階層あるの!?
世界ってメゾネット構造なの!?」
「意味は合ってないです!!」
リュミのツッコミも弱々しい。
イサナは周囲を見回し、低く呟いた。
「……揺れの“上澄み”にいる。
本来は触れられない領域……
境界と現実の“隙間”。
つまり……」
セシリアが蒼白になる。
「アステリアが……
崩れはじめてる……!?」
◆
視界が徐々に戻る。
そこは王城地下とは似ても似つかない場所だった。
空間が歪み、
足元が時々、透明になり、
遠くでは建物の影が上下逆に揺れている。
ソーマは呆然とする。
「これ……
王都の……影みたいだ……」
リュミは震えた声で頷く。
「現実と残滓が混ざって……
“層が重なっている”んです……
こんなの、聞いたことありません……」
ガルムは拳を握りしめる。
「青年の揺れ……
とんでもねぇことしやがった……!」
ソーマは青年の姿を探す。
「青年は!?
どこだ!?」
しかし白い揺れの渦の中心にいたはずの青年は、
姿が消えていた。
代わりに、
ソーマの耳にノイズが微かに触れる。
――ザ……ザ……ザ……
――『……注意報……広域……魔霧……』
(前世の予報!?
こんな状態でも聞こえるのか!?)
セシリアが顔を上げる。
「ソーマ!
予報、来てるのね!?」
「うん……でも……
ノイズが多い……いつも以上に……!」
リュミが手を重ねる。
「揺れが乱れすぎて……
予報の“経路”も壊れてるんです……!」
イサナは眉をひそめた。
「それでも聞こえるのは……
ソーマの揺れが“世界のゆらぎの中心”に来たから……」
◆
突然、
足元がガクンと沈んだ。
「わっ!!?」
ソーマたちのいる足場が、
波のように揺れ始める。
いや――これは波ではない。
世界そのものが“うつ伏せ→仰向け”のようにゆっくり裏返ろうとしている。
「ひぃぃぃぃぃ!!!
世界ひっくり返さないで!!!」
ソーマが悲鳴をあげる。
ガルムが叫ぶ。
「全員、踏ん張れ!!!
ソーマを中心に引かれるぞ!!」
ソーマは焦る。
(俺を中心!?
中心ってなに!?
俺は世界のコアじゃない!!!)
セシリアが説明しながら半泣き。
「世界の揺れがソーマに“向いてる”のよ!!
中心点にされかけてるの!!」
「いやだああああ!!
俺そんな重役やった覚えない!!!」
ソーマが絶叫。
イサナが近づき、
ソーマの肩を掴む。
「大丈夫。
あなたは中心じゃない。
“結び目”よ」
「もっと嫌だ!!!」
ソーマは泣く。
リュミが励ましながら手を握る。
「結び目は……
世界を繋ぐ大切な場所なんです……!
ひとりじゃ崩れません……!」
「ひとりじゃ崩れないってことは!!!
崩れる可能性はあるの!?!?」
「あります!」
リュミが元気に答えた。
「元気に言うところじゃない!!!」
ソーマの魂のツッコミが響く。
◆
その時――
天から白い光が降りてきた。
いや、“天”ではない。
層が重なった天井の一つ…
向こう側の層から光が漏れてきている。
光の渦がソーマの前で収束し、
青年の姿が再び形を取った。
青年は半透明で、
存在が揺れている。
「ソーマ……
聞こえる……?」
ソーマは息を呑む。
「青年……!
どうなったんだよ……!?」
青年はかすかに笑った。
「僕はもう……
“形を保つことすら”難しい。
世界の崩壊に巻き込まれて……
揺れの塊になりかけてる」
ソーマは叫んだ。
「なんでそんなことしたんだよ!!!
世界の揺れを壊すとか……!」
青年は静かに首を振る。
「壊そうとしたんじゃない。
“均そう”としたんだ。
区別を消せば……
僕の世界も消えずに済むと……
そう思った」
リュミが震える声で問う。
「本当に……それが救いだと……?」
青年は目を閉じた。
「わからない。
でも……
僕は死にたくなかった。
世界が消えるのを、見たくなかった」
ソーマの胸が痛む。
(青年は……
ただの敵じゃない。
世界に遺された“最後の人”なんだ)
青年が顔を上げる。
「でも……ソーマ。
君が言った“もう一つの方法”。
まだ……聞いてないよ」
ソーマは拳を握った。
「俺はまだ何も知らない。
何もできない。
でも……
世界を救う方法を探すって言ったんだ!!
お前も……アステリアも……
どっちも残す方法、探す!!」
青年は、
揺れが崩れそうな身体で微笑んだ。
「……本当に……
そんな方法が……」
その瞬間――
青年の身体がバラバラに揺れた。
「青年!!」
「境界が壊れてる……!」
イサナが叫ぶ。
青年の声が震える。
「ソーマ……
僕……
消える前に……
もう一度、会いに行く……」
そして、
青年は光の粒となって散った。
世界の層が――
大きく歪む。
セシリアが叫ぶ。
「この層、崩壊する!!
早く移動しないと落ちるわ!!」
リュミが手を伸ばす。
「ソーマさん!!
次の層へ!!」
イサナが叫ぶ。
「走れ!!
世界が本格的に崩れ始める前に!!」
ソーマは胸に残る痛みを抱えながら走った。
(青年……
消える前に、会いに行く……)
その言葉が、
ソーマの決意を強くした。
(必ず……助ける方法を見つける!!
どっちの世界も……!!)
崩れ始めた層の世界を背に、
ソーマたちは次の揺れへと飛び込んだ。




