揺れの心臓、世界の選択
――ゴウッ……!!
地下広間の空気が、
まるで巨大な心臓の鼓動のように脈動した。
金色の線が輝き、
黒い残滓が絡みつき、
足元で“二つの世界”が交差する。
「う……うあっ……!!」
ソーマの身体が勝手に引かれた。
胸の奥から、
何か透明な糸を引っ張り出されるような感覚。
青年は淡々と告げる。
「始まったね。
“選別”が」
「させるかよ!!!」
ガルムが飛び出す。
だが――
ガルムの足が、
魔法陣に触れた瞬間。
――バチッ!!
「ぐっ……!!?」
彼の身体が弾き飛ばされた。
「ガルム!!」
ソーマが叫ぶ。
「平気だ!! 折れてねぇ!!
……たぶん!!」
ガルムは壁にめり込みながら叫ぶ。
「たぶんが嫌なんだよ!!」
◆
セシリアが魔導測定器を叩きながら悲鳴を上げる。
「なにこれ……なにこれ!?
“世界の深層波”が干渉してる……!?
魔法陣なんてもんじゃないわ……これ……
物理法則がねじれてる……!!」
ソーマが震える。
(俺……
こんなもの呼んじゃったの……?)
青年は優しく、
まるで“あやすように”言った。
「呼んだんじゃないよ。
君がいるから、世界が“揺れた”だけだ」
「そんな勝手に揺れないでくれ!!!」
ソーマが泣きそうになる。
イサナは青年を一直線に睨んだ。
「選別に意味なんてない。
ソーマは――“こっちの世界の人間”だ」
青年は今度は微笑みも消して静かに返した。
「君がそう思いたいだけだよ、イサナ。
君こそ……境界から“迷い込んだ揺れ”なのに」
イサナの瞳が揺れる。
ソーマは叫んだ。
「やめろ!! イサナを揺らすな!!」
青年は小さく首を振る。
「僕は事実を言っているだけさ」
◆
その時、
天井の“裂け目”が一気に広がった。
――ビキ……ビキィィィ!!
白い光が落ちてくる。
いや、“落ちる”のではない。
ソーマの胸へ向かって収束していく。
「やっ……やめ……っ……!!」
身体の内側で、
何かが二つに引き裂かれる感覚。
(苦しい……!!
揺れが……二つの方向に……)
一つは、いま立っているアステリア。
もう一つは――
前世の“消えかけた世界”。
ノイズが聞こえる。
――ザ……ザァ……
――『……前線……低気圧……接近……』
(前世の天気予報……!?
なんでいま……!?)
その混ざり方が異様だった。
遠くの記憶が、
“呼び出されている”ように感じる。
◆
リュミが涙目でソーマの腕をつかんだ。
「引かれないで!!
ソーマさんは……ここにいます……!!
ほんとうに、ここに……!!」
ソーマは必死で頷く。
「いる……!!
俺は……ここにいる……!!」
だが身体は言うことを聞かない。
足元から浮き上がる。
世界が二つに割れ、
両側から引かれる。
セシリアが叫ぶ。
「まずい……!!
深層波の干渉が限界を超えてる!!
このままだとソーマの揺れが――
“二つに裂ける”!!」
「裂ける!?」
ソーマが叫び返す。
「嫌だよ!?!?
縦に!? 横に!? どっち!?!?」
「そういう裂け方じゃないわ!!
存在情報の分裂よ!!」
「もっと嫌だよ!!!」
ソーマは半べそ。
◆
イサナが立ち上がり、
杖を強く突き立てる。
「ソーマは裂けない!!
私が“軸”にする!!」
杖の先から、
黒い残滓と白い風が混ざったような揺れが放たれる。
青年が初めて表情を変えた。
「……イサナ。
その力……」
イサナは叫ぶように声を張った。
「私は境界の子でいい!!
どの世界にも属せない揺れでいい!!
でも――」
ソーマに手を伸ばす。
「ソーマは“選ばれた側”じゃない!!
――“選ぶ側”なんだよ!!」
ソーマの胸に、
イサナの揺れが流れ込む。
白い光と黒い影がぶつかり合い、
ソーマの身体を中心に渦を巻く。
青年は小さく呟いた。
「……こんな干渉、
初めて見たよ……」
◆
リュミも一歩踏み出す。
「なら……私も!!」
両手を広げ、
《天象同調》を限界まで解放する。
透明な風の揺れが、
ソーマの周囲を包み込む。
「ソーマさんはここです!!
この世界の“空”が証明します!!」
ガルムも吠える。
「ソーマァァァァ!!!
帰ってくんなぁぁ!!
ここにいろ!!」
セシリアは必死で術式を展開する。
「3人の揺れを束ねるわよ!!
ソーマ!!
逃げるな!! 踏ん張れ!!」
「踏ん張ってるよおおおお!!!
足つかないけどおおおお!!!」
ソーマは必死に世界へしがみついた。
◆
青年はしばらくその光景を見つめていた。
その顔に、
“悲しさとも諦めともつかない感情”が浮かぶ。
「……そうか。
それが……君たちの答えか」
その声と同時に、
天井の裂け目が震え出す。
「なら――
一度、世界に訊いてみよう」
青年は手を掲げた。
白い光が形を成し、
人の形から“揺れそのもの”へと変わっていく。
「ソーマ・ソウマ。
アステリアは君を拒むか。
それとも、迎えるか」
その言葉が、
世界を震わせた。
――全ての揺れが、
ソーマに集中する。
――世界が、
ひとつの答えを示そうとする。
選ぶのは青年でも、
ソーマ自身でもない。
“世界そのもの”だ。
(来る……!!)
ソーマは目を強く閉じた。
そして――
世界が、ソーマの揺れに“答え”を返した。




