王城の地下、揺れの心臓へ
王都・レウェン王城。
普段は荘厳で人々の憧れの象徴である城も、
この夜ばかりは違って見えた。
魔導灯の明かりは弱く、
空気は重く、
王城の周囲には人の気配すらない。
「ほんと……来ちゃった……」
ソーマが震える声でつぶやく。
「来たんじゃねえ、連れて来られたんだ」
ガルムが重い扉を押し開けながら言う。
「どっちでも嫌だよ!!」
ソーマのツッコミはキレがある。
◆
城門は閉じられていたが、
天象庁の立場があるセシリアが兵に通告すると、
兵たちは深刻そうな表情で道を開いた。
「……“王城地下へ揺れが集まっている”という報告は、
すでに王家にも届いています」
兵士が声を低くする。
「王家は……
“原因が天象庁側にあるのでは”と……」
遠慮がちな視線がセシリアに向いた。
「してねぇわよそんなこと!!」
セシリアが怒鳴る。
ソーマがすかさず耳打ちする。
「いやセシリアさん、
少しは落ち着いて……?
怒り方が完全に犯人ムーブ……!」
「あなたのせいよ!!
全部あなたのせいよ!!」
セシリアが真顔で言う。
「俺なの!?!?
いまの流れ俺なの!??」
ソーマが両手を上げて悲鳴をあげた。
◆
城内は、想像以上に静かだった。
リュミが空気を味わうように目を閉じる。
「……揺れが、
この建物そのものに“染み込んで”います……」
「染み込む!?
建物がスポンジみたいに言うのやめて!!」
ソーマが怯える。
「比喩です!!」
イサナは周囲を見回しながら、
小さく呟いた。
「……あの青年、
かなり深くまで“根”を張ってる」
「根って何の話!?」
ソーマは聞くのが怖い。
「揺れの“根”よ。
世界と世界をつなぐための、
“糸”みたいなもの」
「糸や根、それぞれ怖い!!
もっと可愛い例えして!!」
「無理」
イサナは即答だった。
◆
王城の内部を進むと、
重い石造りの階段が姿を現した。
セシリアが足を止める。
「ここよ。
“王城地下区画”。
普段は王家の霊廟と記録庫があるだけだけど……」
魔導測定器が、
低く震える音を出す。
「……間違いないわ。
揺れの中心は、この下」
「王城の地下って言えば……
相当古い場所だよな?」
ガルムが斧を担ぎ直す。
「ええ。
王都が出来る前からある“地下基盤”。
アステリアの深層に近い場所よ」
セシリアが言う。
ソーマは背筋が冷えた。
(深層に近い……?
そこに俺を呼ぶ通路が……?)
◆
階段を下りると、
空気が変わった。
温度が下がるのではなく、
“厚み”が増す感覚。
リュミは思わず胸を押さえた。
「……苦しい……」
「リュミ!」
ソーマが支える。
「大丈夫です……
ただ……
ここ、揺れが密すぎて……
私の体が押されてる感じが……」
イサナがそっと肩に手を置く。
「無理するな。
揺れは私が読むから」
「イサナさん……ありがとう……」
◆
やがて、
地下広間にたどり着いた。
そこは王城の古い記録庫――
だが、いまはまるで別空間だった。
床に、
薄い金色の模様が広がっている。
壁には、
黒い霧の筋が走っている。
そして天井は、
微かに揺れ、
“白い裂け目”が浮かんでいた。
「……なにこれ……」
ソーマが息を飲む。
セシリアは震える声で呟いた。
「揺れを……“魔法陣”にしてるのよ……
この規模……ありえない……
人間じゃ絶対できない……」
「人間じゃないからできてるんだな」
ガルムが斧を握りしめる。
イサナは目を細めた。
「呼び出し陣……じゃない。
これは……“選別陣”」
「選別!?
何を選ぶんだよ!!」
ソーマが叫ぶ。
イサナはゆっくりソーマを見た。
「――あなたの“揺れ”。
どちらの世界へ属するか」
ソーマの肺が止まったように感じた。
(どちらの世界……?
そんな……選択……)
◆
その時――
――コツン。
軽い足音が、
広間の奥から響いた。
ソーマの心臓が跳ねる。
(……来た……)
薄暗い奥から、
青年が姿を現した。
今日は微笑んでいなかった。
だが怒ってもいない。
ただ静かで、
まるで祈りの場に立つ聖職者のような表情。
「ようこそ、ソーマくん」
ソーマは一歩下がる。
リュミ、イサナ、ガルム、セシリアが前に出る。
青年は、
ひどく自然な声で続けた。
「君を迎えるための準備は、
もうすぐ整うよ」
ソーマは必死に声を振り絞った。
「……帰らないって言っただろ……」
「うん。
聞いたよ」
青年は頷く。
「でも、
“気持ち”と“揺れの属する場所”は別だから」
その言葉に、
イサナが杖を握りしめる。
「やめろ。
ソーマを揺らすな」
「揺れているのは、
君のほうだよ、イサナ」
青年は優しい声で返した。
「君は……境界の子。
どちらの世界にも属せない揺れ」
イサナの喉が詰まる。
(やめて……
その言葉……)
ソーマはたまらず叫ぶ。
「やめろ!!!」
青年の瞳が、
ほんの少しだけ揺れた。
「ソーマくん。
君がどちらに“属する”のか――
僕はただ、それを確かめたいだけなんだ」
ソーマは涙が出そうになる。
「確かめなくていい!!!
俺は“この世界”で生きたい!!
それが答えだ!!」
青年は静かに首を振る。
「違うよ。
“世界が選ぶ”んだ。
人じゃない」
その瞬間。
地下広間の魔法陣が、
金と黒の光で“点灯”した。
足元が揺れる。
空気が引き裂かれる。
天井の裂け目が広がる。
リュミが叫ぶ。
「ソーマさん!!
なんか来ます!!」
イサナが杖を構える。
「この揺れ……
外側の心臓が開く……!」
青年の声が、
静かに重なる。
「さあ、ソーマくん。
世界が――君を迎える」




