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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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夜の王都、揺れの包囲網

夜の王都・レウェン。

いつもなら、飲み屋の灯りと笑い声が響き、

夜市の屋台が落ち着いた賑わいをみせる時間帯。


しかしこの夜は――

まるで“街全体が息をひそめている”ようだった。


「……人がいない」

 ソーマがつぶやく。


いつも混み合う大通りに、

人影がほとんどない。

店は戸板を閉じ、窓の光も消えている。


「みんな避難してるんです」

 リュミが胸の前で手を組む。


「さっきの“揺れの警告”が王都中に流されて……

 神殿も騎士団も、“外に出るな”と指示したんです」


「そりゃあんな崩落見たらな……」

 ガルムが肩をすくめる。


セシリアは手元の魔導測定器を見つめて眉をひそめた。


「……市街地全域に“微細な揺れ”が散ってるわね。

 これ、自然じゃない」


ソーマの背筋がぞわっとする。


「また……あいつの仕業?」


セシリアは短く頷いた。


「ええ。

 “広域の揺れ”をばら撒いてる。

 目的は――」


イサナが先に言った。


「ソーマの“軌道”を固定するため」


ソーマは思わず振り返る。


「俺の……軌道……?」


イサナは揺らぎの方向に視線を向けた。


「外側の揺れはね。

 “対象の通った道”をなぞって広げることで、

 その人を“帰すための道”を作るの」


「……俺、帰らんって言ったよね!?!?」

 ソーマの悲鳴はもはや風物詩。


「何度も言ってる!!」

 イサナが即ツッコミする勢い。


その時。


――キィィィン……


金属音のような、

魔力の軋むような、

耳の奥が揺さぶられる音が響いた。


リュミがハッと顔を上げる。


「東区画です!

 “揺れの束”が生まれました!!」


「束!?」

 ソーマが跳ねる。


「普通の残滓は霧みたいに散るんですが……

 いまのは、揺れが“紐のように絡まっている”感じ……!」


セシリアが険しい表情で言い切る。


「――“道”だわ」


全員、息を飲む。


「青年は、

 ソーマを外側に連れていくための“通路”を造ってる。

 それも、王都のあちこちで同時に」


「通路そんな大量生産やめろーーー!!」

 ソーマが地面に崩れ落ちる。


「落ちるな! 立て!」

 ガルムが首根っこを掴んで持ち上げた。


「苦しい苦しい!!」


セシリアが地図を広げる。


魔導測定器で読み取った揺れを、

地図上に転写すると――


「……うそでしょ」


地図全体に、

糸のような細い揺れが走っていた。


それは王都の四方から中心に向かい、

やがて一点に交わるようになっている。


リュミが震える声で言った。


「これ……

 “ソーマさんの位置”に向かって流れてる……」


「俺ピンポイント!?

 なんでそんなGPSみたいな正確さ!?」

 ソーマが悲鳴を上げる。


「GPSって何?」

 セシリアが冷静に聞き返す。


「こっちの世界にない単語出すな!!」

 ガルムのツッコミが刺さる。


イサナは地図を見つめた。


(……中心点。

 揺れが一点に集まる形。

 これはただの“誘導”じゃない)


(――“召喚”の形だ)


イサナの心臓が嫌な鼓動を打つ。


「ソーマ」


「な、なに……?」

 ソーマはおそるおそる答える。


イサナは、できる限り優しい声で告げた。


「これ、

 あなたを“呼び出す陣”の形になってる」


「呼び出す!?!?

 俺、召喚されるの!?

 もう召喚されてきたのに!! 一回したよね!!?」

 ソーマが絶望の声を上げる。


「二重召喚か……」

 セシリアが低く呟く。


「二重なんてあるの!?」

「知らないわよ!!

 そんなの聞いたことない!!」


「こっちの世界の常識じゃないってことか!!!」

 ソーマは半泣きで震える。


その時――

街の北側から悲鳴が上がった。


「裂け目だ!!

 裂け目がいきなり街路に!!」


「影が出てる!!

 誰か!! 閉じろ、結界を――!」


騎士団の声が遠くで響く。


セシリアが真っ青になる。


「ダメよ……!

 王都のど真ん中に裂け目なんて……

 普通ありえない!!」


リュミが両手を胸の前で震わせる。


「揺れが……街を覆うように……

 “網”になってます……

 すべてがソーマさんへ向かって……」


ソーマは頭を抱えた。


「俺、何した!?!?」


「生まれた」

 イサナが一言で答える。


「重い!!!」

 ソーマが泣く。


セシリアは決意の表情になる。


「いいわ、やるしかない。

 天象庁として宣言する」


深く息を吸い――


「“青年の揺れの中心地点コアを突き止める”」


「中心……?」

 ソーマが振り向く。


「そう。

 この揺れを“操っている場所”。

 それが分かれば――ソーマの通路を断てる!」


ガルムが拳を握る。


「よし、ぶっ壊す!!」


「壊す気まんまんかよ!!」

 ソーマがツッコむ。


だが、

その“勢いの良さ”に救われている自分もいた。


リュミがそっと手を重ねる。


「大丈夫です。

 世界中がソーマさんの敵じゃありません。

 私たちが、います」


「リュミ……」


イサナも静かに言う。


「あなたも……この世界の揺れだよ。

 だから、守る」


ソーマの胸に、温かいものがこみ上げた。


セシリアが魔導地図を掲げる。


「揺れの発生源、三ヶ所。

 北区画・神殿前、

 東区画・水路脇、

 そして――」


地図の中央に、

ひときわ濃い揺れが表示される。


「――王城の真下」


全員が黙った。


ガルムがポツリと言う。


「……面倒くせぇ場所に作りやがる……」


ソーマは乾いた笑いしか出なかった。


「え、そこ……

 今までで一番行きたくない場所なんだけど……」


セシリアが平然と返した。


「王家はあなたを欲しがってるから、

 ちょうどいいんじゃない?」


「良くない!!!」

 ソーマのツッコミはもう芸の域。


リュミが顔を上げる。


「でも、行くしかありません。

 王城が本当に揺れの中心なら――

 “青年”もそこに……」


イサナが杖を握りしめた。


「行こう。

 全部終わらせるために」


ソーマは息を吸った。


怖い。

怖くて足がすくむ。


だけど――

逃げたら誰かが代わりに巻き込まれる。


「……うん。

 行こう」


夜風が吹いた。


どこか遠くで、

白光が一瞬だけ脈動した。


まるで、

“待っているよ”

と囁くように。

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