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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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図書院崩落、残滓の夜

――轟音。


王立図書院・南棟は、

白光に砕かれるようにして倒壊した。


外の中庭から見えるその光景は、

まるで“建物が溶けて沈む”かのよう。


「こっちへ!! 急げ!!」

「崩落範囲が広がってるぞ!!」


避難誘導の騎士たちの怒号が飛び交う。


ソーマたちは、

ガルムが体で庇うようにして中庭へ駆け抜けた。


「走れ!! 止まるな!!

 振り返ると死ぬぞ!!」


「いや!! 振り返りたい!!

 もう現実逃避したい!!!」

 ソーマが泣きながら叫ぶ。


「死ぬって言われて振り返んな!!」

 ガルムのツッコミが完全に正しい。


外へ飛び出した瞬間――

背後で、南棟が大きく沈み込む音がした。


――ドゴォォォォ……ッ!!


石の塔が一瞬浮いたあと、

そのまま縦に割れ、

奥へ滑り落ちていく。


「うわあ……」

 ソーマは思わず座り込む。


「……こんな崩れ方、初めて見ました……」

 リュミも青い顔をしている。


「そりゃそうだろ!!

 あれ、建物というより“世界ごと”削れてるぞ!!」

 セシリアが震える声で言う。


イサナは崩落地点を見つめていた。


風ではなく、

耳ではなく、

“揺れ”で感じている。


(……まだいる。

 白光は消えたけれど……

 あの青年の揺れ、完全には遠のいてない)


胸の奥がざわつく。


(……ソーマ。

 あなた、ほんとうに……

 世界の外側に近い揺れを持ってる)


それは恐怖ではなく、

“複雑な痛み”だった。


そこへ、騎士隊長が駆け寄ってきた。


「天象庁の者たち!

 状況を説明してくれ!!

 図書院が“沈下”したなど聞いていない!!」


「説明なんてできるかぁ!!!」

 ソーマが思わず叫ぶ。


「お前が一番説明できない立場だろ!!」

 ガルムがすかさず叩く。


セシリアが肩で息をしながら前に出る。


「南棟で“裂け目の揺れ”が暴走したの。

 結界が追いつかなかったわ……!」


騎士隊長が目を見開く。


「裂け目……?

 では、これは魔力嵐の前兆か?」


「違うわ」

 セシリアは首を振る。


「“誰かが裂け目を押し広げた”のよ。

 自然現象じゃない」


隊長は息を呑んだ。


「誰が――」


その時、ソーマの耳が震えた。


(ノイズ……?)


――ザ……ザ……

――『……警戒レベル……』


(予報……?

 こんなタイミングで……)


ノイズは弱い。

聞こえづらい。

だが確かに言っている。


――『……“見えない風”の流入……

 ……意識の接触に……注意……』


ソーマの冷や汗が止まらなかった。


(見えない風の流入……

 あいつの“揺れ”……まだ残ってる……)


セシリアの報告を聞いた騎士隊長は、

すぐ背後の騎士へ命じる。


「至急、王宮へ使いを!!

 “特級災害”の可能性ありと伝えろ!!」


「特級災害!?」

 ソーマが耳を疑う。


「おいセシリア!」

 ガルムが叫ぶ。


「特級って……魔王級の扱いだぞ!!」


「知ってるわよ!!

 でもこの揺れは、

 魔力嵐より質が悪い!!」

 セシリアは歯を食いしばった。


「世界の表面そのものが削れてるのよ!!

 チート怪獣じゃないの!!」


「そういう例えやめて!!!」

 ソーマも限界。


隊長はソーマを見る。


「天象庁の“予報持ち(よほうもち)”、ソーマ。

 お前は何か感じたか?」


「感じたくなかった!!」

 ソーマが即答する。


「感じろ!!」

 ガルムが頭をはたいた。


「痛った! 自覚はあるよ!?

 えっと……その……」


ソーマは深呼吸し、震える声で言った。


「敵は……人間じゃない。

 “外側の揺れ”が、人の形をして干渉してきてる。

 多分、図書院を狙ってきたのは……俺です」


隊長が絶句する。


「お前……なぜ……」


「知らないよ!!

 俺が聞きたいよ!!!!」

 ソーマが叫んで泣き出した。


「泣くな!!!」

 ガルムが突っ込む。


リュミがそっと背中を撫でる。


「大丈夫です……大丈夫です……」


そんな混乱の中、

空気の“揺れ”が一瞬収まった。


風が止まり、

何かが始まる前の静けさが訪れる。


リュミが顔を上げる。


「……来ます」


「なんだよ次は!!!」

 ソーマが全力で嫌そうな顔をする。


イサナも瞳を細めた。


「王都全体に“揺れの影”が広がってる。

 あいつ、南棟を落としたあと……

 次の準備をしてる」


セシリアが青ざめる。


「次……?

 次って何よ……!」


「“世界を繋ぐ揺れ”の準備」

 イサナの声は震えていた。


「多分、青年は本気で――

 ソーマを“外側へ引き戻すための道”を作ってる」


ソーマの心臓が嫌な音を立てる。


(やめろ……

 やめてくれ……

 本気で狙われてる……)


ガルムが斧を握りしめ、

低い声で言う。


「もう……逃げるだけじゃ済まねぇな」


リュミも強く頷く。


「ソーマさんを外に渡すわけにはいきません」


セシリアが決然と立つ。


「天象庁の名にかけて、

 絶対に止めるわよ……あの“形のない世界”を!!」


隊長が叫ぶ。


「全隊、

 “王都広域警戒こういきけいかい”に移行する!!」


ソーマは拳を握りしめた。


震えは止まらない。

恐怖も消えない。


だけど――


(逃げ続けるだけじゃ、

 みんなを巻き込むだけだ……)


(いつか……

 向き合わなきゃいけない相手だ……)


小さく息を飲み、

ソーマは言った。


「……俺も、行く。

 逃げない。

 アイツが何なのか……

 なんで俺を“鍵”って呼ぶのか……

 確かめなきゃいけない」


リュミが手を握った。


「一緒に行きます」


イサナも静かに頷く。


「ソーマが行くなら、私も行く」


ガルムが笑う。


「誰が置いていくかよ!!」


セシリアがメモ板を叩く。


「なら決まりね。

 ――“青年の揺れのみなもと”を暴くわよ!!」


ソーマは息を吸った。


夜の空は曇っている。


その曇天の向こうで、

白光が一瞬だけ揺れた。


まるで、

“次の波は、もう始まっている”

と告げるように。

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