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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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第三波、南棟崩落前夜

南棟の奥――

白光が再び“濃縮のうしゅく”し始めた。


空気の震えが、

今までの比ではない。


廊下の壁がミシミシと音を立て、

床の石がわずかに浮いた。


「やばい……!」

 ソーマが思わず後ずさる。


「ソーマさん、下がって!!」

 リュミが腕を引き寄せる。


セシリアが瞬時に結界符を十数枚取り出す。


「全員、後退! 廊下中央に集まって!!

 あれ、完全に規模が違うわ……!」


「規模って言い方こわい!!!」

 ソーマが叫ぶ。


白光の中心に立つ青年は、

先ほどの衝突の衝撃を受けたはずなのに――

傷はない。


ただ静かに、

廊下へ広がる“裂け目の骨格”を踏みしめていた。


「……ソーマくん」

 青年は視線をまっすぐ向ける。


「僕は、君を責めてないんだ。

 ただ、君は“外へ帰るべき人”だというだけ」


「いやだぁぁぁぁぁ!!!」

 ソーマが泣き叫ぶ。


「そんな情緒で返事されたくない……」

 青年は少し困ったように言う。


「困らせてるのはそっちだよ!!!」

 ソーマがツッコむが足が震えている。


ガルムが前に出る。


「いいか青年。

 ソーマは、ここで生きるって決めてんだ。

 お前の世界の事情なんざ知らねぇ」


「ガルム!」

 ソーマが驚く。


青年はじっとガルムを見つめる。


「……興味深い。

 “揺れの低い戦士”なのに……

 ソーマくんを守ろうとする意思は強い」


「揺れが低いって馬鹿にされてるぞガルム!!!」

 ソーマがツッコミ。


「揺れとか知らん!!

 俺はソーマの盾だ、それだけだ!!」

 ガルムは胸を張る。


青年は小さく首を振る。


「……厄介だね、君たちの“結びつき”は」


白光が、

さらに四方八方に伸び始める。


セシリアが急いで詠唱する。


「ソーマ! リュミを連れて後退して!!

 ガルムと私は、減衰結界を張る!!

 イサナは――」


言いながらイサナを見ると、

彼女は青年をじっと見つめていた。


何かを覚悟する瞳だった。


「イサナ、無茶はするな!」

 セシリアが焦って叫ぶ。


イサナは、

小さく笑った。


「無茶しない。

 “必要なこと”をするだけ」


「無茶の別名じゃん!!!?」

 ソーマが叫ぶ。


白光が、ついに“第三波”として形を持った。


――ゴォォォォォォ……!!


それは光であり、風であり、

裂け目の“入口の揺れ”そのもの。


「これ……範囲広すぎ!!!」

 ソーマが悲鳴を上げる。


光が触れた壁は、

紙を水に溶かしたように“薄膜”となり、

その奥がぼやけて見えた。


「……向こう側が……見えてる……」

 リュミの声が震える。


「ちょ……待って……

 あれ絶対、世界の外だろ……」

 ソーマの喉が鳴る。


青年は一歩前に出た。


「ソーマくん。

 もう――“ここ”を歪ませたくない」


その声は優しい。

だが同時に――

残酷な確信があった。


「だから、早く帰ろう」


ソーマは叫んだ。


「帰らない!!

 何度でも言う!!

 俺は――この世界で生きたい!!!」


青年の微笑は、静かに消えた。


「……そうか。

 なら仕方ないね」


白光が一気に収束した。


「君を守るためにも、

 “この世界の揺れ”は消しておかないと」


「消す!?!?」

 セシリアが青ざめる。


「ど、どこから消す気よ!?」


青年は、

落ち着いた声で答えた。


「まずは――王立図書院から」


「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 ソーマとセシリアが同時に叫ぶ。


白光が爆発する。


南棟の天井が一瞬で崩れ、

書棚が浮き上がる。


「逃げろ!!!」

 ガルムがソーマを抱えて走り出した。


「ちょっ、ガルム重い重い!!

 俺が重いんじゃなくてガルムの筋肉が圧を!!」


「黙ってろ!!」

 ガルムが叫ぶ。


リュミが風の加護で走り、

セシリアが結界を二重三重に張りながら撤退する。


だが――

イサナは残っていた。


青年の前に立つ。


「やめなよ」


青年は首を傾げる。


「まだ邪魔をするの?」


「邪魔じゃない」

 イサナの声は静かだった。


「あなたがやろうとしてること、

 ソーマは望んでない」


「望むとか望まないとかじゃない。

 彼は僕の世界の人だから」


イサナは首を横に振った。


「違うよ。

 ソーマは――もう“この世界の揺れ”になった」


青年の瞳がわずかに揺れる。


「君は……

 本当に分かっていない」


白光が再び膨らむ。


「“境界の子”は――

 帰る場所を間違えやすいんだ」


イサナの表情が凍りついた。


(……帰る場所……?

 私は……)


青年は微笑む。


「イサナ。

 君も、僕と同じ側の人間だよ」


「違う!!」

 イサナは叫んだ。


「私は――

 ソーマと一緒にいる!!!」


青年の瞳が、

完全に“敵意”に染まる。


「なら――

 消えるしかないね」


白光がイサナを包もうとした、その瞬間。


――バサァァッ!!


巨大な風の壁が、イサナの前に出現する。


「させません!!!」

 リュミが両手を広げていた。


セシリアも横に並ぶ。


「イサナを消すなんて、許さない!!」


「お前……

 ソーマだけじゃなく、仲間まで勝手に連れて行く気かよ!!」

 ガルムが叫ぶ。


(……みんな……)

 イサナの胸が熱くなる。


ソーマも前に出る。


足は震えている。


声も震えている。


それでも言った。


「イサナは絶対帰さない!!

 ここがイサナの世界だ!!

 ここが俺たちの世界だ!!!」


青年は、

初めて――“怒り”と“寂しさ”を混ぜた表情を見せた。


「……ならば、

 この世界ごと――」


「言わせない!!!」

 セシリアが叫ぶ。


「全員――撤退!!!!」


南棟の結界が一斉に発動し、

職員たちが避難ルートを開く。


ソーマたちは全力で廊下を走り、

白光が爆発した瞬間――


――建物全体が、

 “沈んだ”。


空間が歪み、

石材が浮かび、

窓の外が白とも黒ともつかない揺れに染まる。


「崩れる!!!」

 ガルムが叫ぶ。


セシリアが絶叫する。


「外へ出て!!

 ここ、持たない!!!!!」


ソーマは

リュミの手とイサナの手を強く握りしめた。


青年の声が、

館全体に響く。


「ソーマくん。

 次は――逃がさないよ」

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