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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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裂け目の後遺、青年の正体の影

禁書閲覧室の戦闘から数分後。


黒い霧は完全に消え、

裂け目もセシリアの結界で辛うじて“鎮静”していた。


だが――

静けさが戻ったはずの室内は、

奇妙なくらい空気が重い。


「……終わった、と思いたい……」

 ソーマが膝に手をついて、ぜぇぜぇと呼吸を整える。


「ソーマさん、大丈夫ですか……?」

 リュミがそっと背をさする。


「大丈夫……多分……

 ちょっと心が折れただけ……」


「折れないで!? まだ第一波です!!」


「今、あえて言わなかったのに!?」

 ソーマが半泣きで抗議する。


一方、セシリアは結界の中央に膝をつき、

裂け目の残滓を魔導板に書き写していた。


「……ここまで“鮮明な残滓”は珍しいわね……」


「鮮明?」

 ガルムが覗き込む。


「裂け目は普通、開いた瞬間に残滓が崩れる。

 でもこれは――“意図的に開かれた”痕跡」


「意図的……って、誰が?」

 ソーマが質問すると、


セシリアは顔を上げ、

イサナへ視線を向けた。


「イサナ。

 あなた、何か知ってるわね」


イサナは少しだけ眉を寄せる。


(……言うべき?

 でも……言ったらソーマが……)


 躊躇が露骨に出た。


「イサナさん……」

 リュミが小声で呼びかける。


イサナは唇を噛み、

小さく、しかし確かな声で答えた。


「昨日……

 “外側の揺れの人”に会った」


「!!」

 全員の動きが止まる。


ソーマだけが、

まるで胃を掴まれたような顔になった。


「そ……それって……

 昨日の“青年”……?」


「うん。

 金髪で、灰青の目。

 揺れが、人じゃない」


ソーマは喉を詰まらせた。


(やっぱり……あいつ……

 俺のこと……)


「イサナ、そいつ……何か言ってた?」

 セシリアが厳しい声音で問う。


イサナは一瞬、視線を逸らした。

だが、今回は続けた。


「……“迎えに行く”って言ってた」


ソーマの心臓が跳ねた。


「迎えに……

 俺を……?」


「そう。

 ソーマを探してる。

 “境界を閉じた鍵”だって」


「鍵鍵鍵!!!

 鍵って呼ぶのやめてくれ!!!」

 ソーマが泣きそうに叫ぶ。


「めちゃくちゃ狙われてるじゃねぇか……」

 ガルムが低く唸る。


「じゃあ……

 今回の裂け目も……?」

 リュミが震える声で問う。


イサナは、

小さく頷いた。


「たぶん……あいつの“呼び声”。

 ソーマを引っ張るための」


セシリアの表情が険しくなる。


「つまり……

 “境界喰い”はただの災害じゃない。

 あの青年の働きかけで、

 “こちら側に入口を作っている”可能性があるわ」


「ちょっと待って!

 あいつ、何者なの!? 人なの!?

 世界の外側の……なんなの!?!?」

 ソーマが必死で叫ぶ。


 セシリアは言葉を選んだ。


「断定はできないけれど……

 あなたが聞く“予報”と同じ周波の揺れを持っている。

 つまり――」


彼女は静かに告げた。


「あの青年は、あなたの“前の世界”の残り火かもしれない。」


ソーマの全身が固まった。


リュミが息を呑む。


ガルムが斧の柄を握りしめる。


イサナだけが、

ただ静かに、ソーマの表情を見ていた。


「前の世界……?」

 ソーマの声は震えた。


「俺の世界は滅んだはずだろ……?

 じゃあ……どうして……?」


 セシリアは肩を揺らす。


「“完全に滅んでいる”とは限らないわ。

 世界が崩壊する時、

 情報や意識の残滓が別の世界に流れ込むことがある」


「残滓……」


「あなたが聞く予報も、

 廃世界はいせかいの“声”の残り火よ。

 その声に“人の形が混じって”現れたのが――」


「金髪の青年……ってわけか」

 ガルムが唸る。


「正確には、まだ分からない」

 セシリアは首を振った。


「でも一つだけ確実なことがあるわ」


彼女は床の裂け目を指差した。


「あの青年は“こちらの世界側”にも干渉できる。

 つまり――

 “敵になり得る存在”よ」


ソーマの喉がゴクリと鳴った。


(……あいつは……

 本当に俺の世界の……残り火……?)


(なら……俺は……

 何を選べばいいんだ……?)


その時――

禁書室の外の廊下で、

司書たちが走り回る音がした。


「そ、それは本当か!?

 図書院の南棟に――」


「“亀裂きれつが生まれかけている”と!?!?」


「また揺れが!?

 処理班を呼べ! すぐに!!」


ソーマたちは顔を見合わせた。


「……“第二波だいには”だ」

 セシリアが低く呟く。


「まじかよ……!」

 ソーマは即座に立ち上がる。


 足元の震えを必死で押さえながら。


「行こう!!

 誰かが……あいつがまた何かしてる!!」


「ソーマ、無茶するな!」

 ガルムが追う。


リュミも走り出す。


イサナは最後に、

禁書室の床に残った“手形”を見つめた。


(これ……

 あいつの“手”じゃない……)


(もっと別の……“外側の触手しょくしゅ”だ……)


イサナは胸の奥で呟いた。


(ソーマ……

 本当に――狙われてる)


そして、

その瞳にかすかに“恐怖”が揺れた。

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