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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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王立図書院の謎、記録に残らぬ影

 王立図書院〈アーカ・リネス〉。


 大聖堂にも負けない重厚な石造り。

 入口のアーチに刻まれた魔導刻印が淡く脈動しており、

 “読める者にだけ情報を開く場所”として

 王国内でも特別視されていた。


「うわ……静かすぎて逆に怖い……」

 ソーマがこそこそと呟く。


「図書館だからな」

 ガルムは堂々としているが、

 背中に本を抱えた司書たちが睨むように視線を送ると

 急に小声になった。


「……静かにしなさい」

「お前が一番デカい声だったぞガルムさん」


 リュミは入口で、

 そっと風の流れを感じ取っていた。


「うん……ここ、間違いないです。

 “揺れ”がここへ入った……

 でも、普通の人の揺れじゃない」


「どんな感じ?」

 ソーマが尋ねる。


「……“形だけの歩き方”です」


「形だけ、って……?」


「人が歩いたときに残る“目的の匂い”や

 “感情の揺れ”がまったくないんです。

 ただ進んだ……それだけの揺れ」


ソーマは背筋がぞわりとした。


(まるでただ歩行をしているだけ……

 意思を感じない……)


「それって……

 まるで“なにかに操られてる人”みたいな……?」


「言い方やめて怖いから!」

 ガルムがソーマの肩を掴む。


「でも、そういう揺れなんだろ?」

「やめろ!!

 認めたら怖さ倍増!!」


 セシリアが司書室に向かう。


「ここは私に任せて。

 館長から内部調査の許可をもらってくる」


「頼もしい……」

「あの人、こういう時だけ本気出すよな?」

 ガルムが囁くと

 ソーマが頷いた。


「本気のセシリアさん、役所の人より強いもん……」


「失礼よソーマ」

 セシリアは聞こえていた。

 そして怒らなかった。

 たぶん褒め言葉だと解釈した。


 館長の許可を受けて、

 ソーマたちは図書院の奥へ進む。


 廊下には古い文献と魔導記録が壁一面に並び、

 天井まで届く本棚が広がっていた。


「すごい……

 一生分の知識がここにある気がする……」

 リュミが感嘆する。


「全部読むのに何百年かかるんだ……」

 ソーマも圧倒される。


 一方ガルムは――

「……読みたくねぇ」

 即答だった。


「予報書いてる紙くらいしか読まねぇし」

「最低限すぎる」

「お前らが賢いからいいんだよ!」


 奥へ進むと、

 リュミが立ち止まった。


「……ここです」

「見つけた?」

「ええ。“揺れ”が突き抜けてる」


ソーマは息を飲んだ。


リュミが指さした先は――

“禁書閲覧室”と書かれた重い木扉。


「よりによって禁書……!?」

 ソーマが小声で叫ぶ。


「絶対ろくな追跡じゃない……!」

「まあ……怪しいものはだいたい禁書にあるからな」

 ガルムが頷く。


「その理論やめて!!」


 セシリアが扉に触れる。


「開錠術式、まだ生きてる……

 さすがに直接入るわけにはいかないわね」


「じゃあどうするの?」

「館長に二重許可を取って――」


 その時。


 扉の隙間から“風が逆流”した。


「え……?」

 ソーマが顔を上げた。


 重い扉の隙間から、

 まるで“誰かが中から覗いている”ような

 冷たい違和感が滑り出てくる。


リュミは震える声で言った。


「これ……

 “中に誰かいる”匂いじゃない……」


「じゃあ……なに……?」

 ソーマは飲み込む。


「“なにもいないのに、足跡だけある揺れ”です」


「怖ぉ!!!!!!」

「やめてくれリュミ!!!」

 ガルムが本気で後退る。


(なにもいないのに……

 揺れだけが残ってる……?)


ソーマは背筋が冷たくなる。


(まるで“自動で歩いた気配”……

 イサナが言ってた“影の匂いに近い人間”……)


(あれと関係ある……?)


 セシリアが慎重に扉に手を当てる。


「この扉……

 “外から開いた痕跡がない”のよ」


「じゃあ……どうやって入ったの……?」

 リュミが震える。


「どうやってって……

 扉しかないんじゃないの?」


「普通はね」

 セシリアの声に重みがあった。


「でも“揺れ”は――

 扉を通っていない」


「……………………」


ソーマたちは固まった。


「ちょ、待って。

 壁とか……天井とか……

 まさか――」


「そう。

 この揺れ、

 空間の裂け目を通った可能性がある」


ソーマは鼓動が跳ね上がった。


(イサナが恐れていた“影の裂け目”……

 あれが王都にも……?)


「……これ以上は安全確認が必要ね。

 セイルさんに連絡を――」


 その瞬間。


――――カタン。


扉の奥から“何かが落ちる音”がした。


「!!」


「いる!」

 ソーマが反射的に叫ぶ。


「リュミ、揺れは!?」

「い、います!!

 いますけど……これ――」


リュミは恐怖に顔色を変えた。


「人の揺れじゃ、ありません……!!

 “世界の外の風”です!!」


 一方その頃――

 イサナは、金髪の青年と別れた直後の裏路地にいた。


(胸が……痛い……

 何……これ……)


青年に直接揺らされた影響か、

視界がゆらゆらと歪む。


「イサナ!?」


声が降ってきた。


屋根の上に飛び乗った誰かの気配。


「ソーマ……?」


違った。

その声は――


「……リュミ?」

「はい……!

 イサナさん、一人で来ると思って……!」


(リュミ……)


イサナは口を開きかけて――

次の瞬間、

リュミが抱きしめてきた。


「ッ!」


「大丈夫……?

 顔色、すごく悪い……!」


「……大丈夫じゃない」


「あの揺れと戦ったんですね。

 “外側の揺れの人”……」


イサナは目をそらした。


「……ソーマには言わないで」


「どうして……?」


「言ったら……

 揺れるから」


リュミは少しだけ胸に手を当てた。


(……ソーマさんを心配してるんだ……

 敵と戦ったのに……)


(イサナさんは……本当に……)


リュミはそっとイサナの髪に触れた。


「でも、イサナさん。

 あなた一人では危ないことも分かっているはずです」


「分かってる。

 でも……ソーマはもっと危ない」


「それは……

 そうかもしれないけど……」

 リュミは小さく笑った。


「心配しすぎですよ」


「しすぎ……」

 イサナは小声で繰り返す。


(……これは“しすぎ”……?

 違う……はず……)


リュミはイサナの手を取った。


「ソーマさんのところへ戻りましょう。

 図書院で、とても嫌な揺れを感じたんです」


イサナの瞳が鋭く揺れた。


「図書院……!?」


「はい。

 “外側の風”の気配がします」


イサナは決断した。


「行く」


(ソーマ……)

(負けないで)


そして二人は――

図書院へ向かって駆け出した。


その頃、図書院の禁書閲覧室では。


――――ギ……ッ。


扉の隙間が勝手に広がり、

その奥から“目に見えない何か”が、

こちらへ滑り出してきていた。

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