二手の探索、王都の影
大聖堂を後にしたソーマたちは、
王都の北区へ向かった。
石畳の道。
商店が並び、子どもが駆け回り、
魔導具屋から怪しい煙が出ている。
「王都の北は、施設が密集してるのよ」
セシリアが地図を広げて歩く。
「図書院、魔導学院、神殿分室、王家の庭園……
揺れを隠れる場所が多すぎるわ」
「揺れって、物陰に隠れる系なの……?」
ソーマが真顔で訊く。
「揺れは“人の気配や流れ”に紛れるのよ」
セシリアはため息。
「つまり、
人混み=揺れの格好の隠れ場所」
「……かくれんぼの達人みたいな存在なんだね」
「あなたの例え、割と正しいのが腹立つわ」
◆
リュミは周囲をそっと見渡す。
「うーん……
今日の北区は、揺れが薄い気がします」
「薄い?」
ソーマが振り返る。
「昨日の噴水ほどじゃない……
でも、人混みに入ると、
“通り過ぎた跡”みたいな揺れが残ってます」
「残り香ってこと?」
「はい。香りというより……
風が押し返された跡というか……」
ソーマは少しだけ理解した風に頷く。
「じゃあ、その跡を辿れば……
そいつの移動ルートが分かる?」
「たぶん……」
「おお!
じゃあ追跡だな!!」
ガルムはやたらテンションが高い。
「戦闘じゃないからテンション下げなさい!」
セシリアがその頭を叩いた。
「いってぇ!!」
◆
一行はリュミの“風の感覚”を頼りに、
繁華街を横断していく。
「ここ、人多いな……」
ソーマは肩を縮める。
「祭り前だからよ」
セシリアが冷静に答える。
「え、祭りあるの?」
「“星降り祭”。
王都最大の年間行事よ。
魔導灯が夜空を照らして――」
「うまい店も多いらしいぞ」
ガルムが割り込む。
「そっちですね目的」
ソーマが呆れる。
「ガルムさん……
祭りの日、食べ歩きできますね!」
リュミは瞳を輝かせた。
「絶対に行くぞ。
なぁソーマ!!」
「ええ!?
俺も!?
忙しいんじゃないの!?
ほら揺れ追ってるし!」
「大丈夫だ。
祭りは夜だ!」
「根性論すぎる!!」
でも――
そんな掛け合いの中でも、
リュミの眉がぴくりと動いた。
「……あっ」
「見つけた?」
「はい、これ……揺れが濃いです!」
リュミが指す先は――
王立図書院〈アーカ・リネス〉。
重厚な石造りの建物がそびえ、
入口には魔術紋の刻まれたアーチ。
「ここに入った気配があります」
リュミがつぶやく。
「図書館かぁ……
怪しい……?」
ソーマは耳を掻いた。
「怪しいわよ」
セシリアが即答する。
「こういう施設はよく“揺れの隠れ家”になるの」
「いやそこで断言すんな!!
本読む影みたいな奴がいるの!?!?」
「静かで、人目が少なくて、
魔導結界がある施設は、
揺れを安定させやすいのよ」
「……あぁ……なるほど」
ソーマは納得しつつある。
「図書院の館長に挨拶して、
内部調査の許可をもらいましょう」
そう言うセシリアは、
この分野だけは妙に強い顔をしていた。
(魔導学院出身の本気顔……
たまに怖い……)
◆
一方その頃――
王都南区・住宅地の屋根の上。
イサナは、
昨夜の“金髪の青年”の残した揺れを単独で辿っていた。
(……早い。
揺れが、速い……)
青年は王都を移動し続けているらしい。
(人混みに紛れた跡……
でも、その裏で――
“外側”の揺れが濃くなるの、何?)
イサナは立ち止まり、
ある家屋の屋根を見下ろした。
(ここ……揺れが溜まってる)
ふっと目を細める。
(境界……?
でも違う……)
イサナは静かに飛び降りた。
◆
その家の裏庭は静まり返っていた。
花壇。
小さな井戸。
揺れる洗濯物。
(匂い……影じゃない)
(でも……人間の匂いでもない)
イサナが近づいた瞬間――
ピシッ……。
空間がわずかに“割れた”。
「ッ……!」
影の断片かと思ったが、違う。
(これは……
“残滓”……?
でも……こんな“個人の家”に……?)
イサナは慎重に杖を構える。
◆
「危ないよ?」
背後から聞こえた声に
イサナは反射的に身を跳ね上げた。
「……!」
振り返る。
花の影から現れたのは――
昨日の金髪の青年。
(……ここで……!)
「残滓に触れるのは危険だよ。
下手すれば“飲まれる”。」
青年は井戸の近くに歩み寄り、
その揺らぐ空気にそっと触れた。
「君も、気をつけないと。
境界の薄い場所ほど――
“君の匂い”は採られやすい」
イサナは杖を構えたまま言った。
「……どうして王都に?」
青年は肩をすくめる。
「理由?
もちろん――
“ソーマを迎えに来た”からだよ。」
イサナの胸がぐっと締め付けられた。
(昨日の言葉……
本気なんだ……)
「ソーマは……
あなたみたいな人に会わせない」
「イサナ。
君って、意外と独占欲強いんだね?」
「ちがう」
「違わないよ。
君は“彼の先を見ている”。
君の目はね……ずっと揺れてるんだ」
イサナは一歩も動かない。
青年は微笑んだ。
「でも、君が何をしても――
彼は“境界に呼ばれている”。
世界の向こう側からね」
「呼ばれてない!」
イサナは低く吠えた。
「呼ばれてるよ。
――それが“予報の正体”じゃないか」
イサナの呼吸が止まった。
(予報……
境界……
呼ばれている……?)
青年は静かに言った。
「君が守りたいのは理解できる。
でも“世界が選んだ揺れ”は止められないよ」
青年が手を伸ばす。
「だから――
ソーマくんをこちらに渡してほしい」
イサナは即答した。
「渡さない」
「だよねぇ」
青年は楽しそうに笑った。
「じゃあ――
力づく、かな?」
同時。
空気が爆ぜた。
イサナの足元から、
見えない揺れが突き上がる。
「ッ……!」
イサナは“残影歩法”で横に跳ぶ。
青年は追わない。
ただ静かに、
呟く。
「さあ、イサナ。
君がどこまで抗えるか――楽しみだよ」
揺れが一瞬止み、
次の瞬間、青年の姿は消えた。
残ったのは、
空間のわずかな“裂け目”だけ。
(……ソーマ……
絶対に渡さない)
イサナは震える指で杖を握りしめた。
◆
その頃、ソーマたちは――
図書院の調査を開始していた。
だがまだ知らない。
――イサナが、
すでに“敵”と戦っていることを。




