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異世界に来たのに、俺だけ「前世の天気予報」が聞こえる  作者: キュラス
第二章

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大聖堂の浄化と、巫女の視線

 王都レウェン中央区――

 白石で造られた巨大な礼拝堂がそびえ立つ。


 大聖堂〈グラン・サンクチア〉。


 王都のど真ん中にして、

 権威と信仰、そして“政治”が渦巻く場所。


 ソーマはその前に立った瞬間、

 胸がきゅっと縮みあがった。


「……高っ!!

 建物で人の心を圧迫してくるタイプだこれ!!」


「ソーマさん……

 声、大きい……」

 リュミが袖を引っ張る。


「ごめん……

 緊張して……」


 大聖堂の門は、

 まるで“こちらを試すように”

 重く閉じられていた。


 セシリアが軽く咳払いする。


「ここでの浄化は、特に“ソーマのため”よ。

 今のあなたには境界の揺れが残りすぎてる」


「残りすぎてるって何度も言わないで!?

 境界に落ちそうな人みたいじゃん俺!!」


「落ちかけたの昨日よ」

「やめて思い出させないで!!」


ガルムが肩を叩く。


「まあ、安心しろソーマ。

 神殿の浄化は“痛くない”らしいぞ」


「らしいってなに!?

 曖昧なんだけど!!?」


「俺は信仰ある方じゃねぇから詳しくは分からん」


「あんた、ただのお湯の方が神聖だと思ってるだろ」


「風呂は神だ」


「はいはい」


 セシリアに連れられ、

 三人は大聖堂の中へ足を踏み入れた。


 中は静寂そのもの。


 天井は高く、

 色ガラスから差し込む光が揺れている。


 そして――

 その中心に、

 白いローブの女性が立っていた。


 大聖堂の頂点、大神官マリエル。


「ようこそ、天象庁の方々」


 彼女の声は柔らかなのに、

 なぜか背筋が寒くなる不思議な響きだった。


(……やばい、これ絶対ただ者じゃない人だ)


ソーマは直感で悟った。


 マリエルはまずリュミへ視線を向ける。


「……ヴァルフォルテ家の血……

 また巡り合うとは」


リュミの肩がぴくりと揺れる。


「ご無沙汰、しております……

 マリエル様」


「あなたが辺境に配されたときは、

 胸が痛んだものです。

 いまは……“必要とされる場所”にいるようですね」


「は、はい……」


(リュミ、そんな緊張するの珍しい……)


 マリエルの視線がソーマへ移る。


「……あなたが“予報持ち”」


「はい……相馬ソーマ、です」


「境界に触れ、

 それを押し返した……と聞きました」


「押し返したというか……

 押してくれたのは皆で……

 僕はその、鍵みたいな……?」


「“鍵”」

 マリエルは興味深そうに目を細めた。


「え、あの……その呼び方やめません?

 物っぽいんですけど……」


「ふふ、失礼。

 ですがあなたの揺れは――

 人の形ではなく“門の残光”に近い」


「門の!?!?

 セシリアさんこれ絶対難しい話来ますよね!?」


「落ち着きなさい。

 この人は基本全部難しい話しかしないのよ」


「最悪じゃん!!」


 ガルムがぼそっと言う。


「マリエル様は悪い人じゃねぇよ。

 目つきが鋭いだけで」


「いやガルム、あの人目つき鋭くないよ!

 雰囲気が怖いの!!」


「雰囲気も悪くねぇよ」


「悪いわよ!!

 ラスボスみたいで!!」


「やめなさい」

 セシリアが肘で小突く。


 マリエルは微笑んで歩み寄る。


「ソーマ。

 あなたの心に残る“境界の揺れ”を

 ここで一度、解きほぐしましょう」


「と、解きほぐす……?」


「痛みません。

 ただ……心が少し、軽くなるだけ」


「心が軽くなる……

 それ、怪しい勧誘とかの常套句……」


「ソーマさん」

 リュミが両手でソーマの肩を押した。


「大丈夫です。

 わたしも手をつなぎますから」


「え……

 じゃあ……大丈夫かも……」


(……いや何の安心だこれ……!?

 でも安心する……!!)


 マリエルは静かに祈りの姿勢を取る。


「始めます。

 《意識鎮め(いしきしずめ)の祈祷》」


 光がゆらりと膨らみ、

 空気が柔らかく振動した。


 ソーマの胸の奥に残っていた重石が

 ゆっくりとほどけるように軽くなる。


(……あれ……?

 なんか……呼吸が楽……)


 昨日の“境界落ちかけ”の感覚が消えていく。


(これ……すごいな……)


 だが――

 マリエルの指先が

 ふっと震えた。


「……?」


ソーマは気づかなかったが、

セシリアとリュミはよく見ていた。


(……揺れた?

 マリエル様が?)


マリエルは祈祷を終えると、

静かに手を離した。


「……不思議ですね」


「な、何がですか?」

 ソーマが目を丸くする。


「あなたを包む揺れ……

 “外側”の残響がまだ抜けない」


「え!?

 いま浄化したのに!?」


「ええ。

 普通の揺れなら、いまの祈祷で完全に消えるはずです」


 マリエルはソーマの胸元を見つめる。


「あなたの揺れは……

 “二つの世界”にまたがったまま。

 これは――非常に珍しい状態」


ソーマが震える。


「な、なんか……

 また物騒なフラグ立ってる!?!?」


「でも安心して」

 マリエルは穏やかに微笑んだ。


「あなたは、“どちらにも属しきっていない”。

 だからこそ、どちらにも引かれすぎない」


「え?

 それって……いいの?

 悪いの?」


「ふふ。

 “世界渡りの端に立つ者”としては良いことです」


「世界渡り!?!?」


「落ち着けソーマ」

 ガルムが押さえる。


「マリエル様はいつも言葉が重いんだよ」


「重すぎるよ!!

 レベル100の重さだよ!!」


マリエルは笑った。


「いずれ分かります。

 境界を閉じた者は、

 いずれ境界と向き合う時が来るもの」


「向き合いたくない!!

 境界嫌い!!」


「言い切るな!」

 セシリアが止める。


 祈祷を終えた三人が出口へ向かおうとしたとき――


マリエルは、

ただ一人、リュミを呼び止めた。


「リュミ・ヴァルフォルテ」


「……はい」


「あなたの“背の紋”が――

 昨日より、強く光っている」


リュミは肩を震わせた。


「そ、それは……

 その……作戦で同調を使いすぎて……」


「違います」

 マリエルは静かに言う。


「あなたの紋は“未来の脈”に反応している。

 近いうち……

 “選択”に関わるかもしれません」


「選択……?」


「あなたと、ソーマ。

 二つの揺れが重なる未来。

 その先に――」


そこまで言って、

マリエルは口を閉じた。


「……いえ、今は言いません。

 揺れは常に揺らぐものです」


リュミは青ざめたまま、

ゆっくりと頷いた。


 大聖堂を出ると、

 軽い風が吹き抜けた。


「リュミ、大丈夫?」

 ソーマが覗き込む。


「だ、大丈夫です……

 ちょっと、緊張してしまっただけで……」


「無理すんなよ……?」


「無理してません。

 ソーマさんが側にいると……

 怖いの、減りますから」


ソーマの顔が真っ赤になる。


「やめて!?

 だめだそういうのは!!」


「え?」

「俺の心臓がもたない!!」


リュミはぽかんとしたあと、

くすっと微笑んだ。


その頃――

大聖堂の裏手。


屋根の上で、

イサナがソーマたちをじっと見下ろしていた。


(浄化、終わった……)


(……良かった)


だが、違和感。


リュミの背の紋が微かに光った瞬間――

イサナの表情がわずかに曇った。


(……紋が、反応した)


(やっぱり……

 “あの青年”は……)


風が揺れた。


イサナの瞳も揺れる。


(ソーマに近づけちゃ――だめ)


彼女は、

静かに屋根の影へ消えた。

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