敵か味方か、金髪の青年
翌朝。
王都の空は淡く晴れ、
昨夜の疲労感が嘘のように柔らかい光が差していた。
が――
部屋の空気は重かった。
「……ソーマさん、寝れました?」
リュミが心配そうに顔を覗き込む。
「多少ね……」
ソーマは頭をかく。
「イサナが屋根で寝てる音が聞こえてきて……
何回か窓開けて見に行った」
「何やってるんですか!」
リュミが呆れたように笑う。
「いやだって落ちるかと思って……」
「イサナさん落ちないですよ」
「そうなんだけどさ!」
「落ちるのはソーマさんだけです」
「なんで俺だけなの!?」
◆
そこへ、
ガルムが食パンをくわえながら入ってきた。
「おーい、朝飯の時間だぞ!!
パン争奪戦開始だ!!」
「お前も落ち着いて食え!!!」
ソーマがツッコむ。
「宿舎の朝パンは戦いだからな」
ガルムは真面目に言う。
「なんだよその伝統……」
「まあまあ、朝ごはん行きましょう」
リュミが笑って歩き出す。
◆
朝食広間はいつもよりざわついていた。
職員たちの会話には
昨夜の“王都揺れ”の噂が混ざっている。
「中心部で“呼び声”みたいなのがあったらしいぞ」
「境界揺れの残滓が……?」
「まさかまた異常が……」
ソーマが肩をすくめる。
「噂のスピード、早すぎない……?」
「昨日の峠の件、もう市街に出てるからね……」
リュミが小声で答える。
「うわー……
有名になりたいわけじゃないのに……」
「大丈夫ですよ。
ソーマさんは“みんなを救った人”です」
リュミの微笑みに、ソーマは耳を赤くした。
「そういう言い方やめろ、照れる……」
「事実ですから」
リュミはほんわか笑った。
◆
パンを3つ抱えて帰ってきたガルムが座る。
「よっしゃ!!
争奪戦勝利!!」
「買えよ」
ソーマが冷静に言った。
「この宿舎では“早い者勝ち”が文化なんだよ」
「文化を理由にするやつ強いな!?」
◆
そこへ、セシリアが現れた。
寝不足の目をこすりつつ、
手には分厚い資料。
「ソーマ、リュミ、ガルム。
今日の予定、確認しておきましょう」
「セシリアさん……
パンは?」
リュミが尋ねる。
「……負けた」
「負けたんだ!?」
「競争率……高いな……」
◆
セシリアが資料を広げる。
「今日から“王都中心部の揺れ調査”を行うわ。
セイルさんから正式に依頼が下りた」
「昨日イサナが言ってたやつか……」
「そう。
問題は“揺れの持ち主が人間に近い”って点」
ソーマの安眠が一瞬で飛ぶ。
「……え、それってつまり……
魔物じゃなくて……?」
「可能性としては、
“人間に混ざっている異質”よ」
「異質……」
ソーマの喉がごくりと鳴る。
(昨日イサナが言ってた“人間に近い影の匂い”……
あれが本当だとしたら――)
「そいつはどこへ向かったんですか?」
ガルムが問う。
「まだ詳細は不明。
ただ、中央通りを北方面へ歩いて行ったという目撃情報が数件」
「中央通りの北って……」
ソーマは自然と嫌な予感がした。
「王都の……
施設多くない?」
「そうね」
セシリアが指を折る。
「神殿。
王立図書院。
王家直轄の魔導学院。
そして……」
「王城か……」
ソーマが息を詰める。
(やめてほしい……
“王家絡み”とか……
絶対ろくなことにならない……!)
◆
「その揺れの持ち主、
王都に潜む“境界要因”の可能性があるわ」
「境界要因……?」
リュミが首を傾げる。
「簡単に言うと――
“世界外の揺れを持ち込んでる存在”ってこと」
「おいおい……
そんなやつ王都にいたらヤバいだろ……」
ガルムが眉をしかめる。
「だから、見つけなきゃいけないのよ」
◆
そこへ――
コン。
扉が静かに叩かれた。
「……イサナか?」
ソーマが開けると、
やはりイサナが立っていた。
「……おはよう」
「おはようじゃなくて!
屋根から落ちなかった!?!?」
「落ちない」
「結論が速いんだよ!!」
イサナは部屋に入り、
静かに座る。
そして――
昨日よりも警戒心の宿る瞳でソーマを見た。
「今日の調査、
私も行く」
「もちろんだよ」
ソーマは頷いたが――
イサナの表情に、
いつも以上の“硬さ”がある。
(……後ろめたい何かがある顔だ……)
ソーマは気づいていた。
(何か隠してる……
でも……今日は聞かない方がいい)
◆
全員が準備を整えたところで、
セシリアが立ち上がる。
「今日の第一目的は“異常揺れの追跡”よ。
でも、その前に――」
「前に?」
ソーマが首をかしげる。
「あなたたち三人……
揺れに過敏な子が一人……」
「?」
ソーマ、ガルム、リュミは首をかしげる。
セシリアはゆっくり告げた。
「――神殿で“揺れの浄化”を受けておくべきだわ」
「じょう……か……?」
ソーマの顔がひきつる。
「今、ソーマには“境界の揺れ”が残ってるのよ。
そのまま調査に出ると引っ張られる危険がある」
「あっ……!!」
(昨日……意識が薄れたやつ……)
「というわけで、
まずは大聖堂へ行くわ」
セシリアが言った瞬間――
イサナがぴたりと動きを止める。
「……大聖堂」
その声音には、
普段の淡々さとは違う
露骨な拒絶 があった。
(……イサナ?)
ソーマが不安げに見ると、
イサナは目線を逸らした。
「……行きたくない」
「イサナ?」
リュミが心配そうに寄る。
「どうしたの?
怖い場所があるなら――」
「怖くない」
イサナは即答した。
けれど声には――
はっきり “痛み” が混じっていた。
「……行きたくないだけ」
セシリアが静かに眉を寄せる。
「イサナ、無理強いはしないわ。
あなたは別行動でもいい」
イサナは少しだけ迷い……
そして短く頷いた。
「……別で、揺れを探す」
(……大聖堂……
イサナにとって、何なんだ……?)
ソーマの胸に、
新たな疑問と不安が湧いた。
◆
こうして――
ソーマ・リュミ・ガルム・セシリア → 大聖堂(浄化)へ
イサナ → 単独で王都の揺れ追跡
という二手に分かれて、
王都調査が始まる。
そしてその裏で――
昨日の金髪の青年は、
王都のどこかで静かに呟いていた。
「さあ、ソーマくん。
次は“君の番”だよ」




